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気遣い過多の看板 -後世に残したい過剰表現- #053

近所の道路の看板に、こんな説明があった。

「当店はニトリ様とセブンイレブン様の間です」

丁寧すぎやしないか。

日本には謙遜の美徳、素晴らしい謙譲の文化や敬語表現があるが、企業名にまで「様」をつけるのは気遣い過多ではないか、と私は思った。

別の看板の地図でも、企業名や店名すべてに「様」がついていた。その看板を出しているお店からすると、他の企業やお店を呼び捨てにするのは失礼にあたると思ったのかもしれない。しかし情報量が多すぎて案内図が見づらくなっている気もする。

いや考えてみるに、ある意味ではこんなエッセイを書きたくなってしまうほど印象には残っているから、広告としての役割は十分果たしている。少なくとも私にとって。

「お客様、当社は丁寧すぎる企業で御座います」という姿勢を伝えたいのかもしれない。

少しくだけて「さん」はどうか?

「当店は、ローソンさんの300メートル先です」

親しみが増している。そのお店とローソンさんはきっと友達や同僚である。


「うちは、ファミマちゃんの向かいだよ」

幼馴染だ。「ちゃん」なので、もしかしたら業界人かもしれない。

「デニーズっつぁんの裏でごわす」

力士が道案内をしている。

「殿」はどうだろうか。

「拙者どもは、ロイヤルホスト殿の隣に御座る」

ぜひ行ってみたい。「午の刻、着物にて参上つかまつる」と言ってみたくなる。

「某(それがし)、ニトリ先生と、セブンイレブン先生の間に居ります」

商いの極意を学び合うよい師弟関係が垣間見える。


そういえばコンビニなどで以前から気になっている表現がいくつかある。

まずは「~円のお釣りになります」だ。

「なります」は何か変化が起きているときに使う言葉だから、よく言われることだが「100円のお釣りです(お返しです)」の方が私はしっくりくる。

でもセルフレジになり、お釣りが自動で出てくることが多くなると、その過剰に丁寧な感じのする「なります」が聞きたくなるから不思議である。

ラーメン屋で「こちらが味噌ラーメンになります」と言われると、いろいろな原材料や食材から、苦労の末に味噌ラーメンに「成った」んだろうなぁと想像して、私はなんだか勝手に感慨深い。味噌ラーメンも誇らしいに違いない。心して頂戴しよう、という気持ちになる。

もう一つは「2番目にお待ちのお客様どうぞ」だ。

店員からすると現在会計している人が1番目、待っている人が「2番目」だ。しかし、待っている側からかすると先頭の自分は「1番目」だ。「お次にお待ちのお客様どうぞ」でいい気がする。

「5番目に、お待ちのお客様、どうぞ」
「え? …私、ですかね?」
「…そうですね。あなたが5番目ですからね」
「…」

客の間に動揺と目配せが広がっている。「どうぞ!」と店員は笑顔である。

こういうことを妄想しながら待っている私はついぼんやりしていて、店員に呼ばれても気づかないのである。

(追記1)
私たち夫婦は大食いユーチューバーのしのけんさんを好きでよく観ているのだが、彼は「カレーパソ」のように「ン(ん)」を「ソ(そ)」にしするなど結構ネット用語を使っていて、語彙が面白い。しのけんさんはどの企業やお店にもリスペクトを失わず、関西アクセントで企業名に「様」をつける。「バーガーキング様」「すき屋様」「やよい軒様」の「様」は「さ↑ま↓」という発音でとてもいい。

(追記2)
そういえば病院などで「患者様」と呼んだり、顧客やクライエントを「クライエントさん」と呼ぶのもなんだか過剰に丁寧すぎる気がしている。呼ばれた時にはなんか持ち上げられすぎて落ち着かない。

(追記3)
意味は全くないが「35円の成増」という言い回しが浮かんだ。成増(なります)は東京都板橋区の地名である。電車では「次は、成増になります」とアナウンスするのだろうか。

2024年11月23日執筆、2024年11月29日投稿

「つなまよの止まらない妄想」
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