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ケアマネジャーは誰の味方か?(12)~介護保険部会の意見書を読み解く・続編~

ニッセイ基礎研究所主任研究員
三原岳

本コラムの第1回では、ケアマネジャー(介護支援専門員)を取り巻く環境を俯瞰する図を示しつつ、第2回第3回ではケアマネジャーに期待される「代理人」機能を考えることで、多職種連携の必要性を指摘しました。さらに、第4回第5回はインフォーマルケアを巡る話題、第6回は介護サービス事業者との関係で生じる「公正中立問題」、第7回第8回第9回は市町村との関係を考察しました。

第10回から少し表題とズレる面が出て来ますが、2024年度制度改正を占うため、介護保険制度の現状を概観し、第11回は懸案を先送りした社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会の意見書を読み解きました。第12回も続編として、負担と給付の見直しを中心に論点を見ていきます。


2割負担の対象者拡大、多床室の引き上げ

最初に、前回の「復習」ということで、今回の制度改正の論点と、2022年12月末に示された介護保険部会の意見書の内容を概観します。

次期制度改正論議のうち、負担と給付の見直しに関する論点
出典:内閣府、厚生労働省資料を基に作成

今回の制度改正では図表の通り、(1)居宅介護支援費の有料化、(2)軽度者向け給付の見直し、(3)2~3割負担の対象者拡大、(4)多床室料の負担見直し――という4つのテーマが浮上したのですが、全て結論が先送りされました。

このうち、(1)(2)は第11回で述べた通り、2027年度にも予定されている次の次の制度改正に先送りされました。今回は残りの3~4点目に触れたいと思います。

まず、3点目では2~3割負担を定める所得基準の見直しが焦点となりました。皆さんもご存知の通り、介護保険制度では所得にかかわらず、1割負担が採用されていましたが、2015年度改正で2割負担、2018年度改正で3割負担が導入されました。

この基準は現在、本人所得220万円以上の場合は3割負担、同160万円以上220万円未満は2割負担に設定されています(そのほかにも細かく基準が決まっています)。この基準を下げることで、2~3割負担の対象者を広げれば、給付を抑制できるという判断です。

しかし、部会意見では賛否両論を示した上で、2割負担の対象者拡大に関しては、「後期高齢者医療制度との関係、介護サービスは長期間利用されること等を踏まえつつ、高齢者の方々が必要なサービスを受けられるよう、高齢者の生活実態や生活への影響等も把握しながら検討を行い、次期計画に向けて結論を得ることが適当」とされました。

ここの文言では、様々な意味が込められていると考えられます。まず、「後期高齢者医療制度との関係」では、75歳以上の後期高齢者の高所得者を対象に、2022年10月から患者負担が2割に引き上げられており、整合性が意識されたと思われます。

さらに、今年の通常国会で法改正が予定されている医療保険制度改革でも、後期高齢者の保険料上限を引き上げることになっており、こちらも意識されたと思われます。

つまり、介護だけでなく、医療でも高齢者の負担増を求める議論が進んでいるため、負担増の議論が一時期に集中したり、特定の所得階層に負担が集まったりする事態を避ける狙いが込められていたと言えます。

次に、「介護サービスは長期間利用されること」という部分では、介護サービスの特性を意味しています。つまり、治療や検査が終われば費用を負担せずに済む医療と異なり、介護では要介護認定を受けるとサービスを使い続けるケースが多く、利用者負担の引き上げは高齢者世帯の家計を圧迫する可能性があります。

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