見出し画像

ケアマネジャーは誰の味方か?(8)~地域ケア会議の在り方を考える~

ニッセイ基礎研究所主任研究員
三原岳

今コラムの第1回では、ケアマネジャー(介護支援専門員)を取り巻く環境を俯瞰する図を示しつつ、本コラムの目的として、ケアマネジャーやケアマネジメントの「あるべき姿」から考える必要性を指摘しました。第2回ではケアマネジメントやケアマネジャーが創設された経緯を振り返りつつ、「代理人」の機能が期待される点を論じました。

第3回では代理人機能を深堀することで、多職種連携の必要性を指摘し、第4回第5回はインフォーマルケアを巡る話題、第6回は介護サービス事業者との関係で発生する「公正中立問題」、第7回はローカルルールを中心に、市町村との関係を考察しました。

第8回も、「地域ケア会議」を素材にして、ケアマネジャーと市町村の関係を取り上げたいと思います。


地域ケア会議とは何か

まず、今回のメインテーマである地域ケア会議について考えます。これは埼玉県和光市の事例を参考に、2015年度制度改正で各市町村に設置が義務づけられた会議です。その機能としては、①個別課題の解決、②支援ネットワークの構築、③地域課題の発見、④地域づくり資源開発、⑤政策形成――の5つが挙げられています。さらに図表1の通り、地域包括支援センター単位と自治体レベルの会議を作ることも想定されています。


図表1:地域ケア会議のイメージ
出典:厚生労働省資料を基に作成

ただ、地域ケア会議の運用は自治体ごとに異なります。ここでは、現場で多く見掛ける「現場あるある」の事例をベースに、地域ケア会議の役割を考えます。

仮にX市Y地区に住む「認知症が急激に進行した一人暮らしのAさん」「要介護認定後、身体機能が落ちたBさん」という2つの事例で考えると、①で示した「個別課題の解決」では医師や看護師、ケアマネジャーなどの多職種が連携しつつ、AさんやBさんの課題解決に力点が置かれます。

次に、②で挙げた「支援ネットワークの構築」では、地域ケア会議での議論を通じて、ケアマネジャーや医師、看護師などが連携できる関係性を構築していくことが重視されています。

ここまでの機能については、ケアマネジャーを中心に、本人や多職種がケアプランの中身を協議する「サービス担当者会議」と重複していますが、③で掲げた「地域課題の発見」が地域ケア会議の特徴と言えます。例えば、AさんとBさんの事例を比較することで、高齢者の外出機会が少ないという共通点を見出し、そこから「Y地区の周辺に外出できる場が少ない」「Y地区の中央部を走る道路の歩道が狭い」といった地域の課題を抽出することが期待されています。

その上で、④の「地域づくり資源開発」では高齢者の外出機会を増やすようなサークル、認知症カフェなどをY地区で作ることが目指され、⑤の「政策の形成」では外出機会を増やす場をX市全体に広げたり、Y地区を走る道路の側道を改善したりするための提言などが期待されています。 


各自治体で異なる目的や運用

しかし、先に触れた通り、実際には市町村ごとに大きく運用が異なり、会議の形態や運営方法、役割などを一概に説明できない面があります。例えば、奈良県生駒市の地域ケア会議は、▽身体的自立を促す自立支援型ケアマネジメントの検討会議、▽認知症事例の課題検討会議、▽地域課題の検討会議、▽個別事例の検討会議――という4つに分かれています。

大阪府寝屋川市の地域ケア会議では、介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)の「サービスC」を絡める形で、3カ月程度の集中的なリバビリテーションを通じた身体的な回復に力点が置かれています。

一方、愛知県豊明市の地域ケア会議は個別事例をベースに、多職種が相互に学び合ったり、連携方策を検討したりすることに力点を置いており、ケアプランの変更は全く想定されていません。

こうした地域差が大きい状況では、地域の実情に応じた対応が自治体ごとに取られるメリットがある半面、地域ケア会議という場を有効に使えていない危険性にも留意する必要があります。

実際、国の委託調査では、市町村が地域ケア会議を開催しても、地域課題の抽出・整理、内容の振り返りを不得手としている傾向が見て取れます(日本総合研究所「地域ケア会議に関する総合的なあり方検討のための調査研究事業報告書」)。図表2の赤い線で囲った部分です。


図表2:地域ケア会議に関する市町村の運用
出典:日本総合研究所(2020)「地域ケア会議に関する総合的なあり方検討のための
調査研究事業報告書」を基に作成

筆者みたいな素人から見ると、「地域課題の抽出・整理は地域ケア会議のキモだし、会議を開いても振り返りをやらないなんて一体、何のために会議を開いているのか」と突っ込みたくなるのですが、複数の市町村関係者に聞くと、開くことが目的になっているケースも少なくないようです。しかも、図表2は市町村の自己評価なので、客観的に見れば、もっと上手く行っていないと思われます。

ここから先は

1,746字 / 1画像

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?