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ケアマネジャーは誰の味方か?(7)~なぜ市町村が保険者なのか~

ニッセイ基礎研究所主任研究員
三原岳


今コラムの第1回では、ケアマネジャー(介護支援専門員)を取り巻く環境を俯瞰する図を示しつつ、
本コラムの目的として、ケアマネジャーやケアマネジメントの「あるべき姿」から考える必要性を指摘しました。
第2回ではケアマネジメントやケアマネジャーが創設された経緯を振り返りつつ、「代理人」の機能が期待される点を論じました。
第3回では代理人機能を深堀することで、多職種連携の必要性を指摘し、
第4回第5回はインフォーマルケアを巡る話題、
第6回は介護サービス事業者との関係で発生する「公正中立問題」を取り上げました。

第7回以降は市町村との関係を考えます。


なぜ市町村が保険者なのか

皆さんが普段、専ら業務で接点を持つ市町村は保険者、つまり保険制度を運営する主体として、介護保険の財政運営などについて責任を負っています。

(複数の市町村で組織する広域連合が保険者のケースもありますが、ここでは市町村で統一します)

しかし、市町村と付き合う上で、色々な地域差に直面されているかもしれません。例えば、65歳以上の高齢者に課される保険料とか、高齢者人口に占める要介護認定率は結構、市町村ごとに差があります。

さらに、申請書類の書式とか、提出する書類の種類が自治体ごとに異なるといった運用の違いもあります。いわゆる、自治体独自の「ローカルルール」であり、この実態は少しだけ明らかになっています。

例えば、特別養護老人ホームなどを運営する事業者で構成する全国老人福祉施設協議会(以下、老施協)は2019年2月、「介護職員処遇改善加算の書類」「介護従事者に対する聞き取り」「報酬請求文書の保存期間」について、図表1のようなローカルルールを指摘しました。

さらに、「訪問介護の前後に連続して自宅で保険外サービスを提供するサービス利用」に関しても、ローカルルールの存在が国の委託調査で明らかになっています(日本総合研究所「介護保険サービスと保険外サービスの組合せ等に関する調査研究事業報告書」)。

具体的には、「訪問介護と保険外サービスの区分・区切りが明確となるような提供手順・方法とすること」を求めている団体が95%を超えており、「区分・区切り」を明確にするための指導・助言として、図表2のような結果が明らかになっています。これを見ると、「利用者に丁寧に説明を実施し、別のサービスであることを十分に理解させる」「文書として時間の記録を残し、区分を確認できるような手順を取る」という回答が7割以上に及んでおり、それ以外でも「エプロンを付け替える」「一度、外に出る」という一見するとバカバカしい回答も見て取れます。

こうした違いや煩雑な手続きに直面すると、「国で一律にルールを決めたらいいじゃないか」と思われるかもしれません。 

実際、ローカルルールの存在は事業者の負担を増やす「規制」の一つと見なされており、今年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」では、
▽ローカルルールの是正、透明化に向けた窓口の設置、
▽ローカルルールの明文化、
▽厚生労働省が自治体による独自ルールを調査・集計し、定期的に公表
――といった改善の方針が盛り込まれています。

そうなると、「なぜ市町村に保険者を任せたのか」「なぜローカルルールが生まれるのか」といった点を深堀する必要があります。
以下、介護保険制度創設の経緯に立ち返りつつ、市町村を保険者にした理由を考えて行きます。


最初から市町村にするつもりだったが……

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