ケアマネジャーは誰の味方か?(10)~介護保険制度の現状を概観する~
ニッセイ基礎研究所主任研究員
三原岳
第1回では、ケアマネジャー(介護支援専門員)を取り巻く環境を俯瞰する図を示しつつ、本コラムの目的として、ケアマネジャーやケアマネジメントの「あるべき姿」から考える必要性を指摘しました。第2回ではケアマネジメントやケアマネジャーが創設された経緯を振り返りつつ、「代理人」の機能が期待される点を論じました。
第3回では代理人機能を考えることで、多職種連携の必要性を指摘し、第4回、第5回はインフォーマルケアを巡る話題、第6回は介護サービス事業者との関係で発生する「公正中立問題」、第7回はローカルルール、第8回、第9回は市町村との関係を考察しました。
第10回から少し表題とズレる面が出て来ますが、介護保険制度の現状を概観したいと思います。
給付抑制と負担増の議論が絶えない理由
皆さんもご存知の通り、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会では、3年に一度の介護保険制度改正に向けた議論が展開されています。その論点として、▽軽度な要介護者を対象とした給付の見直し、▽相談やサービスの調整などを行うケアマネジメントの有料化、▽比較的所得の高い高齢者の自己負担引き上げ――などの是非が挙がりました。
いずれも前回の制度改正でも焦点となり、見送られたテーマですが、こうした給付抑制や負担増の議論が後を絶たない背景には、介護保険を巡る財源、人材の制約条件が厳しくなっていることがあります。
次期制度改正の内容は次回以降に回すとして、給付抑制や負担増の議論が絶えない背景として、ここでは財源、人材という「2つの不足」を指摘したいと思います。言わば財源と人材が厳しい制約条件となり、介護保険給付の縮小を招いていると言えます。
このうち、財源の制約条件に関しては、高齢者に課される介護保険料の上昇に起因しています。高齢者の保険料は3年に一回の頻度で市町村が設定しており、全国平均の月額保険料は6,014円。実際の保険料の負担水準は居住市町村や所得に応じて違いますが、算定の基準となる保険料の月額平均額は図表1の通り、2000年の制度創設時は2,911円だったことを考えると、2倍以上に上がった計算になります。
この背景には高齢化に伴う要介護者と費用の増加があります。介護保険の総費用(自己負担を含む)は制度創設時の約3.6兆円から2020年度までに約11兆円に増えました。一方、介護保険の財源構造は図表2の通り、約4分の1を高齢者の介護保険料で賄っており、費用の増加が高齢者に課される保険料の上昇要因となっています。
さらに、この保険料は基礎年金からの天引きであり、基礎年金の平均支給額が約5万円であることを勘案すると、一層の引き上げは難しいと判断せざるを得ません。実際、当時の厚生省(現厚生労働省)では、保険料の上限の目安として、「5,000円」が意識されていたとされます(中村秀一『平成の社会保障』)。
これが正しいとすると、既に目安は突破していることになり、だからこそ3年サイクルで実施される介護保険制度改正では毎回、制度の持続可能性を図る観点に立ち、負担増や給付抑制が模索されているわけです。
なお、介護業界の一部では、市町村の介護保険財政が黒字であることを理由にして、「財政難は存在しない」というトンデモ議論が出ていますが、第7回で述べた通り、介護保険制度の創設では、保険者(保険財政の運営者)を市町村に担ってもらう際、市町村が財政上の不安を理由に難色を示したため、赤字が出ないように制度設計されています。
このため、一定程度の黒字額が出ても不思議ではなく、収支だけで「財政難は存在しない。だから給付抑制や負担増は不要」とは言い切れません。
より深刻な人材不足
さらに、輪を掛けて深刻なのは人材不足の問題です。厚生労働省の試算によると、図表3の通り、2040年には約70万人の介護職員が不足するとされています。70万人とは、高知県(約68万人)の人口と同じぐらいの規模になります。
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