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20240701 イラストエッセイ「私家版パンセ」 0024 「人間は死すべき存在であるということが、人間讃歌である理由」

 ギリシャ悲劇は、主人公たちが悲惨な目に会う、文字通り悲劇です。そしてその根底にあるのが、「人間は死すべき存在である」ということ。不死なる神々に対して、人間は死ななければならない有限の存在。その人間が神々に挑戦し、破れて滅びて行く。これが悲劇の本質です。
 ところが、ニーチェは、この悲劇が人間讃歌だというんですね。

 その理由は、悲劇は有限の存在である人間にしか存在しえないから。
 もし人間が神々のように不死だったら、苦しみや悲惨は存在せず、あらゆる出来事が茶番、喜劇になってしまう。そのような世界においては、命がけ、ということが存在せず、したがって「偉大」もない。一生懸命がない世界なんです。
 悲劇は人間の特権なんですね。人々が悲劇に感動するのは、限られた生を燃やし尽くすパトス(情熱)がわれわれの胸を打つからです。
 それがニーチェがギリシャ悲劇を人間讃歌と呼んだ理由です。

 現在の医療の最先端の課題は、不老不死だそうです。
 不老不死はおそらく退屈な世界になるでしょうね。命がけの悲劇のない、娯楽(時間つぶし)と喜劇の世界。
 東洋にも、無常という考え方があります。人間の生も含めて万物は過ぎ去ってしまうもの。だから「一期一会」のように、日々を感謝して大切な気持ちで生きる。この感覚も、有限性の中でしかありえないものです。
 死があるからこそ、このように日々をいつくしむ気持ちも、他者へのあわれみも、いつくしむ気持ちも生まれるのだと思います。美もそこから生まれます。
 まさに、人間が死すべき存在であるということが、そのまま人間讃歌になっているとは、こういうことなのだと思います。

ギリシャ悲劇の仮面 ギリシャ悲劇は仮面劇でした





私家版パンセとは

 ぼくは5年間のサラリーマン生活と、30年間の教師生活を送りました。
 たくさんの人と出会い、経験と学びを得ることができました。もちろん、本からも学び続け、考え続けて来ました。
 そんな生活の中で、いくつかの言葉が残りました。そんな小さな思考の断片をご紹介したいと思います。
 これらの言葉がほんの少しでも誰かの力になれたら幸いです。

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