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手首に包帯、愛は呪い

また、ここに帰ってきてしまった。そんな感覚が全身を襲う。うつが手招きしてわたしを抱きしめる。今日もわたしは深海に沈んでゆく。

季節が秋の香りを漂わせはじめる変わり目。風の匂いが変われば、わたしのこころは冷えてゆく。どうして?ばかりが頭に浮かぶ人生で、ただ食いしばることしかできない毎日。苦しいと叫びたいのに叫ばせてくれないこの世界は、どこまでも狂っている。

満月が光る夜、わたしも月に吠えれば楽になるのだろうか。わたしも獣になれれば、ヒトを捨てられれば。そんなことを想う時点でわたしはどうしようもなくにんげんで。馬鹿みたいだ、と一人笑ってしまう。

自分をいくら傷つけても前に進むことはない。人生が変わることも、アイツが変わることも
世界が変わることもないんだよ。わかっていても苦しくて、傷だらけの心がちゃんと見えるように、からだに傷をつけそうになる。

親を捨てられない、のだ。あんなに傷つけられたのに、今も傷つけられているのに。毎日毎日、わたしを苦しめているのはあの人たちなのに。

それでもね、愛された記憶がわたしをどこまでも狂わせるんだ。あの日抱きしめてくれた笑顔が、一瞬でもあった団欒が、わたしの心をどこまでも支配する。たまに見せる悲しい顔に、わたしのこころは簡単にふやけてしまう。何度傷つけられても、何度失望しても、愛という呪いにかけられたまま。この呪いは永く解けそうにない。

昔から物を捨てられなかった。大して大事にもしていなかったのに、捨てろと言われるたびに「まだ使えるもん!」と駄々をこねた。まだ使える、いつかは使う。そんな見えない未来ばかりを望んで、過去を切り捨てることを嫌った。同じように家族が、いつか愛してくれると思っているのだろう。馬鹿みたいにわたしは変わらず、幼いままだ。

変われ、と人から言われる。辛いなら切り捨てればいいとも。苦しい苦しいと言ってばかりのわたしに呆れ返る人たちも多い。なんにも変われず、ただ文句を言い続けているだけのように映るのだろう。

でもどうか、なにもかも捨てられないことを責めないでほしい。わたしの心がズタズタになっても、わたしが必死で笑っていることを責めないでほしい。わたしは、捨てられないものも、呪いも、ぜんぶひっくるめて愛したいと思ってしまうから。

わたしが前に進んでいないよう見えても、わたしは毎日生きている。息をして、心臓を動かして、鼓動で生を刻んでいる。それだけできっと、わたしはもう前に進んでるって思いたいんだ。毎日死にたい気持ちと闘ってるだけで、どうか、褒めてくれないかなあ。何も捨てられなくても、何もできなくても、生きてるだけで褒めてくれないかなあ。そううまくはいかないか。

でも、わたしはあなたのことを褒めて、褒めて、愛するよ。あなたが何も見捨てられなくて、あなたが傷ついてばかりで、ひとの痛みばかりが分かってしまって自分の痛みには鈍感で、それでも自分を責めてしまうあなたを。あなたの今日という日を、生き様を、ただ愛してるよ。

ほんとうにえらいね、頑張って生き延びてくれたね。今日という日まで、ひたすら生きることをやめずにいてくれてありがとう。あなたが生きる今日は、ほんとうに美しくて、それはどんな絵画にも勝るんだよ。どんな記念日よりも、大切な今日なんだよ。

ありがとう、ほんとうに。生きててくれて、ありがとう。あなたがあなた自身に向けてしまう刃も、あなたが変われないことも、ぜんぶ、ぜんぶ、いいんだよ。だって、今日を生きてるんだもん。1時間後には死んだっていいよ、でも今この瞬間まで生きる選択をしてくれてほんとうにありがとう。

わたしはあなたを救えないし、わたしはあなたの今日までを知らない。でも、わたしたちが知り合えた今日が記念日で、わたしたちはお互いに愛を贈り合えることがなにより素晴らしくて。

そう思ったら、呪いたかった月も美しく見えるから不思議だね。泣きながら笑っているよ、今、わたし。

あなたが生きることに傷つき続けて、疲れて死にたくなって、愚痴を少しこぼせば責められて。誰も分かってくれない最低なこの世界でも、わたしとあなただけはお互いに包帯を巻き会おう。傷だらけの左腕に、傷だらけの心に。

ことばでしか伝えることができないけれど、愛を何度だって贈るから。たくさんハグをしよう。泣き続けてれば朝が来て、きっと眠ってしまえるから。それまで息をしていてね。

今日を生きててくれて、ほんとうにありがとう。

あなたが明日死ぬかもしれないなら、今日をお祝いしよう。何度でも乾杯をしよう。

生き抜こうなんて言わない、死なないでとも言わない。ただ、今日はお疲れさま。今日も生きたね、絶望の世界を。生きててくれてありがとう。

おやすみとおはようを飽きるほど言い合えますように。

おやすみ、また明日ね。また、明日。

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