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子どもの好奇心から広がる、家族のくらしの未来。 Interview 川上ミホさん 前編

自分に合ったライフスタイルを実践する人、未来のくらし方を探究している人にn’estate(ネステート)プロジェクトメンバーが、すまいとくらしのこれからを伺うインタビュー連載。第9回目は、料理家の川上ミホさん。
 
お子さんの進学をきっかけに、東京から長野県軽井沢に拠点を移し、閑静な森の中のおすまいに家族三人でくらしている川上さん。くらしの軸を動かすことで変化した仕事やライフスタイルの価値観。そして、地域とのつながりでさらに広がる家族の未来の可能性。晴れ間に輝く木漏れ日が心地よい、春の軽井沢でお話を伺いました。


川上ミホ | Miho Kawakami
1978年、埼玉県生まれ。料理家、フード・ディレクター。東京とイタリアのレストランでのシェフ、ソムリエとして経験を経て、独立。食のスペシャリストとして、TV/CM、書籍、雑誌などのメディアを中心に活動。シンプルでストーリーのあるレシピとスタイリングに定評がある。商品開発アドバイザーやレストランプロデュースなど、多彩な経験と知識をもとに活動の幅を広げている。

川上さんご家族がくらす軽井沢のおすまい。
テラスとつながる大きな窓が特徴的な母屋と、手前にはバレルサウナも。

― まさに"森林浴"という言葉が相応しい、思わず深呼吸したくなるような気持ちのいいおすまいですね。ここにくらしはじめて、今年で何年目になりますか?
 
川上ミホさん(以下、川上):今年で5年目に突入しました。最初は、主にわたしが料理と向き合うためのアトリエとして、夫も「夏の間を過ごすサマーハウスとしてならいいね」と検討していたのですが、ちょうどその頃に娘の“ひのき”が「軽井沢風越学園」という学校に、第一期生として入園することに。さらに新型コロナウィルスの流行で東京との往来に制限がかかったことも相まって、本格的に軽井沢に拠点を移すことになったんです。
 
― 思いがけず色々なタイミングが重なって、軽井沢を軸にしたくらしがはじまったのですね。
 
川上:そうなんです。もともとは東京と軽井沢を行き来するイメージで考えていたのですが、コロナ禍で打ち合わせなどもオンラインで行うことが当たり前になって、軽井沢からのリモートワークでも意外と事足りることに気が付きました。
 
― そもそも、二拠点生活をはじめたきっかけは何だったのでしょう?
 
川上:じつは、軽井沢が初めてではないんです。まだ、ひのきが生まれる前に夫婦で7年間ほど、京都と東京の二拠点生活をしていました。クリエイティブディレクターの夫が、仕事で京都を頻繁に行き来するようになったのですが、インバウンド需要が伸びてきた時期でホテルの予約が取りづらくなってきて。それならば京都にも拠点をつくろうと、思い切ってすまいを構えたんです。当時は、月の1/3は京都で過ごしていました。
 
― 7年前というと、二拠点生活や多拠点生活というライフスタイルも、世間的にはまだまだ馴染みの薄い頃ですよね。
 
川上:そうですね。でも、京都でのくらしを通じて、生活の中にもうひとつ拠点を持つことがいかに有意義かを実感することができました。すまいを構えることで京都の友人もたくさんできましたし、旅行では体験し得ない、その土地にくらす人や文化に深く触れることができたのは、とても豊かな時間でした。京都のすまいは、コロナ渦であまり行けなくなってしまって一度は手放したのですが、やっぱり四季折々の京都を楽しみたいよねということで、最近また別の物件を借りて京都の拠点も復活させました。

“日本一暑い街”として知られる埼玉県熊谷市出身の川上さん。軽井沢には夏の避暑地として、幼少期から家族で訪れていたそう。「涼しくて気持ちいい場所というイメージが強かったのも、軽井沢を選んだ理由のひとつかもしれません」。

― 京都でのご経験があったからこそ、東京から生活の軸を動かすという決断にも思い切って踏み出せたのかもしれませんね。

川上:東京では代官山のマンションに住んでいて、やはり利便性もいいですし、落ち着いた街の雰囲気も気に入っていたのですが、いざ子どもが生まれると、のびのびと遊べる場所が全然無くて。暑さで顔を真っ赤にして、公園のすべり台を順番待ちしている我が子の姿を見て、せめて夏の間だけでも涼しい場所でのびのびと遊ばせてあげたいと思ったんです。
 
軽井沢には、夫の親友で別荘専門の建築会社をやっているご家族が住んでいて、何度か遊びに行かせてもらう機会があって。そのときに連れて行ってもらった公園がとにかく広くて! 子どもたちに「走っちゃダメよ」「静かにしなさい」などと言わなくいいから、大人も心にゆとりが持てるのがいいなあと。
 
ー 大人だって子どもの行動を制限するのはつらいですし、できることなら口うるさく注意したくないですものね。
 
川上:本来、子どもはウワーッと遊びたい生きものですからね。もちろんダメなときはきちんと伝えますが、軽井沢でくらしていると、そもそも言わなくていいシチュエーションが多い。大人がおしゃべりをしている傍らで、子どもは走り回ったり、自然や野生の生き物を相手に自由に遊びまわる。そうやってのびのびできる環境で知り合うからか、子どもたちもあっというまに仲良くなれるみたいです。

家族の気配が感じられる、ほどよく自由な距離感が心地いい。


自然と調和しつつもログハウスのようにナチュラル過ぎず、洗練されたイメージで仕上げられたインテリア。窓にはカーテンやシェードはなく、朝は陽光を感じながら目覚める。

― 当初はサマーハウスとして考えていたとのことですが、すまいづくりで特に意識したポイントがあれば教えてください。
 
川上:別荘地の場合、敷地に対する建ぺい率は20%以下というルールがあるのと、今後拠点が増える可能性もあると思って、自分たちの身の丈にあったコンパクトなサイズ感を意識しました。結果的に、家族が家の中で何をしていても気配で感じられる安心感があって、とてもいいです。例えば、わたしがキッチンで料理をしている後ろのテーブルでひのきがお絵描きをしていたり、家族の息づかいを感じつつも、それぞれが自由に過ごせる距離感が心地いいですね。
 
― 仕切りがないオープンな間取りもさながら、外の自然とのつながりが感じられる窓辺の居心地もとてもいいですね。
 
川上:せっかく森の中でくらすのであれば、なるべくシームレスな感覚がいいなと思って、テラス側は全面窓にしました。太陽の光がしっかりと差し込むので、冬も天気のいい日であれば床暖房と灯油ストーブだけで十分暖かいんですよ。

ただ、軽井沢は湿度が高いので、早朝や雨の日はグッと冷え込むんです。だから、断熱対策はしておいて本当によかった。最初は、夏の間だけを過ごすつもりだったのでもっと風通しがいいような間取りを考えていたんですけれど、軽井沢に住んでいる人たちが口を揃えて「断熱材は絶対に入れておいた方がいい」と言う理由がよく分かりました。これから軽井沢に家を建てると言う知り合いがいたら、わたしも全力で断熱をおすすめしたいです。

キッチン、リビング、ダイニングを明確に区切らず、開放的な空間に。ベッドスペースもドアを設けず、段差を付けることで絶妙にゾーニングされている。

― 軽井沢でくらすようになって、ご家族のライフスタイルに変化はありましたか?
 
川上:夫は東京生まれ東京育ちの都会っ子だから、火を起こしたこともなければ、虫も苦手で。こんな人が森の中でくらすなんて大丈夫かなと思っていたのですが、今や「軽井沢のくらしがないと、心が潤わない」と言うほどに。オフの日には、せっせと薪割りをしてサウナを楽しんだり、キャンピングカーで山に出かけるぞと張り切ったり。人って、こんなにも変わるものなんですね(笑)。

― ひのきちゃんは、いかがですか?
 
川上:軽井沢に来たばかりの頃は、どちらかと言えば家の中でお絵描きをしているのが好きなタイプで、そんなに自然に興味があるわけでもなかったのですが、3ヶ月も過ごすうちに変わりましたね。森の中にも躊躇なく入っていくし、川にも飛び込むし、虫やカエルも捕まえる。
そうやって遊んでいるうちに自然が身近な存在になったのか、最近は「自然環境のために、何か自分にできることはないか」と会社をつくって「森を守りたい」というメッセージを発信したり、自然に関する仕事をする大人たちに話を聞きに行ったりしています。

今年で8歳になる、ひのきちゃん。最近の関心事はどんぐりで、色々な場所に出かけてはどんぐりを探して標本づくりに夢中。「名前も”ひのき”で木の名前なので、親近感を覚えているのかな?」と川上さん。

― すごい行動力ですね! 一般的には、子育て世代がくらしの可能性をもっと広げたいと考えるときに、お子さんのケアがひとつのハードルになるかと思うのですが、ひのきちゃんの場合、彼女が家族の世界を広げる推進力となっているように感じますね。
 
川上:そうかもしれないですね。学校というコミュニティが増えたのもあるかもしれないですが、ひのきが成長したことで家族ぐるみのお付き合いが増えました。娘をきっかけにつながる地域のコミュニティから思わぬ広がりが生まれたり、それがまた東京に戻ったときのご縁につながったり。

ー 例えば、どのようにしてコミュニティが広がっていくのでしょう?

川上:最近だと、ひのきの学校に「森のくすり塾」という野草や薬草について教えてくれる先生が来てくれて、その週末に家族で上田市の薬草教室まで遊びに行きました。たまたま同じタイミングで来られていた幼稚園生のお子さんがいるご家族と仲良くなって、彼らが自分たちで育てた小麦を挽いて窯焼きパンをつくる職人さんだったので「今度、麦畑に遊びに行かせてね」「じゃあ、みんなでパンを焼いてみよう」と、また会う約束をしたり。

森のくすり塾の先生とも、その後もお付き合いが続いています。つい先日も、春になると軽井沢で採れるキハダという薬草を日常的に活用するワークショップを自主開催して、ひのきの学校の先生や東京からも興味のありそうな友人家族を誘って、みんなでワイワイ学んできました。

ー 面白い! たしかにこれは、都会ではなかなか再現できない広がり方ですよね。

川上:そういったプライベートでのつながりがお仕事に発展することもありますし、逆にお仕事で知り合った方が「今度、軽井沢に行くので家族で遊びに行っていいですか?」と我が家に来てくださって仲が深まったり。小さなきっかけから点と点がつながって、どんどんと広がっていく感覚がとても楽しいですね。

知らない場所、知らない人と触れ合うことでしか得られない学びがある。


母屋に隣接する、夫のシュンさんの仕事小屋。
オンラインでの打ち合わせや集中して作業をしたいときに使うほか、冬の来客時には暖炉を灯してチルタイムを過ごしたりと、大人の隠れ家感あふれる魅力的なスペース。

― 軽井沢でのくらしをご家族で満喫されている様子がとてもよく伝わってきます。旦那さんのお仕事も、軽井沢からのリモートワークが多いのですか?
 
川上:夫は半々ですね。週の前半は東京で、後半は軽井沢。わたしも東京に行きますが、週にどのくらいという頻度は決めていなくて、撮影の仕事などに合わせて3〜4日まとめて行ったりすることが多いです。

― 東京をはじめ、お父さんお母さんが出張するときは、ひのきちゃんはどうしているんですか?
 
川上:基本的に夫の出張には、家族三人で行くことが多いですね。ただ、ついて行ってもあまりやることが無さそうなときは行かない。ひのきが学校に通うようになってからは「わたしは○○ちゃんのうちに泊まる~」と、仲良しのお友だちのおうちにお世話になることもあります。
 
― 家族で楽しめるアクティビティがあるならば、というスタンスなんですね。
 
川上:そうなんです。楽しそうだったら、みんなで行こうという(笑)。なるべく学校が休みのタイミングに合わせてスケジュールを組むのですが、平日に行くこともあります。というのも、子どもの学びは学校で座って学ぶことだけが全てではないというのをすごく実感しているから。はじめて訪れる土地の自然環境や文化、そこでくらす人たちと触れ合うことは、子どもにとって貴重な経験になると思うんです。

― 素晴らしい! n'estateでも「n’estate with Kids」という、子育て世代がお子さんと一緒にワーケーションや地方でのくらしを体験していただけるプランをご用意しているのですが、まさに川上さんご家族のように使っていただきたい。今までは未就学児を対象に、地域の保育園での一時預かりが付いたサービスだったのですが、今年度からは小中学生のお子さんが地域の学校に通うことができる教育留学の制度も導入予定なんです。
 
川上:ええ、素敵! 家族での出張やワーケーションって、気になっている人も多いけれど、はじめるきっかけがないというご家庭はきっと多いと思うんです。だから「n’estate with Kids」のように、まずは期間を決めて行ってみるのは、とてもよさそう。それこそ、保育園や学校で知り合った子どもがご縁で、家族みんなに地域との接点が生まれることもきっとありますよね。

軽井沢に来てわたし自身が感じたことでもあるのですが、地方くらしの魅力のひとつは、大人たちがみんなのんびりしているところ。もちろん、東京でも大人の優しさに触れる機会はあると思いますが、よりリラックスした環境で自分の親や祖父母、親戚以外の全く知らない人に親切にしてもらったり、何かを教えてもらう経験というのは、子ども自身の心を育む豊かな学びになるはず。だからこそ、わたしたちも積極的にひのきを色々なところに連れて行ってあげたいし、これからも家族みんなでさまざまな出会いを楽しんでいきたいと思っています。

キッチンの窓辺には、お手製の漬物瓶が。「冬の寒さが厳しい長野県では、漬物や保存食も盛ん。軽井沢に来てからは、地域の食文化も楽しんで取り入れています」と川上さん。

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Photo: Ayumi Yamamoto



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