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空を刺すのはビルか山か [読書旅行記]

vol.3 余韻

最終日、朝一で東寺へ。京都駅から歩いていけるのがいい。
曇り空が似合うひっそりとした雰囲気。神社とはまた違った良さがある。そう思いながらいつかの父の言葉を思い出した。

「大人になれば寺の良さがわかるよ」

少し似てきたのだろうか。認めたくないけど。

***

新幹線が東京駅に近づき、窓の向こうは山の代わりにビルが建つ。空が小さくて息苦しい。

目を閉じて思い浮かべる、夏と秋の間の京都。
茂る青もみじの中に息をのむほど鮮やかな赤がチラリと顔を出す。
誰もいない森の奥で、淡々と営まれる秘密の紅葉。とんでもない神秘を覗き見てしまった。

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家に帰ってから毎晩少しずつ本の続きを読んだ。読んでいるうちはまだ旅を続けられる気がした。貴船の雑貨屋さんで購入した白檀のオードトワレを手首につけて、ゆっくページをめくる。

「あの夏が、ほんの一年まえの夏が、あでやかな奇跡に思えるほど、世の中は一変してしまった。」

震災後と今がまた重なる。

物語を読みながら、京都を思い出しながら、ぼんやりと思った。
良い人と悪い人がいるのではなくて、人は良いときと悪いときがあるのかもしれない。

最初に私が感情移入した登場人物は、物語が進むにつれてどんどん崩れていき、最後には同情もできないほど歪んでしまった。
逆に、最初は生意気な感じがした人は、誰よりも魅力的に変化した。

どうしたら良いときが続くのだろう。
その鍵は「旅」にあるような気がする。



(おわり)

▼旅のお供
『異邦人(いりびと)』 原田マハ [PHP文芸文庫]

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