夢を見た。 僕が夢か起床してるかを判断するのは簡単だ。何かの光景が見えたら夢で、何も見えなければ起きている。 うすらぼんやりとだけど、見た事もないヒトミと散歩をしている穏やかな光景を覚えている。 だけど、今見えているのは暗闇だ。起きている。 寝起きの頭を整理する。日の温かみは感じない。アラームは鳴っていない――いや、鳴り出した。時刻は午前六時。 アラームに合わせて左下方で鈴の音が鳴る。ヒトミが起きた。 「おはよう、ヒトミ。カム」 ベッドから降り、寄ってきたヒトミ
「おらァ! てめえ! さっさと! 吐けやァ!」 ――心底イラつく。 捕らえた密売人は五人。一人はビッチの奴がイカれた噛みつきプレイをおっ始めて、喉笛を食いちぎってオシャカ。 一人はバルチャーの奴が四肢を末端から寸刻みにバラして、吐かせる間も無くオシャカ。 そして一人はエイプマンの奴が目の前で殴り続けている。もう喋れる状態じゃない。そろそろ事切れる。 一人は苛立ちのあまりに尋問前に首を切り落としたから、残るは一人だけだ。 どいつもこいつも我先にと尋問を買って出たく
白夜の空に青紫のオーロラが輝き、深々と雪が降る。 光の届かない、黒と青灰色の針葉樹林をゆっくりと影の一団が蠢く。植物の蔦と金属板を馬の形に繋いだような異形が二頭で引く荷馬車が数十台、その周囲を防寒鎧を纏った兵士が十数名随伴する輸送大隊だ。 異形の馬『骸馬』は疲れず、死なず、飲食もしないので労働力として重宝するが、とにかく遅い。力はあってもその歩みはまるで死にかけの病人のように遅い。 それ故に、骸馬車による輸送は一度に大物量の運搬を求められ、その車列の護衛に大勢の兵士と
締切りまで、あと僅か。もう後が無い。ノルマも……命も…… 鉛筆を握る手は痛みを通り越して何も感じない。脳が痺れ、思考が覚束ない。腰と背骨が自分の物とは思えない程うまく動かない。 あと十枚。もうクオリティは維持できない。この動画を描き上げなければ次は無い。ペースを上げろ。ペースを―― 「ああああ! もう嫌だああア!!」 作業場に悲鳴が上がった。声と顏が一致しないが、入って日が浅い奴だったと思う。狂ったのだろう。 椅子や紙束が散乱する音、遮二無二逃げる足音、スライド
(早く! 早く距離を取るんだユイ!) 頭の中に相棒の声が響く。分かっているし、実行している。 失態だ。一件目の鎮圧が手早く済んだから、緊急案件の一件くらい無補給でやれると慢心した。その結果がこのザマだ。 被疑者を得意の〈縛鎖〉で拘束し、〈意識断〉で速やかに無力化したつもりが、既にネガ・ダウンが始まっていた。 被疑者である二十代半ばの男性は不気味な流動体を纏い、三本の触手が生えた怪物――ネガ・ビーストとなり、暴れ狂い出した。 至近距離で触手を滅茶苦茶に振り回されてしま
「何卒、お力添えを……」 人里離れた山林のあばら家で、三人の男が土下座で懇願した。彼等は領主が遣わした使者と、その護衛だ。 過日、領主の娘が誘拐された。犯人達は身代金を要求したが、激憤した領主は討伐隊を雇い、犯人達を皆殺しにする事を決めた。 だが……結果は失敗。討伐隊は壊滅し、身代金は倍に上げられ、あと三日以内に応じなければ娘は惨殺される。 「もはや猶予は無く、二百人の討伐隊を返り討つならず者達を相手取れるのはあなたしかおりませぬ」 囲炉裏を挟んで対面に座するは、この
東方の島国の港町が今、終わりを迎えようとしている。 暴風雨が吹き荒れ、海は大波が暴れ狂い、一波ごとに陸を食んでゆく。そして……サメ! 「いやああ!」「ガボッ! がばああ!」 荒波と共に大小様々なサメが人々を襲い、町を赤く染めていく。正に地獄絵図。偉大なる海が、明確な殺意を以て人間を滅ぼさんとしている様だ。 人々が僅かな生存の道を求めて海から逃げ惑う。そんな中、ひとりの男が悠然と海へ向かって歩いていった。 無謀と言うべき男を迎えるように、巨大なサメが大口を開け、男を一
とよみきよしです。 本日、『EAT & RUN』 3話を公開しました。文字数にして5000文字程になります。 1話 2話 3話 思いつきの、ぶつ切りの要素を作品としてまとめる難しさにぶつかり、だいぶ前回より時間がかかってしまいました。暑さにくじけず、一歩ずつ進めていきたいところです。 あと、作品と関係ありませんが、Nintendo Switchソフト『オクトパストラベラー』をやっています。 往年の美麗なドット絵と次世代機の光の表現、2Dと3Dが絶妙に合わさった映像表現
不覚だった。 この食い逃げショーが続くうちに、挑戦者はある種のパターンで動くとタカを括っていた。 挑戦者の中でも厄介な、特異能力を使う連中は専ら中盤――店周りで張っている常人を大体振り切った後を狙ってくる。人が多いと特異能力に対して壁にできるので、せっかくの能力が活かしきれないのだ。 故に、店の中にいるのは常人ばかりだと思っていた。実際、これまではそうだった。 寿司屋天井に貼り付いていた、黒づくめの男。見覚えの無い新顔だ。閉所でこそ真価を発揮する特異能力者か。予想外
とよみきよしです。 本日、創作小説「EAT & RUN」の2話を公開しました。文字数で4300文字ほどになります。 1話は無料で、2話以降は冒頭以降有料という形で進めていこうと思います。 1話 2話 本作を簡単に解説しますと、とんでもない食い逃げ犯を捕まえると賞金が出るので、いろんな挑戦者が異能力や魔法や筋肉やハイテックや国家権力などを駆使して挑むお話です。 地道に書き進めていきたいと思いますので、どうぞよろしくおねがいします。
始めは只の噂話だった。 制限時間内に過剰な大盛りを完食すると無料、あるいは賞金が貰える、所謂大食いチャレンジを行っていた飲食店の界隈で、企画潰しの女が現れるという噂が流れた。 曰く、十倍量のラーメンを六分で完食した。 曰く、二.五キロにもなるカツカレーを三十分で二杯食べた。 曰く、六十分以内に餃子百個を食べるチャレンジで、三百個食べた。 あちこちで規格外の結果が叩き出されるうちに、その存在は周知されていった。 だが、あまりの規格外に大食いチャレンジとして成立せず
初めまして。とよみきよしと申します。 noteを用いて小説作品を創作してみようと思い、手探りでアカウントを作成してみました。 現在、「EAT & RUN」という食い逃げエンタテイメント小説を綴っておりまして、ゆくゆくは作品単位での販売を予定しています。 差し当たり、noteの練習を兼ねて序章を体験版として投稿させていただきました。 体験版 まずは、この作品の完成を目指して頑張りたいと思います。 今後とも、どうぞよろしくおねがいします。
もう一時間くらい経つな…… そろそろ満 止めない止まらない 3ミニ当たれ! 本当に人間なのか…… 高まってきたぁーー! 早よ 見てるだけでおなかいっぱいです すげぇぇぇぇ!!! 開店して間もない中華料理店『広東家』小見山町支店は異様な状態だ。店先には無数の人集り。それは食事のための順番待ちではなく、何かを待って店内を見つめている。 店内には満員の人。だが、その誰もが食事の手も進