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EAT & RUN 3話

 不覚だった。
 この食い逃げショーが続くうちに、挑戦者はある種のパターンで動くとタカを括っていた。
 挑戦者の中でも厄介な、特異能力を使う連中は専ら中盤――店周りで張っている常人を大体振り切った後を狙ってくる。人が多いと特異能力に対して壁にできるので、せっかくの能力が活かしきれないのだ。
 故に、店の中にいるのは常人ばかりだと思っていた。実際、これまではそうだった。
 寿司屋天井に貼り付いていた、黒づくめの男。見覚えの無い新顔だ。閉所でこそ真価を発揮する特異能力者か。予想外の方向から掴まれ――掴んだ掌から、電流が放たれた。
「ッッッぐうう!!」
 痙攣する筋肉を強いて、掴まれた腕を振るって引き剥がそうとするが、離れない。腕と掌をゴムで纏ったように貼り付いてくるのだ。
「うわあ!?」「何だ!? 誰だあれ!?」
 掴まれたまま、ふたりは床を転げた。周りの人々は予想外の事態に、ふたりから一定の間隔を取って静観。
「こ……のォ!!」
 レディ・ハリケーンは転げながら、黒づくめの男の腕を掴み――全力で腕を引き剥がす!
 黒づくめの男は逆の手で掴みかかる。が、レディ・ハリケーンは咄嗟に距離を取った。
 レディ・ハリケーンは己の身体状況を瞬時に判断。電撃のダメージでよたつき、四肢の動作がぎこちない。右腕の掴まれていた部分は出血こそしていないものの、真っ赤に染まり、痛みでジンジンと疼く。
「今だぁ!」
 周囲を囲んでいた常人達が襲いかかる! 普段なら常人など軽く捌けるが、今は動きに精彩を欠き、力任せに切り抜ける。人集りを押し分け、レディ・ハリケーンは寿司レーンへ戻り――マグロを食う!
「ハグッ!」
 イワシ、イクラ、納豆巻き……醤油もつけずに手当たり次第に喰らう。捕縛者達が掴みかかるが、レディ・ハリケーンは暴れ牛の様に荒々しく振りほどきながら寿司を食う。
 黒ずくめの男がレジを足場に天井へ跳ぶ。何かを掴みもせず天井に貼り付き、虫の様に素早く進み、再度レディ・ハリケーンに強襲!
 レディ・ハリケーンはアナゴを咀嚼しながら、肩を狙った掌を回避。二撃、三撃と回避。先程の覚束ない足取りと比べて、徐々に動きが良くなっている。
 黒ずくめの男の接近を嫌い、レディ・ハリケーンは常人捕縛者を掻い潜り、厨房へと逃げ込んだ。
「こっち来たぞ!」「通路ふさげ!」
 辛うじて二人すれ違える程度の幅の通路を、キッチン従業員二名が塞ぐ。が、肩を飛び越え突破。目指すは奥の裏口だ。
 続けて衛生服姿の従業員が一名、通路を遮った。フェイントをかけて容易く突破。扉までの距離は大した事はない。
 さらに一名、板前姿の従業員が通路を遮った。身を低くし、右脇を通過――

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