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「創作バーンナウト」

 締切りまで、あと僅か。もう後が無い。ノルマも……命も……
 鉛筆を握る手は痛みを通り越して何も感じない。脳が痺れ、思考が覚束ない。腰と背骨が自分の物とは思えない程うまく動かない。
 あと十枚。もうクオリティは維持できない。この動画を描き上げなければ次は無い。ペースを上げろ。ペースを――

「ああああ! もう嫌だああア!!」

 作業場に悲鳴が上がった。声と顏が一致しないが、入って日が浅い奴だったと思う。狂ったのだろう。
 椅子や紙束が散乱する音、遮二無二逃げる足音、スライドを引く音……発砲音。
 呻き声、硬質な靴音、再び発砲音、短い断末魔……
 背後の有り様は、締切り後の自分の末路を示されているようだ。西暦2163年10月9日0時、それが自分の命日か。
 死を目前にしているはずだが、もはや恐怖は無い。感情が摩耗したか、諦観か、あるいは苦痛からの解放を望んでか。

 時刻は無慈悲に過ぎていく。その時――部屋の外から破砕音が響いた。

【続く】

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