「サンタ・ジ・ハード」
白夜の空に青紫のオーロラが輝き、深々と雪が降る。
光の届かない、黒と青灰色の針葉樹林をゆっくりと影の一団が蠢く。植物の蔦と金属板を馬の形に繋いだような異形が二頭で引く荷馬車が数十台、その周囲を防寒鎧を纏った兵士が十数名随伴する輸送大隊だ。
異形の馬『骸馬』は疲れず、死なず、飲食もしないので労働力として重宝するが、とにかく遅い。力はあってもその歩みはまるで死にかけの病人のように遅い。
それ故に、骸馬車による輸送は一度に大物量の運搬を求められ、その車列の護衛に大勢の兵士と兵士の為の食糧や暖房までも必要となり、必然的に大所帯となってしまう。
骸馬は疲れずとも、護衛の兵士は人間である以上、交代で休息を取らねばならない。
「はぁ寒い……交代だぜ」
分厚い壁で密閉された馬車の中で兵士達は身を寄せ合い、か細い暖房灯を中心に円形に囲って最大限の暖を取る。兵士達の囲いから次の巡回の者が抜け、空いた隙間に交代の兵が差し変わった。
「雪の勢いが増してきた。そろそろ吹雪いてくるぜ」
カーンは寒さに震えながら、同僚と語り出した。
「うわ、たまんねえなぁ……次は俺だぜ……」
「なあ、吹雪ってーとよ、レドの隊が襲われたらしいぜ、アレに」
「アレ……って、本当かよ? レドの隊って言ったら隊長は鬼熊だろ?」
兵士達の間でひとつの噂が広まっている。吹雪が深くなると、たった一騎で輸送隊を襲撃する謎の騎兵が現れるという話だ。
視界が利かない吹雪の中、襲われた兵士達は共通して赤い装束と温かく輝く巨大な騎獣だったと証言している。
「ぶちのめされたらしいぜ、鬼熊。生きてはいるらしいが、当分歩けねえ体だってよ」
「いけ好かねえけど、強さは本物だよな。鬼熊が勝てねえ相手なんて――」
――その時だ。
外からガンガンとけたたましく警鐘が鳴り響いた。
【続く】
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