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【書評】柿沼陽平『古代中国の24時間』(中公新書)

 昔を舞台にした小説やドラマ、マンガなどを見ていると、「当時の人って、本当にこんな感じだったのかな」と思うことがあります。逆に言えば、作り手は細かい描写をどうすればいいか悩むでしょう。

 戦乱や政治上の動きならば史書に残りますが、普通の人が日常どうしていたかについては中々記録に残りません。様々な記録から、生活の様子の断片を読みとって再構成するしかないのです。

 本書では、秦・漢の時代(今から2200年ほど前)の生活の様子を、膨大な史料をもとにして描き出した労作です。淡々と描写されていますが、細かく出典が示されています。一行書くのにどれだけの教養を要するのか、気が遠くなるほどです。

 特に興味を引かれた事例を、いくつか紹介します。

〇古代中国の人も、犬や猫を飼っていた。中国の文献では「家狸」などと書かれている。「狸」は日本語の「タヌキ」ではなく、猫を指していたのだ。

〇庶民の男たちは、道端や畑でよくナンパをした。美女を見かけると、未婚・既婚を問わず平気で口説き始めるのである。女性が「佩玉はいぎょく」という帯の飾りをくれたらOKという意味だ。

〇酒席にもマナーがあり、立場が上の者が下の者に酒を飲むよう命じることもあった。ひどい場合には、「もう飲めない」からと言って帰宅することが許されない宴会まであった。

〇古代中国人も湯浴みをしたが、毎日ではなかった。役人は官舎に泊まり、おおむね5日に1度休みをもらって家に帰ったが、「入浴のための休日」という名目だった。


 現代日本人と同じ点もあれば、大きく違う点もあります。「遠い昔にも、同じ人間が生活を営んでいたのだな」という不思議な感覚に浸ることができます。


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