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【書評】武田雅哉『鬼子たちの肖像』(中公新書)

 中国の映画やドラマには「抗日もの」というジャンルがあります。いうまでもなく、15年戦争期に大陸にやってきた日本兵を悪役とした物語です。

 中国人を見下し、時に残虐な行為も行った日本兵は、「鬼子グイズ」と呼ばれて忌み嫌われました。戦中に描かれた中国側のプロパガンダポスターなどを見ると、醜悪に描かれた日本人の姿を見ることができます。

 本書は、「中国人が日本人をどうとらえ、どう描いてきたか」をテーマとしています。本書でメインとされるのは、分かりやすく「悪役化」された大戦期ではなく、おもに清末に広く発行された絵入りメディア「画報」です。

 当然ではありますが、日清戦争の頃になると日本人を醜く、悪役風に描いたものが多くなります。

 一方、戦争が始まる前の安定した時代には、必ずしも日本人が憎まれていたわけではありません。例えば、中国では長い動乱期に古典が散逸してしまうことが多くありました。そうした古典は、時折日本に保存されていることもあります。それゆえ、日本のことが「貴重な漢籍を発掘できる場所」として好意的に描かれることもあったといいます。

 本書に出てくる「日本人」は偏見が多く、時に滑稽でさえあります。日本人としては、不快になる以前に苦笑してしまうのではないでしょうか。

 隣国との関係が悪くなり、他国の人に憎悪や嘲笑を浴びせる場面は珍しくありません。本書のような過去の人間が描いた「図像」は、私たちの考えを相対化してくれるかもしれません。


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