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三角関数の人類史⑥~「サイン・コサイン」の誕生

前回はこちらです。

 前回、イスラーム文明がヨーロッパの文明に大きな影響を与えたお話をしました。
 実は、イスラームの書物からの翻訳を通じて、おなじみの「サイン」「コサイン」という用語が生まれるのです。

イタリアの翻訳者

 12世紀、北イタリアのクレモナ出身の学者に、ジェラルド(1114頃~1187)という人がいました。庶民が名字を持たない時代なので、出身地をつけて「クレモナのジェラルド」「ゲラルドゥス・クレモネンシス」と呼ばれます。

 彼はアラビア語の多くの学術書をラテン語へ翻訳し、「12世紀ルネサンス」に多大な貢献をしました(トップ画像は彼の著書の挿絵)。その中に、三角法に関する記述もありました。

「サイン・コサイン」は誤訳から生まれた

 上記の記事で、インドの数学で、サインが「jiva(弦)」、コサインがが「kojiva」となっていたことを紹介しました。

 インドの数学がアラビアに紹介された時、アラブ人は「jiva」の語をそのまま吸収しましたが、アラビア語風に「jiba」と発音し、子音を省略して「jb」と表記しました。

 上記のジェラルドはこれを見て、子音が共通する「jaib」というアラビア語だと考えました。ラテン語に訳すと「insenatura(入江)」または「seno(胸)」となります。ジェラルドは誤解したまま、「jb」のことを「sinus」と訳しました。「サイン」の誕生です。

 コサインの方は、「サインでない方(余弦)」ということなので、「complemental sine」を略して生まれました。

 インド、イスラーム、ヨーロッパへと叡智が受け継がれていった結果、私たちが現在使用している、「sin」「cos」の用語が生まれたのです。

(続く)


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