見出し画像

【書評】藤代裕之編『フェイクニュースの生態系』(青弓社)

「フェイクニュース」「ファクトチェック」という言葉は、今や誰でも知っている一般的な語彙になりました。しかし、これらの用語を適切に仕えている人はどれだけいるでしょうか。

一口に「信頼できない情報」といっても、その類型は様々です。以前の記事にも書いたことがあるので、ここでは繰り返しませんが。

フェイクを拡散する構造的問題

同書では、日本で嘘情報が拡散する構造的問題として、「ミドルメディア」の存在を挙げています。

テレビや新聞などのプロの報道機関を「マスメディア」、個人が自由に発信できるネット空間を「ソーシャルメディア」とします。

ミドルメディアとはその中間に位置し、マスメディアとソーシャルメディアをつなぐ存在です。具体的には各種ニュースを掲載するプラットフォーム、ネット上の話題を紹介するまとめサイトなどです。

ウソの発信は、よく言われるようにマスメディアだけ、あるいはソーシャルメディアだけの責任ではありません。ネット上の一部の話題をまとめサイトが紹介して拡散し、マスメディアにまで取り上げられるなど、ミドルメディアがフェイクの拡散を助長している実態が紹介されています。

「ファクトチェック」の落とし穴

素人考えでは、「ファクトチェック」を行えばフェイクニュースは浄化されるだろう、と思うかもしれません。しかし、事態はそう単純ではありません。トランプ前大統領が行っていたように、「ウソ」のレッテルを貼ることで政敵を攻撃するのにも使えるからです。

国際ファクトチェック・ネットワーク(IFCN)という国際団体は、「党派的ではなく公正であること」「組織と資金の透明性を確保すること」「検証手法の透明性を確保すること」など5つの原則を掲げています。しかし、本書の書かれた2021年7月時点で、この原則に署名している国内の団体はないとあります。国内におけるファクトチェックの取り組みは、まだ立ち遅れているのです。

「噓を見抜く」より大切なこと

個人としてフェイクに騙されないためにはどうすればいいか。実際のところ、「情報の真偽を検証する」のは非常に手間がかかり、素人では難しいことが多いです。検索を繰り返していると、かえって陰謀論的な情報に接してしまい、抜け出せなくなってしまうこともあります。

そこで、「嘘を見抜く」スキルではなく「距離を置いた方がいい情報を見分ける」スキルこそ重要だという指摘がなされています。

これは誰でもすぐ実行できることなので、引用しておきましょう。

例えば、ウェブサイトが信頼できるかどうか、風刺サイトではないかなどを知るためにはウェブサイトそのものを「Google」で検索する、知らない組織名があったら「Wikipedia」で調べる、ブラウザで新しいタブを立ち上げて、同じニュースが違う媒体でも報道されているか確認する、などだ。「Wikipedia」には間違った記述もあるため大学のレポートを書く際などには引用しないと教えられるのが一般的であり、「Google」の検索結果も必ずしも信頼できるものばかりではない。だが、情報の信頼性を短時間で判断し、深入りを防ぐという意味では、こうしたツールを活用すれば十分なのである。(P237)

「これは嘘だ!」とはっきり見抜ける必要はなく、「これは胡散臭いから距離を置こう」と判断できれば良い、というわけです。

現代人にとって、「フェイクニュース」との付き合いは避けて通れません。一般にもわかりやすく、示唆の多い本であると感じました。

この記事が参加している募集

#読書感想文

187,194件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?