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第二次大戦が変えたアメリカ出版文化

 人類史上最も規模の大きな戦争だった第二次世界大戦は、文化や娯楽の面でも大きな影響がありました。今回は、戦争がアメリカの出版文化に及ぼした意外な影響を紹介します。

兵隊に娯楽を与えた米軍

 戦地に送られる兵士は、日々死の恐怖と戦わねばなりません。また、船などで遠くに移送されるため、待機時間が多くなります。精神を安定させ、暇な時間に気晴らしさせるため、アメリカ軍は兵士の娯楽に気を配りました。

 どこでも楽しめる娯楽として注目されたのが読書です。当初、アメリカは国民からの寄付された本で賄おうとしました。しかし、持ち運びにくいハードカバー本や、主婦向け・子供向けの本が多く持ちこまれるなどしたため、アメリカ政府は自前で本をつくることにします。

「兵隊本」の登場

 そこで誕生したのが、「兵隊本/兵隊文庫(Armed Services Editions)」という本です。アメリカでは、1939年にペーパーバック形式の本が登場しましたが、まだ一般的ではありませんでした。ペーパーバックを一気に普及させるきっかけとなったのが、第二次世界大戦だったのです。

 兵隊本は、製本の手間を少なくするため横長の形をしていました。軍服のポケットにも入り、時間が空くと気軽に読むことができます。

ペーパーバックを読む兵士

人気作家もセレクトされた

 兵隊本のラインナップには、ディケンズの「オリバー・ツイスト」、スタインベックの「怒りの葡萄」といった名作文学の他、チャンドラーの「大いなる眠り」、ウェルズの「宇宙戦争」のようなミステリーやSFも含まれていました。

 兵隊本のタイトルは1332、冊数は計1億2300万冊にも及びました。出征して読書に親しんだ若者たちは、帰国後にペーパーバックの人気を支えることになります。

 また、兵隊本の多くは戦争が終わると用済みになり、世界各地で売却や譲渡が行われました。そのため、アメリカ文学が日本を含む世界中に広まることになったのです。

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