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不登校先生

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2021年の春に「うつ病」になりました。 15年間小学校の講師として働き、 この年もそのまま働くだろうと思っていた時に 突然自分にやってきた「うつ病、退職、療養の日々」について、… もっと読む
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2021年12月の記事一覧

不登校先生 (18)

不登校先生 (18)

無気力になった僕が、かろうじて毎週1回の診察と、

校長先生への連絡ができたのは、だいぶ元気を回復して、

振り返ってみると、

なかなかに頑張ったなと思ってしまう。

無気力の状態でも、かろうじて僕を日常とつないでいてくれたのは

わずかばかりのスケジュールと、

もともとの自分の神経質のせいなのかもしれない。

行く気も起きないなら、病院にすらいかなかっただろうし、

校長先生への連絡も、どん

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不登校先生 (19)

不登校先生 (19)

二回目の診察、そして病休生活は本格的に。

二度のゴミ出しを数えて、もう学校は始まっている8時半過ぎに

ようやく、自転車に乗って家を出る。

行き先は、初診を受け付けてもらえた心療内科だ。

初診後の一週間、とにかく、何もできなかった。

ひとまずの管理職への連絡と、病休開始申請のための診断書の提出

それだけが終わると、もう、何もする気が起きない無気力状態と、

眠いのに寝付けないの繰り返しで

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不登校先生 (20)

不登校先生 (20)

薬の効果は絶大で、でも一時だけのものだった。

処方された日、正直もう病院に向った時から、

すごく眠いのに眠れない。

朝まで起きていたのかねていたのかわからない。

そんな状態だったので、

家に帰りつくや否や、台所で、処方された薬を飲んだ。

喉は大きい方だが、それでも割らないと飲めない位の大きさで。

ガリッ、ガリッ。と口の中で3かけらに割ると、

一気に飲み込む。

薬特有の苦みなどはな

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不登校先生 (21)

不登校先生 (21)

ドボドボドボドボドドドド・・・・・・・・

湯船にお湯を貯めながら

ずーっと蛇口からお湯が出てくる様子を眺めていた。

二週間ぶりに入るお風呂。

あったかくなってきた時期なのに、

あの日以来。お風呂に入っていなかった。

お風呂に入る気持ちすらわかなかった。

入らなきゃという意識すら向かなかった。

そういえば、自分の体の匂いがだいぶ強い。

家に引きこもっていたとはいえ、顔も洗っていない

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不登校先生 (22)

不登校先生 (22)

お風呂に入る。日常生活の普通のことを、

自分の無気力のせいでしばらくできなかったことは。

そういうものかという納得よりも、

そんなことにも無気力は影響するのかという驚きと恐怖で、

自分自身のこれからの時間について

見通しが真っ暗なことが明瞭とされたようで、

なんだか落ちた落とし穴の深さが本当にとんでもなく深いのだということを

実感させられたような気がした。

湯船につかり、体が清潔に

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不登校先生 (23)

不登校先生 (23)

しばらく湯船でぶくぶくした後に、ようやくお風呂から上がると、

気持ちのいいさっぱり感は、何とも言えない心地よさで、

ああ、なんだかちょっと生き返ったな。

そんな気持ちを久しぶりに自覚できた。

全身をバスタオルでよく拭いて、ユニットバスの湿った壁も

体をふいた後に、良く拭き上げて水滴をしっかりとって。

【お風呂の湿気には気を付けて。】

アパートに入った時にもらった注意事項に書いてあった

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不登校先生 (24)

不登校先生 (24)

よく眠れた心地よさ、眠っている間の汗の気持ち悪さ。

お風呂に入ろうという気持ち。お風呂が気持ちいいという感覚。

お腹が減った音、何か食べようと思う食欲。

考えなくても勝手に湧いてきた生きるために必要な、

心のデフォルトさえ、砕け散っていたことに改めて気づかされた。

睡眠を促す薬によって、2番目にひどい状態から、

はいつくばってもう一段。

心の再構築にたどり着けた気がした。

「薬の効

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不登校先生(25)

不登校先生(25)

早晩自分の状態が、知り合いに知られることが

頭に浮かばなかったわけではない。

学校現場というのは、いろんな他学校の情報も、

集まる所にはすぐに集まる。

だから、一番最初に連絡をもらったのが、

働いていた自治体で一番信頼がおける人だったことは安心だった。

それは以前勤めていた一番楽しかった職場の時の

同学年の先輩二人、船長と姐さんからだった。

初診の時病院に流れていた【今日もどこかで

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不登校先生(26)

不登校先生(26)

船長と、姐さんからの、励ましの連絡があった次の日。

4月も末になると、心配してくれる方には何かしらの形で

自分の現状は明るみになっていく。

『先生お元気ですか?先日先生が移動された学校に行ったのですが、

 お休みされているということでいらっしゃらなかったので、お体の具合が

 よくないのかと心配しています。大丈夫ですか?』

4年前に受け持たせてもらったお子さんのお母さんからの連絡だった。

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不登校先生 (27)

不登校先生 (27)

毎朝5時ごろに、

ショートメールが入る。

「ととろん、おはよう。」

一言のショートメール。

母からだ。

人生で、自分が本当にどうしようもなくなった時に、

親に自分の生き恥をさらけ出せるかどうか。

実はけっこう大きな問題で。

それは自分によるところではなく、親の側の感覚によるところも大きくて。

高校入学から親元を離れて27年。

それでも何か一番つらいときに僕は、

母に必ず伝えて

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不登校先生 (28)

不登校先生 (28)

どこにもいかない、何の予定もない。

そもそも連休じゃない日も、今は病休である。

そんなゴールデンウィークを迎えて、

ウキウキした気持ちなどなるはずもなく、

もう終わりかと思う気持ちもわかない。

働き出して、何の感情も持たないゴールデンウィークは

初めてだ。

連休ということで、たてなくんやケンちゃんが、関わってくれた。

ケンちゃんは、息子とドライブがてら顔を見に来たよと、家に来てくれ

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不登校先生(29)

不登校先生(29)

・・・・・・ゴミ出しを済ませ、朝ごはんを作る。

スーパーで買ってきた大根と厚揚げで味噌汁を作る程度であるけど

自分で台所に立ち、切って、お湯を沸かして、出汁を取って、味付けして、

薬で少しぼんやりしたままではあるけど、みそ汁を飲みながら目を覚まし、

朝日が昇るベランダに布団を干して。

今日が月替わり最初のゴールデンウィーク明けの初の診断だ。

初診から4回目。ひと月が立った経過は、決して

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不登校先生(30)

不登校先生(30)

風薫る。

5月と言えばどんなイメージだろう。

皐月・メイ。トトロの姉妹。

こいのぼり、端午の節句、ゴールデンウィーク

毎日空が舞うような雲で彩られて、

若葉の黄緑だった木々の葉は、日に日に力強い濃い緑になっていく。

命が萌ゆるイメージ。

15年間小学校で働いていた町では、5月の下旬が運動会。

競馬の祭典「日本ダービー」と、運動会が同じ日になるのが、

5月の印象だ。

ゴールデンウ

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不登校先生 (31)

不登校先生 (31)

「おくつろぎのところすみません。ととろん先生でいらっしゃいますか?」

「はい、そうです。」

僕以外には二人しか乗っていない電車の中で、

正確な名前で、声をかけてきたのは、

運転手さんだった。

「ご無沙汰してます。ゆーの父です。」

「あ!こちらこそご無沙汰しています。ゆー君は元気ですか?」

相手に安心を与える笑顔の運転手さんは、

昨年度、2か月前まで、担任をさせてもらった子どものお父

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