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不登校先生 (28)

どこにもいかない、何の予定もない。

そもそも連休じゃない日も、今は病休である。

そんなゴールデンウィークを迎えて、

ウキウキした気持ちなどなるはずもなく、

もう終わりかと思う気持ちもわかない。

働き出して、何の感情も持たないゴールデンウィークは

初めてだ。

連休ということで、たてなくんやケンちゃんが、関わってくれた。

ケンちゃんは、息子とドライブがてら顔を見に来たよと、家に来てくれた。

息子君は、まだコミュニケーションをうまく取れないのだが、

ファブリーズのシュッシュが気に入ったようだったので、

空っぽの容器に水を入れて、シュッシュとできるようにしてあげた。

「思っていたより、きちんと片付いとるね。」

ゴミ屋敷などになっていたら、片付け手をしてくれる気だったのだろう。

「なんとかね、水回りと、週に一度の掃除機掛け、

 後洗濯物は溜めないようにだけは心掛けとるよ。」

「それだけできれば十分だよ。」

そういって、それでいいと言ってくれるだけで、

今生きていることに必死な事が解ってもらえるだけで、

ほっとできる。

「髪を切ったり、お風呂に毎日入ったり、そういうところはまだ、

 全然気持ちが回らなくて。ひげもぼさぼさだよ。」

というと、

「まぁ誰に会うわけでもないのだから、いいじゃない。

 買い物もマスクで行けば髭ぼさぼさなのも気にならないし。」

と笑って言ってくれた後に、

「僕も伸ばしっぱなしだよ、ひげ。」

とマスクをとって髭がだいぶ伸びた顔を見せてくれた。

そうだね、たしかに。とお互いに顔を見合わせて笑う。

少し笑うことができるようになったのも、

こうして、様子を見に来てくれたおかげだと思った。

たてなくんは、連休中一緒に、晩御飯食べませんか。とのお誘い。

たてなくんの家で、ホットプレートでちょっとした焼き肉を、

ご一緒させてもらった。

たてなくんの奥さんも小学校の先生で、二人とも、何年もの担任を経て、

今年度は学校全体の児童支援の担当をしている。

頼れる中堅のリーダーとして仕事に励む二人に、

招かれるも、申し訳ない気持ちもいっぱいで。

二人の娘さんと息子君には、

「ととろんおじちゃんは、今年は不登校になっちゃったよ。」

と元気なく笑いながら言うのが精いっぱいだった。

とはいえ、長年友人でいてくれるたてなくんとたてなくんの奥さん、

二人だって長年の間にきつかった年や、辛かった時間も経験していて。

今の自分を見守ってくれる安心感で、

ほっとした時間を過ごさせてもらえた。

今年のゴールデンウィークは何もない。

そう思っていたが、わざわざ自分たちの時間を、

僕に向けてくれる親友たちのおかげで、

連休の時間に楽しいと思うことができて。

少しだけ、笑顔になる気持ちを、心の中に取り戻せた気がした。

↓次話


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