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【歌詞考察】メロンソーダ/aiko, Radio Darling—繰り返す日々の先に見える桜の美しさ

1. はじめに

メロンソーダがビールになってハンバーガーはハンバーガーのまま

『メロンソーダ』/AIKO

この記事は軽い気持ちで「メロンソーダとサッポロビールを飲みながらハンバーガー食べて歌詞について考えてみるか」と思ったら底の深い沼に入り込んでぶっ通しで4時間以上考えても分からず、結局1ヵ月くらい考えぬいた成果物です。

まずは(アフィリエイトとか全く入らないので安心して)とにかくこのめちゃくちゃいい曲を聴いて!!!

2. 解釈・考察

歌詞解釈の前提

■物語として読む
『メロンソーダ』は歌い手が「物語」を語る形式の歌詞になっています。
そのため歌詞解釈の手順としては、
(1) 歌詞から登場人物とその心の動きなどを解釈
(2) (1)を提示されることで、聴き手(である私)は何を感じるか、想像想像するかを記述する
の2フェーズを意識して進めます。

この歌詞を読むための前提として『メロンソーダ』は物語の主人公から観た一人称視点で書かれているということは認識しておく必要があります。
実は歌詞中に「あたし」といった語は一度も現れませんが、想像したり思ったりする心的な動作が多いため、主人公視点から見た物語として読むと綺麗に理解できると思います。

■音楽を考慮して歌詞を読む
『メロンソーダ』は歌詞だけで成立するものではなく、ポップミュージックとして提示される作品です。歌詞の解釈をするにあたって、(専門的なことは分からないまでも)音楽から得られる印象や効果も考慮したいと思います。

■作品だけで完結するものとして読む
歌詞の読み方として、作り手が意図を語ったインタビューなどを手掛かりに歌詞を読んでいく手法は主流かと思いますが、この記事ではそれを採用しません。

・作者の手が離れたら、作者の意図とは独立してその解釈が聴き手に委ねられること。
・音楽という娯楽を味わうにあたって、作者の意図やバックグラウンドは考慮されずに聴かれることがデフォルトだと思われること(=aikoのことをよく知っている人だけがこの曲を聴くのではない)
がその理由です。

aiko沼に落ちて調べるほどに、aikoが夜行性だとか詞先で曲を作るとかすべて何かしらの実体験に基づいているとかはよくよく分かっているのですが、今回はできるだけフラットに『メロンソーダ』という作品そのものだけに向き合って味わいたいと思います。

このスタンスのため、楽曲に関する概要やバックグラウンドなどは解釈パートのあとにまとめて記載します。

■当たり前ですが…

解釈という時点で私の個人的な視点の文章になります。
聴き手それぞれの解釈や肉付け、想像ができるのが作品のおもしろさ。
それを前提にお楽しみいただけたらと思います。(免罪符の詠唱完了)

イントロ:春の美しさと楽しさ

イントロから良すぎんか…!!??
・春の陽光が差すようなトランペット
・春風を思わせるような軽やかなストリングスとピアノ
・クラップがくれる春の期待感
・軽く滑らかなフェイク導入の心地よさ

楽しくあたたかいの春の雰囲気そのものをたった22秒で一気に広げてくれる美しさ。

4時間以上ぶっ通しで一曲リピートしても、1ヵ月聴き続けても全く胃もたれしないやさしさと心地よさを感じる曲はなかなかない。

イントロの春のあたたかさの中、Aメロの冒頭はピアノとボーカルだけになって、次のフレーズ。

1番 Aメロ, Bメロ:主人公の時間観

あっという間に想像してたよりずっと早く春は過ぎる
きっとまたすぐに暑くなって次は肩をすぼめてマフラーを巻くんだ

『メロンソーダ』/AIKO

主人公は時間なんて早く過ぎるものなんだ、とひとり想像しています。(時間があっという間に過ぎていくのは歳をとるにつれて共感が強くなるフレーズだ)

イントロのあたたかさとうってかわって、楽器構成がピアノとボーカルとドラムだけになる落ち着きには、相対的に主人公がひとりでいるような寂しさを感じてしまいます。まるで主人公だけが春の中にいないかのようです。

まず主人公がいる季節は春。
春は「過ぎた」ではなく「過ぎる」なので、「すぐに暑くなって」という表現もふまえると、今はまだ夏の暑さを感じる時期ではなさそうです。

いま主人公がいる春は早く過ぎるし、夏も冬もすぐにやってくる。
お花見で楽しく浮かれているようなフレーズでは決してない。
ただ、冬が来て寒くなることだけが「マフラー」というワードでありありと想像できてしまうこともどこか寂しい気がします。

最初はそうとっつきにくくてさ卒業してから仲良くなった

『メロンソーダ』/AIKO

「仲良くなった」から、その対象として新しい登場人物が導入されます。
それはこの先に出てくる「君」のこと。

この時点では「君」と主人公の関係性は不明。
「卒業してから仲良くなった」は絶妙なあるあるフレーズ。

学校とか同じ部活・サークルとか同じコミュニティ内だと特に話すこともなかったけど、ささいなきっかけで話してみると意気投合したりできる不思議な心地よさが想像される~!そういう人の方が長い付き合いになることだってあるよなあ。

仲良くなった君が導入されるタイミングで、トランペットが帰ってくるのにも嬉しいあたたかさを感じます。

メロンソーダがビールになってハンバーガーはハンバーガーのまま

『メロンソーダ』/AIKO

この天才的な共感の刃フレーズで切られて倒れた人の山を幻視できる…!

ハンバーガーを食べることは昔も今も変わらないけど、飲み物はメロンソーダからビールに変わったというだけの一行。

生活に根差すわかりみの深い対比、ビールを飲むようになった大人視点での体験としての共感、自分では気にも留めていなかった日常の変化の切り取りのうまみが最高&天才か…!!!高音ロングトーンで歌われる「メローーーーンソーーーーーダ」もとても印象的で甘く美しい!!

時間にともなって変化するものの象徴としてのメロンソーダとビール。時間が経っても変わらないものとしての「ハンバーガー」。

この美しい具体物に酔いしれるだけでも最高だけど、もう一歩進んで飲み物の変化で語られるものが何かを考えると、そこには時間の経過があるのだと思います。

昔:メロンソーダの甘さを好んで心地よく浸っていた
今:大人になってビールの苦みを楽しめるようになった(もしかするとメロンソーダは甘すぎて好みではなくなっているかもしれない)

味覚を含めてここまで想像すると、より身体的に時間の経過が確実に存在すると感じさせられます。ビールを飲みながら歌詞を考えた甲斐があった。

(解釈に関係ないですが、ビールはサッポロビールなのかもしれない)

あぁこういうのなんて言うんだっけ

『メロンソーダ』/AIKO

君と会話をする最中にふと主人公の頭に差し込むことば。
このリアル感のある一瞬を捉えるのはさすがaikoだ…!

このフレーズの楽器構成はボーカルとピアノとベースだけ。会話の中でふと冷静に差し込んでくる思いを綺麗に表現してくれているように感じます。

「こういうの」が何を指すのか、はっきりとは分かりません。Bメロで提示された状況自体を前方照応として指示していると考えて、想定される内容はこれくらい。

・メロンソーダとビール、ハンバーガーが象徴するように変わらないものがある一方で変わっていくものがあること
・主人公がそれに気づいたのエモさや懐かしさ、切なさなどの気持ちのこと
・主人公と君の関係のこと

いずれにしても、ビールを飲む今の視点で時間経過のうれしさ(卒業してから君と仲良くなった、ビールを味わえるようになった)と同時に時間経過の切なさ(メロンソーダを飲まなくなったこと)の両面をしみじみ感じているのかなと思います。

1番サビ:不安と約束と想い

ねぇ今日も少し不安だよ
だったら見える糸君に巻いてあげる

『メロンソーダ』/AIKO

■誰が何を不安に思っているのか?
場面が変わって、サビ頭で主人公と君の会話がはじまります。
「ねぇ今日も少し不安だよ」「だったら見える糸 君に巻いてあげる」という対話の発話者ははっきりと分かりません。

それでもここまで内面を描かれてきて「不安だよ」と自然に言えるのは主人公のように思えます。春の時点で先の季節のことを思い、メロンソーダがビールになったことに気付く主人公。この時間の経過とそれによる変化に不安を感じるのは自然なように思います。

仮に主人公が「不安だよ」と言ったとして何が不安なんだろう??
その対象は明示されていません。

ここは想像で補うところになりますが、ここまでずっと時間に関する言及が続いていたことを考えると、可能性の一つとして主人公と君の関係の中でこれから変わっていくものに不安を感じているのかもしれません。

今味わっているメロンソーダのように甘く心地よい君との関係だって、時間が経つといつかビールにとって代わられてなくなってしまうことが不安なのかもしれません。

■見える糸を巻いてあげるってどういうこと?
主人公の不安が変わりゆく関係なのだとしたら、「だったら見える糸君に巻いてあげる」という君の応答はベストアンサーなのではないか。

まだ冬が来ていない季節に、次の冬になっても「糸(=Aメロで言及していたマフラー)を巻いてあげる」ということは、すなわち時間が経っても変わらないでいるよという約束のメッセージに解釈できそう。これはとても安心感を与えてくれるラブに他ならない!あったけえ!!めっちゃ嬉しい!!!

「見える糸」がマフラーなのかは明確に書かれていませんが、糸そのものを巻くと相手を窒息させてしまう。電話している場面だからといって黒電話の電話線のことにしても、相手が窒息してしまう。Aメロの「マフラーを"巻く"」という表現があったことを考えると、「見える糸」はマフラーを指すと考えるのが自然かと思います。

では、わざわざ「マフラーを君に巻いてあげる」ではなく「見える糸を君に巻いてあげる」と表現した理由は何なんだ…?ここに含まれる意味とは…?

ここも想像パートですが、「見える糸」に対して「見えない糸」が何かを考えてみると、例えば運命の赤い糸のような人と人の関係を繋ぐものが想起されます。

でも見えない糸を巻いてあげるという宣言をしてもどこか現実味がない。
だからといって春に近い季節にマフラーを巻いてあげると直接的に言ってもどこか違和感があるし味気ない。

この問題に直面したとき、次の冬への約束とそれを間接的に示す具体物としてのマフラーを共存させようとして生まれたのが「見える糸 君に巻いてあげる」なのかもしれません。心的にも物理的にもあたたかく、詩的で美しい表現として味わい深いです。

電話の向こうでラジオが「ベイベーダーリン」

『メロンソーダ』/AIKO

歌詞のままの情景描写。

電話の向こうでラジオが聞こえる状況とはどんなものか想像してみます。

まずひとつ想像できるのは、電話中にラジオを聴いていられる関係ってとても気楽で仲が良い関係だということ。
緊張感をもって相手のことばに集中するようなシーンじゃなくてもっと気楽な雰囲気。これを演出してくれるのがラジオのあたたかさ。

そしてもうひとつ、電話越しにラジオの言ってることがはっきり聞こえるのは、会話の間にわずかな沈黙の時間。この沈黙で偶然にも流れてきたことばが「ベイベーダーリン」。恋人が互いに呼ぶ呼称。

この偶然のフレーズが聞こえて、主人公の心に思い浮かんだことは次のフレーズ。

繰り返す日々にもらったプレゼントは君だ
ある日突然心に灯る想い

『メロンソーダ』/AIKO

主人公はここでようやく、Aメロで感じていた「あっという間に」すぎてしまうと思っていた繰り返しの日々こそが、君との今の関係を作ってくれたんだと気付き、ラジオの後押しによって君への想いにも気付く。

美しい。

「繰り返す日々」はあっという間に過ぎる単調なものに思えるかもしれないけれど、いい意味でメロンソーダをビールにするし、気付かぬ間にプレゼントもくれている。やさしい。。。

この想いの内容は明言されませんが、全体を読むと恋心だと解釈して良さそうです。

1番の解釈まとめ

主人公は春にひとり、時間なんてあっという間にすぎていくものだと思っていた。
卒業してから仲良くなった君とハンバーガーを食べる中で、「メロンソーダがビールになって ハンバーガーはハンバーガーのまま」なことに気付く。

今はメロンソーダのように甘く心地よい主人公と君の関係性も、時間が経てばビールのように苦いものになってしまうかもしれないと不安になる主人公。
それに対し、冬(=未来)になってもマフラーを巻いてあげる、ということばを通して、今の関係や気持ちは変わらないよ伝えてくれる君。
会話の一瞬の間に流れるラジオの「ベイベーダーリン」を聞き、主人公は時間が流れる中で育まれた君への想いに気付く。

ここまでで一番。
こうやってまとめるとシンプルなようで、この物語をaikoに描写されるとあんなにも美しくなるんだなあ。

間奏

イントロと類似のフレーズが繰り返される。
J-POPとしての形式的なものとして考えてしまってもいいけれど、エレキギターの音がイントロと比較して強調されているところに、物語としての時間経過と少し活力を得た主人公をほんのりと感じられる気がします。

2番 Aメロ, Bメロ:過去の思い出と繰り返しの気付き

洋服についたシミで思い出した情けない嘘の話

『メロンソーダ』/AIKO

場面転換して、主人公が過去についた嘘を思いつく。
そのきっかけは洋服についたシミという生活のふとした瞬間。

でも、誰に嘘をついたんだろう。どんな嘘をついたんだろう。
嘘の内容は具体的に明かされることはないけど、ここではまだただ情けない嘘ということしか分かりません。

ただ、何かをきっかけに思い出しても仕方ない昔のことが蘇ってくるのって、やっぱり生活の中の一部としてリアルで共感できるフレーズ。

音楽の面では、1番でひとり時間の経過を不安に思う表現としてピアノ+ボーカルのみが使われていましたが、2番のAメロ冒頭の4小節ではドラムが一緒に鳴っていて寂しさが薄まっている感じがします。
1番のサビの出来事があったからこその変化なのかも。

もどれないあの唇は恥ずかしいし
胸の裏側少しくすぐるんだ

『メロンソーダ』/AIKO

「もどれないあの唇」って誰の唇なのか。
唇の隣接的な意味として自然にキスが連想されてしまう。
ここから、登場人物の三人目としてもうキスができない人(=過去の恋人)が出てきます。

主人公が昔の恋人との出来事を恥ずかしいものとして思い出すこと。
それを「胸の裏側少しくすぐる」と言うのも絶妙な表現。
胸の裏側を刺激されてもそれを外から抑えることはできない、抗えないこそばゆい感覚。

一番では不安な現在と未来について描かれていたのに対して、二番は思い出すという形で過去が描写されています。

もう少し深く想像すると、「胸の裏側少しくすぐる」ようなことって、主人公はきっと真剣にやっていたんだろうな。今になって思うと恥ずかしいけれど、当時は心地よかったり真剣だったりしたからこそ、思い出すのかもしれません。この真剣な甘さはメロンソーダなのかもしれません。

大きく手を振ったあともまたすぐに逢いたくなるから

『メロンソーダ』/AIKO

主人公が誰かに手を振って、また会いたいと思う描写。

ここで大きく手を振る相手は誰かは明示されていません。
可能性としては、1番の「君」と、2番Aメロの過去の恋人がありますが、ここでは1番の「君」と考えます。(過去の恋人に手を振りってまた会いたいと思うと物語的にドロドロしはじめ、物語のテーマに合わなさそうなので)

一日におわりに一番の「君」に手を振って家路について、それでもすぐに会いたくなることの愛おしさ。それに隣接して滲み出る、一緒にいた時間の愛おしさも含めて、主人公が今の季節を楽しめているように感じられます。

他愛もない事はいつかのとてつもない幸せの積み重ね

『メロンソーダ』/AIKO

真理の一行。

他愛もないことの積み重ねの先に「いつかの」幸せがあると思えるようになったことは、主人公にとって非常に大きな変化。
1番で時間なんてあっという間に過ぎるんだ、というある意味で時間を軽視していた姿勢と対比すると、今はとてもあたたかい。

このフレーズの位置は、1番で「メロンソーダがビールになって」と歌っていたのと同じ位置。曲の中で重要な位置にこの一行があるということも意味を持っている気がします。

一人で泣いたりしないでね

『メロンソーダ』/AIKO

君と一緒にいない時間に、主人公が「一人で泣いたりしないでね」と思うだけ。1番で君にマフラーを巻いてあげると言ってもらった側が、「一人で泣いたりしないでね」と思うだけでまた成長しているような気がします。
(「一人で泣く」ことを想像することは、もしかすると主人公が過去に一人で泣いたからかもしれません)

いずれにせよ、一緒にいない時間に相手のことを思うこと自体が、愛しいと思う表現。

2番サビ:繰り返す毎日を自ら作る主人公

朝起きて割れた前髪
どこへ行くんだよ戻っておいてと

『メロンソーダ』/AIKO

場面転換。主人公が朝起きて髪を整える場面。
前髪が割れるという具体的なシーンが共感を呼んで、聴き手の心を離さない。

前髪を整えるという何でもない朝の身支度は、「どこへ行くんだよ 戻っておいで」というひとりごとが少し可笑しいけれど、取り立てて何も思うことのないシーン。

手がかりがなく想像になりますが、前髪を整えるのは出かける前のワンシーンで、これから「君」に会いに行くための準備なのかもしれません。

でも、このとりたてて何もない朝の情景こそが「他愛もない事」であり「繰り返す日々」なのかもしれません。

ひねった蛇口が鳴いたよ「ベイベーダーリン」

『メロンソーダ』/AIKO

主人公が朝の身支度をする中で蛇口が音を立てて、水が流れていく。
ここの「ベイベーダーリン」は解釈が定まりません。

ひとつの可能性としては、主人公が朝にラジオを聴いていて、そこでまた「ベイベーダーリン」が聞こえてきたという情景。
これは自然なようで、1番のことを思い出して物理的にラジオが鳴っていることを想像するのは少し難しいような気がします。

もう一つの可能性は、蛇口をひねると同時に主人公が君との電話の中で聞こえた「ベイベーダーリン」を思い出したという説。「蛇口が鳴いたよ」とありますが、蛇口自体がラジオのような音は発することはできません。その代わりに水を流すことはできます。こじつけのようですが、水が流れ出すように電話したときのことを思い出しているのを想像すると綺麗かもしれません。

繰り返し始まる続きをこの手で作るの

『メロンソーダ』/AIKO

主人公の意思として繰り返しを自分の意思で行うことが明示されています。

1番では「繰り返す日々にもらったプレゼント」に気付くシーンですが、2番では「繰り返し」を自分の意思で行おうとすることにまた主人公と変化を感じます。

もう「きっとまたすぐに寒くなって」と想像する主人公はいなくなりました。

つまずいて転んでも桜は綺麗だよ

『メロンソーダ』/AIKO

ここまでの文脈を考慮すると、「つまずいて転ぶ」ということは、繰り返す日々、他愛のないことの積み重ねの中での小さな失敗のこと。

繰り返すことは単調なようで難しいこと。少しずつ主人公も君も変化していきます。

それでも主人公が君への想いに気付き、一緒に過ごすようになった今なら、ひとりで肩をすぼめてマフラーを巻くような寂しさではなく、春の桜の綺麗さを想像できる

主人公ちゃん、成長しやがって…。

2番の解釈まとめ

1番で君への想いに気付いた主人公は、洋服のシミをきっかけに過去の恋人のことを思い出し当時のことを恥ずかしく思っていた。
それでも今は1番の君との時間を楽しむうちに、「他愛もない事はいつかのとてつもない幸せの積み重ね」だと悟り、ただ生活の中の身支度をする場面で「繰り返しはじまる続きをこの手で作る」という意思をもつように変化した。
そしていつの間にか、冬の寒さではなく、春の桜の綺麗さを想像するようになっていた。

1番から時間への向き合い方が大きく変わった2番でした。

間奏

Cメロの内容が次の春になっていることから逆算すると、この間奏でかなり時間が経過していそう。その表現として、エレキギターがメインになる派手さ。ここに寂しさみたいなものはもはや感じないけど、それが時間による変化そのもの。

Cメロ:1年で変わった主人公のあり方

特別な春の日差し

『メロンソーダ』/AIKO

説明不要のような一行。
でもこの春の日差しは特別。

これも明確には表現されていませんが、1番のAメロの春から時間が経って、君への想いに気付いて迎えた1年後の春になったんだと思います。
他愛もないことを積み重ねて、繰り返しの毎日を自ら作って迎えた新しい春。1番Aメロのときの「きっとすぐにまた寒くなって」とは違う結末を迎えた春は、主人公にとって特別な意味を持っているはず…!!

そしてこのパートは楽器構成が1番Aメロと同じ、ボーカル、ピアノ、ドラム。1年という時間が、歌詞とメロディの違いによって美しく対比されているのでは…!!

さようならも愛しているのよ

『メロンソーダ』/AIKO

満を持して「愛しているのよ」までいただきました!!
実はここまで直接的な愛についてのことばはありませんでした。

「さようなら"も"愛している」ので、君のことは言わずもがな。
2番Bメロで「大きく手を振ったあともまたすぐに逢いたくなる」から、さらに想いが大きくなっていますね。

今頃君は目を覚ましているかな
おやすみとおはようが重なる

『メロンソーダ』/AIKO

主人公が一緒にいない君のことを想像するシーン。
「おやすみとおはようが重なる」は、主人公か君のどちらかは昼夜逆転してるな…。(作り手のことを持ち出すなら、夜行性のほうがaikoだろうな)
一時的にか、主人公と君の生活リズムが違っているのかもしれません。

相手のことを思いやると、「おやすみとおはようが重なる」のドラマ的な美しさ。ことばにしても美しい。

主人公と君は電話していないだろうから、メッセージのやりとりなのかな。
一方は寝るときに相手のことを思い、もう一方は起きてすぐ相手のことを思う。

「どーせすぐ冬になる」なんて思ってた主人公がこんな甘々と甘々になるなんて誰が想像したか…。幸せで素晴らしい!ありがとう!!!

ラスサビ:繰り返しと回想

ねぇ今日も少し不安だよ
だったら見える糸君に巻いてあげる
電話の向こうでラジオが「ベイベーダーリン」
繰り返す日々にもらった
プレゼントは君だ
ある日突然心に灯る想い

『メロンソーダ』/AIKO

J-POPの楽曲構成として、ラスサビに1番や2番のサビをそのまま持ってくることは形式的によくあること。でも、今も昔もラスサビを少し変えたりコーダ部をつけて味付けを変えると言う選択肢も存在する中で、1番のサビの歌詞が繰り返される意味を考えてみます。

その意味を想像するに、時系列的に展開してきた物語の最後として、主人公の不安に寄り添ってくれた君のことば、そこから自分の想いに気付かせてくれたラジオを含めてとても大事なシーンを回想しているのかなと思います。

「特別な春の日差し」をあびて、綺麗な桜を見られるようになった今、不安だった過去を思い返す回想。その姿が物語の読み手、聴き手として嬉しい…!

後奏

なんのことはない、aikoの気持ちいいフェイクが味わえるパートというだけ…、ということはないかもしれません。

前奏と1番Aメロでは、春のあたたかさと心地よさを表現する前奏の音楽に対して、主人公はその外にいるように感じられました。

そんな主人公が、今は春のあたたかさを感じる楽器の中で気持ちよくいられるようになった、それを後奏のフェイクで表現しているとしたら…?
物語のエピローグとして、最後まで本当に美しい作品なのでした。

全体を通しての解釈

めちゃくちゃ雑にまとめると、

これから新年度が始まる春に「どーせ時間なんてあっという間にすぎるし」と寂しく思っていた主人公が、君とラジオのことばをきっかけに君への想いに気付いて今を楽しめるようになり、日々の繰り返しの先の次の春を楽しみにできるようになった幸せハッピー物語!!

だと思います。

こう表現すると全く面白そうじゃないのに、これを生活感のある比喩と情景描写で私たち聴き手の共感を強制的に揺り起こして、物語を演出する綿密かつ自由な音楽の美しさがaikoの圧倒的な魅力なんだよな、天才!!!

時間は気付いても気付いていなくてもゆっくりと人を変化させるもの。
時間の流れに悲観的だった主人公が、他愛もない事を積み重ねて春の桜の綺麗さを想像できるようになるきっかけは、君への恋心に気付いたこと。そして生活に溶け込んだラジオから偶然流れた「ベイベーダーリン」だったのでした。

3. 楽曲の概要と感想

(ここからはただの概要と感想なので曲の背景などを全開で書きます)

■曲の背景

この曲は2019年のFM802の春のキャンペーンソングとしてaikoが提供した楽曲です。そのため『メロンソーダ』はaiko単体の曲として制作されたのではなく、他の豪華アーティストが一緒に歌うことを念頭に置いて制作されたものになります。

「メロンソーダ」
作詞・作曲:aiko
編曲:トオミヨウ
参加シンガー:aiko/上白石萌歌/谷口鮪(KANA-BOON)/橋本絵莉子(チャットモンチー済)/はっとり(マカロニえんぴつ)/藤原聡(Official髭男dism)
コーラス:KAN/秦 基博

https://realsound.jp/2019/03/post-340786.html

現在は公開されていませんが、この豪華メンバーのレコーディング映像を繋ぎ合わせてスタッフたちがクラップをする様子は本当に楽しいものでした。

現在聴くことができるのは2021年にaikoがリリースしたアルバム『どうしたって伝えられないから』に収録されたaikoのみのセルフカバーバージョン。

■ラジオとaiko

aikoはデビュー前にラジオパーソナリティをしていたこと、今もラジオのヘビーリスナーであることなどから、『メロンソーダ』はFM802に提供することへの並々ならぬ思いのこめられた楽曲だと思います。

まるで私小説のようにラジオへの想いが直接的に滲んだ『ラジオ』という楽曲を聴いてもその思い入れを感じられます。(これも良い曲…!)

このラジオに提供する楽曲ということで想いは強く、制作には1年もかかったようです。

aiko:オファーをいただいたときは、「そんなすごいこと、できないです」と思って、結局1年待ってもらったんです。

https://www.barks.jp/news/?id=1000197530

■楽曲の中でのラジオのあり方

楽曲の中で直接的にラジオが言及されたのは、1番サビとラスサビのみ。それでもラジオは主人公が自分の想いに気付く大きなきっかけになります。

ラジオはドラマチックに作用しているようで、ラジオがしていること自体は生活の中でかかっていたことだけ。

ラジオが中心にあるのではなく、主人公の生活の中にラジオが当たり前のように溶け込んで包んでくれているような感覚。

この距離感が絶妙なのじゃ。。

■ラブソングとの距離感があってもラブソング

取りかかったときは、キャンペーンソングを意識しないで、楽しいと感じる曲、「ラジオから流れてきたら嬉しいな」という曲を作ろうと思って、大阪の友達のことを思って書きました。ファンのみんなのことも考えてましたね。ファンのみなさんも、友達になったら毎日電話するような仲になったと思うので。

https://www.barks.jp/news/?id=1000197530

aikoといえばラブソング。

恋に向かうときも、恋の中にいるときも、恋がおわったときも、どこか生活を感じるひとりの視点が共感のための強いフックになっているように思います。

『メロンソーダ』だと「メロンソーダとビール」「洋服についたシミ」「朝起きて割れた前髪」などなど、そしてそれについて思うのは誰かと一緒にいたとしても、ひとり思ったことになっているような気がします。

『メロンソーダ』について内田正樹さんがaikoにインタビューしたときの発言で、内田正樹さんは「恋愛がメインテーマじゃないところが珍しい」とコメントしていました。

でも、私はこの曲でも恋愛はメインテーマのひとつではあると思います。(aikoも内田さんへの第一の応答として「あ、本当ですか」と言っているのも気になります)

ただ、直接的に相手に「好き」「愛している」「恋に落ちた」と感じるシーンはなく、「キス」をするシーンもありません。明確に相手のことを思い続けるところも少ないかもしれません。

aiko「大阪の友達のこととか、ファンのみなさんのこととか、を書きたいなと思って書いたので、ちょっと違うアプローチの仕方でしたね」

https://open.spotify.com/intl-ja/track/4smrXa6Y2i4XhRrF763WWM?si=75cc51c58ef84f82

それでも、君への「心に灯る想い」はありますし、「さようならも愛しているのよ」はしっかりと表現されています。2番で「戻れない唇」を思い出していることから、この想いは友情や家族愛にはなりにくいような気がします。

解釈をしたように、物語の大きなテーマは時間の経過による主人公の心の持ち方の変化は大きなテーマでしたが、その変化を与えてくれたのはやっぱり恋愛で、aikoはaikoでいてくれるんだな、と思いました。

4. おわりに

この曲を解釈してみて改めて美しいなと思いながら、ここまで考えなくてもシンプルに綺麗で心地よい魅力のある音楽でもあるなあ、と改めて思いました。

私が惰性で一日一曲音楽を聴くようになったのも、退屈で少し不安な春の日にたまたま『メロンソーダ』のMVを見て、この気持ちをメモしておきたいと思ったからでした。音楽なんてまともに聴いてこなかった自分を惹きつけたこの曲と出会って本当に良かったなあと思います。

そこからaiko沼にずぶずぶ嵌ったのは、ひとえにその歌の中に描かれる生活を通して、いろんなひとりの風景と音楽を広げてくれるからなんだろうなあ。

aiko, Radio Darling, FM802、本当にありがとう…!!!

最後に、こんな素晴らしい楽曲のライブ映像が入ったCD+Blu-rayが2023年11月22日に発売されるみたいですよ!!(唐突な宣伝)

aiko初めてのフェス参加で、Radio Darlingのメンバーから
・KANA-BOON 谷口鮪
・Official髭男dism 藤原聡
・マカロニえんぴつ はっとり
も奇跡的に参加した貴重映像かつ、私のようなaikoビギナーにとってもやさしい有名ブチ上げ曲のセットリストみたいなので、一緒にメロンソーダとサッポロビールをちゃんぽんしながら観ましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考リンク

↓aikoがメロンソーダに関して言及したインタビュー記事などです。

↓「ねがう夜」の特典BDのオーディオコメンタリーでも少し言及がありました


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