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水族館で鬼ごっこ 全8回
電話をかけるとき、わたしはいつも死んでいる。耳の穴に響くコール音が、そのときのすべてでなければならなくて、集中してるんだか、ぼんやりしてるんだかも分からなくて、頭はくらくら、体のほうはまたマイペースで、水槽に肩でもたれて、指揮でもするように人さし指で三角を描いている。ああ、あ、あ、あ、左の首筋が痛い。首筋から、肩にかけて、だるくて痛くて、ぱんぱんにはっていて、あいかわらず、なんて言えるくらいにお
もっとみる【お知らせ】第6回 林芙美子文学賞 最終候補
第6回 林芙美子文学賞
小説『水族館で鬼ごっこ』が最終候補作品に選ばれました
http://www.kitakyushucity-bungakukan.jp/news/4146.html
第6回 林芙美子文学賞 最終候補作品の決定
題名 作者名
水族館で鬼ごっこ 川光 俊哉
諷誦文 津田 美幸
煙草の神様 芝 夏子
昇降の美学 踊 真紀子
どぶだが 〜戦国狐狸合戦〜(12)終
12(フィナーレ)
口上役、登場。
口上 かくして、信長は滅びた。天下は、家康のものとなった。
ご見物のみなさま、ごぞんじのとおりだ。
こんなことが、あったかもしれない。なかったかもしれない。誰も知らない。
あってもなくても、みなさま、ここでごらんになった、これはすべて嘘ではない。が、本当でもない。
そんなまさか、と思し召しになるだろうが、いや、待てよ、とも胸のうちでつぶやかれ
どぶだが 〜戦国狐狸合戦〜(11)
11
朝。
昨夜の祭りのあとを残して、男、子供、小狐が寝ている。男、やがて起きる。
たらい、手ぬぐいなどを持って、小狸、登場。男のほうへ近づき、もう起きていることに気づく。
小狸 おはようございます。
頭を下げる。たらいの水をこぼしそうになり、あたふたする。男、それを見ている。
小狸、たらいなどを男の前に置く。
男、おもむろに顔を洗いはじめる。小狸、それを見て
どぶだが 〜戦国狐狸合戦〜(10)
10(幕間)
夜が明ける。酔いのさめた源五郎が、もうなんだか分からないが、なんとなく走りつづけている。武者たち、ふらふら登場。源五郎とぶつかる。
武1 あ、家康さま。
源五 ん?
武2 よくぞ、ご無事で。
源五 うん。
武3 ひどい目にあいました。おそろしい百姓どもだ。
武1 ささ、こんなところ、早く離れましょう。気味の悪い山だ。
源五 そうでもないが。
武1 ささ、
どぶだが 〜戦国狐狸合戦〜(9)
9
祭り囃子の笛、太鼓。
夜。
「1」のように、やぐら、出てくる。
やぐらのまわりに、里の百姓、狸、狐、入り乱れて踊っている。
やぐらの上に、男が座っている。「1」に似ている。
源五郎、酒を手に、よたよた、
源五 狸、万歳。狸、万歳。見ろ。目じゃないぞ。源五郎さまがお通りだ。
勝った、勝った、勝った……
まわりの狸たち、源五郎をなだめている。