川光 俊哉 Toshiya Kawamitsu
あらためて 私のやっていることを 自己紹介させてください。 1 脚本家 舞台「銀河英雄伝説」シリーズ他 商業演劇で脚本を担当してきました。 原作から脚色する仕事が多かったためか 構成は得意です。 企画書、プロット、脚本など 執筆のスピードには定評があります。 2 講師・先生 二松學舍大学で脚本の書き方、読み方を教えています。 個人でも創作教室を開講しています。 単なる「添削」ではない、共同制作者としての 有益なアドバイスができるよう心がけています。
3−3 永井、拍手しながら、登場。 永井 見せてもらいましたよ。聞かせてもらいましたよ。 咲希 あ、ヤクザ。 永井 誰がヤクザだ。 老婆心ながら、ひとつ、よろしいかな? 本当に夢を夢だと思っているの? 夢……あえて夢をいうことばをつかうが、夢なんて、神さまの神殿や、幽霊のすみかや、天国や、もしかしたら地獄のような場所にあるものさ。漠然とした、つかみどころのない、抽象的でたどりついたものなんていない。こう言えばいいのかな? 今度は、目的、ということばをつかってみよ
3−2 渉、咲希。 咲希 どうしたの? 渉 なんか…… 咲希 楽じゃん。自由にやらせてくれるんだってさ。 渉 なんか…… 咲希 なに? 渉 役者って、そういうものかな、って。 咲希 どういうもの? 渉 …… 沈黙 咲希 きみもオーディション? 渉 まあ。 咲希 で、受かったわけだ。 渉 きみも。 咲希 わたしはさ、電話が来たとき…… 咲希、正面をむく。オーデションでうかったときのことを再現する。 咲希 めちゃくちゃうれしいです。 はい
3−1 神崎以外。 大輔 好きに、自由にって……どこまでやっていいんですかね? 松岡 思うにね、遠慮しすぎてたんですよ。 洋子 もっと、思ったことを言ってもよかったですよね。 松岡 ぼくね、72歳なんですって。 おかしいじゃないですか。日中戦争がどうの、「いのちみじかし」のゴンドラの歌、軽く120歳を越えてないと、口に出ないですよ。 渉の年齢設定で1歳ちがうとかどころじゃないって。 永井 あいつの老人イメージって、そんなもんなんですね。 戦争を体験し
2−1 神崎 カット! 神崎、登場。 緊張がとける。 神崎 おつかれさまでした。じゃあ、打ち上げのほうに。 松岡 セリフ、長いですよ。 洋子 クッソ長い。 大輔 誰が書いたんです? 神崎 ぼくですけど。 みんな えっ。 由紀子 才能あるじゃないですか。 永井 もっと書いてもよかったと思うな。 奈津美 そうそう。長いけど……おぼえやすい、言いやすいっていうか。 大輔 なんていうの? 現代のシェイクスピア? 松岡 バーナード・ショー? 洋子 三島由紀夫よ。 神崎 本
1−13 永井、由紀子、登場。 永井 ここだと聞いたよ。 由紀子 あなた…… 永井 (手で制す)きみに、ひとつ忠告がある。もう来るな。理由は分かるな。 渉 分かりません。 永井 しずかに、最期を看とりたい……あの子の心を、みださずに。きみは、咲 希のなにを知っている? 病室のベッドで、月に顔を照らされながら、かすかな声で、わたしには聞こえた。「大嫌い……渉なんて……大嫌い」 渉 え…… 永井 ひとすじの涙も、青白く染まっていた。はかなく落ちた……落ちたんだよ
1− 11 大輔、奈津美。 奈津美 大輔。ありがとう。 大輔 なんだよ、そんなこと……結局…… 奈津美 うん。ふられちゃった。 大輔 やけ食いでもするか? 奈津美 ……焼肉とかさ。 大輔 おまえのおごりな。 奈津美 えー。 大輔 ありがとう、って言ったよな。ちゃんとかたちで示せ。 奈津美 カラオケとかね。 ふたり、笑う。 沈黙。 奈津美 本当に……なんて言ったらいいか…… 大輔 おさななじみの一大事だ。助けないわけにはいかないだろ。 奈津美 おさななじみ
1−8 渉、大輔、登場。 大輔、渉を突き飛ばす。 大輔 おれは、おまえをなぐらなきゃいけない。 渉 ……どうして。 大輔 ……一生分からねえよ…… 大輔、なぐりかかろうとする。 奈津美 やめて、大輔。 奈津美、登場。 大輔、手をとめる。 大輔 ……でも、こいつが…… 奈津美 どうしたの? 大輔 ……なんでもない。 大輔、去る。 1−9 夕焼け。 渉、奈津美。 渉 なんだ……あいつ……(奈津美へ)見舞い? 咲希の。 奈津
1−6 医者・神崎、ナース・洋子、登場。 咲希 洋子ちゃん。 洋子 探したわよ。 渉 ……(会釈する) 洋子 もしかして、彼氏? 咲希 うん。渉くん。 神崎 主治医として、ひとこと……接触するなら、消毒してから。接触してしま ったら、あとで消毒。特に、この指。 神崎、小指を立てる。渉、咲希、照れる。 洋子 そろそろ検温の時間よ。 咲希を病室までエスコートしてくれる? ……渉くん。 咲希 はい(手を出す) 渉 ……接触するなら、消毒してから。 咲
1−4 千秋、登場。 千秋 (さえぎって)患者さんに迷惑ですよ。 渉 あ…… 千秋 (笑う)おじいちゃんは、置いてきました。 自分ではらうんだって聞かなくて。 渉 そうですか。 千秋 言い忘れたことがあって。 ……変に思いませんでした? 渉 ……お名前、ですか? 千秋さん…… 千秋 そう。清子は、わたしの亡くなったおばさんです。 ……亡くなる前、清子は、おじいちゃんに言いました。外国の……難民の男性と結婚する、と…… 清子にふりそそいだの
1− 1 昼さがり。 病院の中庭、常夜灯とベンチがひとつ。 老人・松岡、孫・千秋に車椅子を押されて、登場。 松岡、ゴンドラの歌を歌う。 松岡 いのち短し、戀(こひ)せよ、少女(をとめ)、 朱(あか)き唇、褪(あ)せぬ間(ま)に、 熱き血液(ちしほ)の冷えぬ間(ま)に 明日(あす)の月日(つきひ)のないものを。 松岡 日中戦争。大東亜戦争。太平洋戦争。 永遠につづくかと思われた、火の雨、血の川、不毛の荒野、また荒野…… 死
登場人物 渉 17歳、高校2年生。愛する咲希のためになにかしてやりたいが、なにもできない無力をなげいている。 咲希 16歳、高校2年生。愛する渉を残して逝ってしまうことが気がかりでならない。渉にきらわれようとする。 神崎 42歳、医者。咲希の主治医。妻子があるが、洋子と不倫の関係にある。 洋子 28歳、ナース。神崎の不倫相手。このままではいけないと思っている。 松岡 72歳、入院患者。娘のことで後悔している。 千秋 23歳、松岡の孫。足の悪い松岡を心身ともにささえ
3−4 福永、登場。 福永 先生! ……大森さん。 大森 どうも…… 福永 先生、いま、先生の本、読み終わったんですよ。 おもしろいじゃないですか。やっと、先生も小説の書きかたが分かったんですね。 岩谷 どうも…… 福永 早く感想を伝えたくて! つづきは、いつ書けるんですか? 岩谷 つづき? 福永 つづき! 岸田 それは…… 三上 ぼくも気になっていました。 大森 つづくんですか? 福永 先生。 皆々
3−1 書斎。 岩谷、ひとり。 本棚、机の上、がらんとしている。 チャイムが鳴る。 岩谷 はい。 伊藤、登場。 伊藤 ……ずいぶん…… 岩谷 きれいになったか? 伊藤 ……さみしくなった。 岩谷 引っ越し、するんだ。 伊藤 そう。 岩谷 処分した。 伊藤 本、全部? 岩谷 ほとんどね。 伊藤 命より大切なんだと思ってた。 岩谷 …… 伊藤 わたしがなにを言っても、ああ、とか、そう、とか、てきとうな返
2−8 岩谷、くろかわ、はいじま、しろい。 岩谷 おまえら…… 三人 はい! 岩谷 なにがしたいんだ? 三人 はい? 岩谷 なにしてたんだ? くろかわ 先生に…… はいじま よろこんで…… しろい もらうため! 岩谷 …… くろかわ さあ! はいじま どうです! しろい さあ! 三人 さあ! 沈黙。 岩谷 おれにどうしろというんだ…… 三人 さあ! 岩谷 …… くろかわ 選んで! はいじま 誰? しろい さあ! 三
2―4 岩谷、篠原、登場。 岩谷 道、覚えた? 篠原 弟子は? 岩谷 知らん。 篠原 いないのか? 岩谷 そういえば、一週間か十日くらい見ていない気がする。 篠原 なにかあったのか? 岩谷 なにも。突然。なにも言わず。 篠原 ……それで? 岩谷 そのうち帰ってくるだろ。 篠原 いや、おまえだ。なんの用かと思って。 岩谷 ……引っ越す。 篠原 急だな。 岩谷 ずっとそうしようと思ってた。 篠原 どうして? 岩谷