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#ナボコフ

ナボコフ 詩抄 (40) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (40) Translated by Toshiya Kawamitsu

  一夜

記憶に 一夜 なにがある
きっと 昨夜は 雪 ふって
なんて 静寂 この 心
忘却研究 役立たず
問題 ほどける 睡眠中
なんて 簡単 優雅な 解
(あたま なやませてきたのかと
 なんねん なやんできたのかと)
こんなに のぞむ 朝 起床
ベッドも 体も なくなって

What Happened Overnight
Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (39) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (39) Translated by Toshiya Kawamitsu

  かたく信じて

かたく 信じて 生命の
循環 信じて わたしたち
おどろきとともに ふりかえる
どんなに あなたの現実の
色にそまっていないかと
まるで かすみ か 波紋 かと
わたしとあなた 水面 底
電信柱と あなた 見て
夕日のなかで 背中 見て
半血種にのる あなた 見て
あなたは ずっと わたしじゃない
あなたは 輪郭 英雄で
第一章の 英雄で
ずっと ずうっと 信じてる
山の高みと

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ナボコフ 詩抄 (38) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (38) Translated by Toshiya Kawamitsu

  夕焼け

同じベンチに 夕焼けは
遠い むかしの ものがたり
極彩色のコガネムシ
雲を あなたは 知っている
同じベンチに 夕焼けは
半分 朽ちた 看板で
深紅の川の上空に
遠い むかしの あの 笑顔
死んだ心が 帰るなら
いつか 帰ってくるならば
あなたは しずかに 顔 そらし

At Sunset
Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (37) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (37) Translated by Toshiya Kawamitsu

  どんなにあなたを

みどりの 灰の 溝となる
雨に 菩提樹 かぐわしく
もう 待ちきれない さあ 行こう
雨は ざわざわ 道の上
花は 満開 くちづけを
べとつく土に 何度でも
急いで 遅れる前に さあ
早く 帰ろう 気づかれず
あなたは ケープに 身をつつみ
わたしの心 くるおしく
めぐる 年々 落ち着けて
木々のざわめき 柵のうち
鳥のさえずり 檻のなか
なんて 目ざわり 耳ざわり
おはな

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ナボコフ 詩抄 (36) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (36) Translated by Toshiya Kawamitsu

  夕焼け

夕焼け ベンチ 若き日々
夕焼け色 雲 コガネムシ
ベンチ 半分 朽ちている
深紅の川の真上では
あの日 ほほえみ 顔 そらし
いつしか 死んでしまったら
命を かえそう あたえよう

At Sunset
Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (35) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (35) Translated by Toshiya Kawamitsu

  雪

あの音 この音 雪を踏む
ぎしぎし ぎしぎし ぎしぎし と
誰かが フェルトの靴で 行く
ふとく ねじれて さかさまに
軒下 つらら とがってる
雪は 不機嫌 かがやいて
あの音 この音 手は すべる
ひきずるどころか 手は すべる
わたしのかかとをノックして
光っています わたしの手
急な はたまた なだらかな
海岸 くだる その上で
フェルトのブーツで立っている
わたしは 靴ひも つ

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ナボコフ 詩抄 (34) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (34) Translated by Toshiya Kawamitsu

  音はやわらか

沿岸 ちいさな町のこと
ある夜 かすかな音がして
あなたは 退屈 窓をあけ
海のさざなみ もう 近い
大地を守り 呼吸して
心は 上空 それを聞き
ひねもす ささやく 波 のたり
招かれざる 日は 落ちていく
コップ からっぽ りん りん と
棚におさまり 鳴いてます
しっ しっ しずかに 眠らずに
大きく ひろく 窓をあけ
偉大な しずかな この世界
あなたは ひとり この世

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ナボコフ 詩抄 (33) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (33) Translated by Toshiya Kawamitsu

  楽神

あなたが来た日を 思い出す
見知らぬ世界へ いきいきと
あたえる ふるえ 月に 枝
また バルコニー 影を投げ
こと座のかたち 若き日の
わたしは退屈 見せかけの
シェイクスピアは 耳ざわり
あなたの肩は けだるくて
わたしの歌は 未完成
赤い口唇 笑ってた
わたしは しあわせ かげりゆく
机に ろうそく ゆらめく 火
夢のなかでは グラス 置き
下のページは ジグザグに
添削 不滅 

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ナボコフ 詩抄 (32) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (32) Translated by Toshiya Kawamitsu

  リリス

わたしは 死んだ アイオロス
灰色 通りに 吹きつけて
シャッター沿いには オオカエデ
わたしは 歩く ファウヌスと
牧神 ひとり 見つけだす
楽園にいると 確信し
顔を かくして 太陽は
火花 ちらして 腕をあげ
出口に立って 赤裸々に
少女が ひとり 存在し
巻き毛に スイレン しとやかに
やさしく 胸に 花は咲き
地上の春を 思い出す
川辺のハンノキ すかし 見る
粉屋の娘 も

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ナボコフ 詩抄 (31) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (31) Translated by Toshiya Kawamitsu

  ねむくないねむれない

まだ ねむくない ねむれない
ちいさな しあわせ かみしめて
時計は ちく たく スクルージ
あかね空には シルエット
クレーン 貨物を 抱き しずみ
うつむく 若き 亡命者
自分の色に 染まる 霧
浮かぶ あなたの 蜃気楼
日々は まぼろし うつくしく
ふるえる いつも ついてくる
なにかを わたしに 言いたげに
机に 光の 水たまり
憂鬱 ひらいた インクびん
雪 

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ナボコフ 詩抄 (30) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (30) Translated by Toshiya Kawamitsu

  死刑執行

あの夜 この夜 寝ると すぐ
ベッドは ただよう 流れゆく
祖国のほうへ 谷へ いま
殺されるため 谷へ いま
マッチで 火を つけ うそ 燃やし
いすから 見ている 闇のなか
かがやく 銃口 動かずに
両手で 胸と 首 おさえ
やがて 弾丸 発射して
火花は にぶく 光る 目を
そらすことなどできなくて
時計の針は ちく たく と
凍った意識に よみがえる
あなたが なにを ねが

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ナボコフ 詩抄 (29) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (29) Translated by Toshiya Kawamitsu

  楽園

遠い 死を 越え 魂は
あなたは きっと こんなふう
田舎の学者 楽園で
くるしみ 笑い 消えていく
林のなかには 天使 いて
野生の天使 まどろんで
くじゃくによく似た 生物で
ふしぎに思って ふれてみる
あなたのみどりの雨傘で
観察結果を 残したい
紙に書こうとしたけれど
おしえてもらったことがない
どんなことばが必要か
ここには 読者も 見あたらず
ことばにならないかなしみを

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ナボコフ 詩抄 (28) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (28) Translated by Toshiya Kawamitsu

  夢

めざまし時計をセットして
寝室 しずむ 闇のなか
風船 みたいに 浮かばせて
眠りのなかに 落ちていく
まどろみに住む 無意識に
わたしは そっと 身をあずけ
まるいテーブル おぼろげに
すわることなどできなくて
誰かを ずっと 待っている
客のひとりは ポケットに
懐中電灯 しのばせて
ピストルみたいに さっと ぬき
ドアを 照らした 瞬間に
背の高さなら 彫刻で
かがやく 光の顔を 

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ナボコフ 詩抄 (27) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (27) Translated by Toshiya Kawamitsu

  山が好き

樅の木 黒い外套に
だから わたしは 山が好き
わたしの ふるさと 暗い山
不気味な夜に 住んでいた
身をよせ こまやか 針の山
泥炭ベリーは 青々と
家路 かざって どこまでも
わたしは きっと 忘れない
暗く しめった 細い道
足あと うねる 坂のほう
子供のころから しまってた
しるし はっきり うつしだし
北東のほう 荒地のほう
三日月はしご 天国へ
つづくのならば 行きま

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