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ナボコフ 詩抄 (33) Translated by Toshiya Kawamitsu

  楽神

あなたが来た日を 思い出す
見知らぬ世界へ いきいきと
あたえる ふるえ 月に 枝
また バルコニー 影を投げ
こと座のかたち 若き日の
わたしは退屈 見せかけの
シェイクスピアは 耳ざわり
あなたの肩は けだるくて
わたしの歌は 未完成
赤い口唇 笑ってた
わたしは しあわせ かげりゆく
机に ろうそく ゆらめく 火
夢のなかでは グラス 置き
下のページは ジグザグに
添削 不滅 いまは 別
朝の星には まどろみを
わたしは けっして 捨てきれず
日々のいとなみ うんざりで
わたしの力を越えていて
夢への あせり いらだちよ
手なれて おしんで 寛容で
歌を きれいに みがきあげ
銅より 光り かがやいて
ときには 語る フェンス越し
まるで 田舎の おとなりさん
成熟するとき 絵にされる
満月 スイカ つるに 梨
すきとおる光 真のわざ
寒い もう 秋 楽神よ


The Muse
Translated by Toshiya Kawamitsu

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