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ナボコフ 詩抄 (28) Translated by Toshiya Kawamitsu

  夢

めざまし時計をセットして
寝室 しずむ 闇のなか
風船 みたいに 浮かばせて
眠りのなかに 落ちていく
まどろみに住む 無意識に
わたしは そっと 身をあずけ
まるいテーブル おぼろげに
すわることなどできなくて
誰かを ずっと 待っている
客のひとりは ポケットに
懐中電灯 しのばせて
ピストルみたいに さっと ぬき
ドアを 照らした 瞬間に
背の高さなら 彫刻で
かがやく 光の顔を 見せ
死んだ友達 部屋に 来て
おどろきもせず 話しかけ
なんにも 不思議に思わずに
いま 生きている そこにいる
傷は ふさがる 眉の上
まるで 魔法の 薄化粧
たのしく話していたけれど
よろめき 不安で 友達は
わたしを すみに つれていく
そして ささやく さみしげに
わたしは なにも 分からない
りん りん りん と エコーして
めざまし時計が 鳴っていた
まぶたを すかして 夜があける
一秒 わたし 世界 見て
うつくしくない 世界 見て
これは まちがい 四フィート
感覚 視覚 立っていた
神さま 夢を くりかえす
白昼 どこかの 美術室
鉄砲鍛冶の 窓のなか
なんて すてきな この 奇跡
死んだ友達 また 会える
夢は 偉大なサーカスで
心 ふるえる また 今夜


The Dream
Translated by Toshiya Kawamitsu

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