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2019年4月の記事一覧

詩 285

詩 285

  真空管幻想

夜 落ちかかるころのこと
空気がぬけたオレンジの
甘美なかおり 色ガラス
通信不能 凍る胸

食器は かたかた 泥の沼
ちらばる 痛み 泡をふき
冬の浜辺のバイオリン
鎖につながれ 根をはって

耳をすませば 砂男
あいもかわらず クロールで
水底 長い影を 軽蔑

消え去れ ボタン 草 深く
無口な少女 ひじをつき
やすらか 半分 ドライフラワー

詩 284

詩 284

  メランコリーブロッサム

赤は 色 濃く 反映し
雨をこわがる あなたなら
切りきざんでみた 火もつけた
だけど 沈黙 水蒸気

石を投げたら ぬけがらで
よく見てほしくて かたち 変え
ナイフのように冴えた のど
白く 光って 蛇いちご

うすい みどりの 蛾の幼虫
心のなかに生きつづけ
境界線の こちら あこがれ

ため息 ついても 静物画
蜂蜜味の すてきな日
それでも 覚えている 声は

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詩 283

詩 283

  バクテリア失踪

とぎれた線の眠る部屋
かたく むすんで ひらいた手
紙風船は待ちぼうけ
花壇のすみで 繭のなか

かがやく葉っぱに身をつつみ
ブリキの太鼓は 赤と黒
泳げば 時計の歯車と
きしむ 旅する 万華鏡

しょせん あなたは ハンカチの
エンゼルフィッシュ ほつれ 燃え
分かりはしない 砂糖 骨 灰

空と煙突 その あいだ
ランプ ゆらゆら 落ちた 夜
きりとり線に そって 吸う 

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詩 282

詩 282

  近眼畜

角をまがって 夜のなか
ふりかえっても まだ 近く
わたしをつかまえようとする
若い けものが ただ ひとり

おかしのお店はスカートに
かくされ 今日も 雨 明日も
たどりつけない 子供たち
だまって じっとして 埋める

ここでは なにも起こらない
細くて 長い 腕を 組み
赤 青 むらさき 地面を たたく

小鳥のように 花を 食べ
歯を みがいては 泣きわめく
めんどくさくて

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詩 281

詩 281

  聖金曜日

やぎ座のもとに ひざまずき
ここに不安はないけれど
さみしい天体 空の島
水色の影 ただよわせ

赤いケープは あでやかに
無題の一年 閉じこめて
みだれた黒髪 額 肩
芝生の こがね よぎる 象

魔法の太陽 からっぽの
胸に置かれた かたつむり
鏡に夢中な あなたに さよなら

月のつめたい血をひいた
銀貨 一枚 嚙みくだき
遠い汽笛に 心 うばわれ

詩 280

詩 280

  孔雀飼い

発芽までには まだ 少し
時間がかかる 指先に
季節 浮かべて 金の繭
カーブ ゆるやか 水銀灯

体温 なくせば うつくしい
ことば たゆたう 弱虫の
しるし 誰かと手をつなぎ
幽霊 守る 摩天楼

冒険はつづく 真実の
眠る しずかな 森の奥
まにあうのなら 光線 吸いこむ

いっしょに行けたらいいけれど
ひびく こだまが ほら 否定
ひっくりかえった パノラマ 指輪

詩 279

詩 279

  流星魚

コオロギ 鳴いた 壁のなか
花粉を糧に 夢 うつつ
声をからした餌食なら
巣食う 循環する 回路

拒絶しながら ばら色の
頬 ふくらませ 床下の
地球儀 ぬすんで マーメイド
少し はなれて 破裂した

かおりは ジャスミン 色も青
窒息寸前 格納庫
蛇口から 逃げ あざける とかげ

もがき 苦しみ ゆるすこと
まだ 可能性 指 さされ
しげみに ころがる さくらんぼ 一個

詩 278

詩 278

  庭園公女

あなたのほどけた髪の下
くらがり うつむく 雪割草
温室 ひそむ 退屈に
抵抗すること できなくて

背中 なだらか 日が暮れて
生まれて一度も 手をつなぎ
笑ったことがない 秘密
漂白剤の犠牲者で

いつもの同じ現象に
不安げ かじかむ 金魚草
とねりこ 慟哭 出発は まだ

タイムマシンは未完成
離陸の合図も無責任
芽吹き 花 咲き 一歩 残照へ

詩 277

詩 277

  終日

人影 ひとつ 通りすぎ
土の下には セルロイド
ともしび 流れる 夕霞
誰も悪くはないけれど

かわいく 強く 背が高い
やさしくなれる 観覧車
光をひいて ゆらゆら と

生まれたことも知らないで
数 かぎりなく 糸杉の
遺伝子 涙で 終わらせないから

ぜんまいじかけ 黒トマト
ブーツは空虚で 雲の上
白日 横断歩道 物音

詩 276

詩 276

  ふるえとゆらぎ

花は ほのかに 白く 散り
夜明けのなかで あざやかに
影をかならず落とすから
明日の世界は今日の夢

ペンキぬりたて カメレオン
にくしみ 忘れて すばらしく
見えた 飛行機 生命線
ファスナー あければ 部屋の奥

膝をかかえた 嘘つきの
月の素顔に会えるでしょう
したたる 光 鬼薊 初夏

雨 そそぐ日は うつくしく
気高い心も瑪瑙色
たったひと息 草笛 こわれた

詩 275

詩 275

  灰色チューリップ

だまっていても それだけで
砂が入った赤い目で
日傘の下でまどろんで
スプーンの上 さみしくて

そちらから見たわたしなら
足音 流れる 空 見あげ
しずかにうなずくことでしょう
次のあらしは もうすぐだ

いまごろ あなたは 海の底
かがやき 忘れた オウムガイ
風は なにいろ ナイチンゲール

プラネタリウムで かくれんぼ
愛されるとは知らないで
まだ 残る 酸素 全部

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詩 274

詩 274

  夏至物語

うつくしい蛾に選ばれて
寒い夜には 靴の音
おびえたように ゆれ 動き
あなたに似た人 知っている

変形しながら顔をなで
大きな青い目だけ残る
表情 空中 縫いあわせ
あなたもわたしもリトマス紙

わかちあうもの なにもなく
ただ ふりつもる パンの耳
季節の国境 そびえる サボテン

石を蹴っては 共鳴し
路地裏 なんて 絶縁体
光を愛する心を守る

詩 273

詩 273

  魔法の葉っぱ

かおりは木犀 風に舞う
あそびつかれて 色は青
影もかたちもなくなって
証明される のぞみ 消え

夜は ようやく ふけていく
かざりのこした ガラス窓
きらいな 一羽 立ちあがり
心配いらない まだ 暑い

ほこりをはらって 笑っていた
なんて 芳醇 石鹸水
わかれの予感 ひとすじ 毛糸

あそびつかれて ふたりきり
最後の汚点 ぬぐえずに
栽培するには 苦すぎる 土