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ウェアラブルは流行るか考察(2)スマートウォッチの普及に欠かせなかった4つのこと。 [連載]

連載第1回では“ウェアラブル市場の概況”を書いたが、今回の第2回では、より具体的に「スマートウォッチ市場」について分析する
一言でウェアラブルといっても多種多様なので、“装着する部位”ごとに見ていくことにする。
今回は、まず、“腕” について市場分析してみたいと思います。

※前回の記事はこちら↓


1、アップルウォッチの登場

ウェアラブルする“部位”といえば、2019年時点だと、まずは“腕”がある

“腕”とはつまり、ウォッチ型やブレスレッド型、リストバンド型と呼ばれるウェアラブル端末のことで、2010年代以降、いくつかのヒット商品が登場し、他の部位に先駆けて“腕”の分野は唯一、すでに一定の市場が顕在化しているといえる。

この市場にはなんといっても「アップルウォッチ」がある
期待された登場からはずいぶん時間もかかったし、悪口も相当叩かれたが、結果的に現時点ではアップルウォッチの“独り勝ち”の状態が築かれた。

このマーケットは“スマートウォッチ”と呼ばれる分野で、腕時計自身がスマホの代わりとなって「アプリたちを載せるプラットフォーム」の機能になる。

それと、“腕”の市場には他にもうひとつ、活動量計とも呼ばれる“アクティビティトラッカー”の分野がある。
スマートウォッチと比べると機能はシンプルにしぼられ、安価で、主に“ヘルスケア計測”に強いデバイスが多い。
代表的なメーカーだと、フィットビットやガーミン、タニタなどがある。

大きくいうと、“腕”に装着するウェアラブルには、この“スマートウォッチ”と“アクティビティトラッカー”の2分野がある。

2、なぜ“腕”なのか。

なぜほかの部位ではなく、“腕”なのか。

これは人類の身体において、“パッとすぐに見る”という用途に一番適しているのは「腕への装着である」と、歴史が証明しているからであろうと考えられる。

「時計」は長い年月をかけて「腕時計」にたどり着いた。
いろんな時計の形がテストされた結果、利便性において腕が採用されたのである。

では「腕時計」の歴史を簡単におさらいしておこう。(引用元は引用後にリンク掲載。以降も同様)

現在では手首に時計を着用するのは一般的であるが、100年前はそうではなかった。
1914年に始まり1918年に終戦を迎えた第1次世界大戦では、飛行機、化学兵器、戦車など、それまでになかった多くのものが戦場に投入された。
広く使われていた懐中時計に代わり登場した腕時計は軍事的需要を伴い、新しいものとして市民の生活に取り入れられた。兵士は腕時計を着用するという新習慣とともに戦場から帰還したのである。
腕時計の歴史を語るということは、現代生活の一部ともなった発明について語るということでもある。

軍事的需要とはなにか。もうひとつ、別のサイトからも引用する。

懐中時計はポケットから出して、蓋を開けるという手順を踏まないと時刻を確認できません。しかし、懐中時計を使うのは、貴族など時間に余裕のある上流階級だけだったため、改良する必要はありませんでした。
時計の主流が、懐中時計から腕時計に移り変わった契機は「戦争」です。1880年、ドイツ皇帝が海軍将校用に2,000個の腕時計を、ジラール・ペルゴー社に製作させました。これが、腕時計量産の始まりだとされています。
1840年頃から徐々にモールス信号が使われ始め、多数の部隊が同時に侵攻するといった戦略が可能になり、タイミングを合わせるための「時刻」が重要になってきたのです。
一瞬の油断が死につながる戦場では、ポケットから懐中時計を出す余裕などありません。そのため、腕に巻き付けておき瞬時に目視できる腕時計の需要が高まりました。
また、懐中時計は片手が塞がってしまいますが、腕時計は常に両腕が使えるというメリットもあり、兵士にとっては欠かせない装備になりました。

「瞬時に目視できる」ためには“腕に装備するのが一番”と、軍事を通じて立証してきたわけである。秒単位の目視が問われる専門的な領域といえるので説得力がある。

この背景において重要なのは、
それまで一般的だったという懐中時計が、“年々小型化もできるようになったきたため、腕時計にも展開する選択肢ができた”という技術進化である。
“時計の誕生”とともに腕時計が作れたわけではなく、小型化の技術進化があったからこその腕時計というわけだ。

この歴史の経験は、現代のウェアラブルでも繰り返しているといえる。

「腕時計にコンピューターを載せよう。移動時にも使えて便利だから」という発想ならばけっこう昔からある。
でも結果的に、一般市場にそれが普及したのは、2010年代以降なのである。

なぜ2010年代以降までかかったのかを考えると、まずひとつは、2000年代後半にスマホが爆発的に普及し“インターネットを持ち歩く”という生活を人類が習慣化したこと。

もうひとつは、技術進化があり今のアップルウォッチのサイズにまで小型化させ“スマホの持つ機能の一部を内蔵できるようになった”ことが背景にある。

懐中時計が腕時計サイズにできた技術進歩と、軍人が軍隊で腕時計装着を習慣化したことがそれに当たると言える。

3、腕時計が“もともとあった”からこそ。

あと、人間は、集団生活を送るなかで“他人の目を気にする生き物”である。街の中でひとりだけ浮きたくはない。
ちょっとした自分なりの個性は出したいが、根本的に社会性の枠からはみ出したいわけではない

急になんの話かというと、
ものすごく便利なデバイスだとしても、“頭の上にすごく変な丸い物体を載せなければならない”となると人は嫌がるし、いくら便利だからといって、“手が3本になるデバイスで街中を歩くと目立ってはずかしい”。

この「変な人だと思われたくない」という“人間的な本能”をきちんとおさえてデバイス設計されていないと、一般市場に広く普及するのは難しい。

スマートウォッチが他のウェアラブルよりも早く市場形成できた要因のひとつは、もともとから「腕時計という誰でも持ってる機器が、先行して一般的に浸透していたから」という点も大きいと分析できる。

腕時計の「着け方・使い方」から教える必要がなく、既存の腕時計に“置き換わる”だけなので、理解がしやすいし受け入れやすい。

この“既存の置き換え”というポイントははずせない。

アップルがじょうずだったのは、スマートフォンをスマートパソコンと呼ばなかったことだと言われる。あくまで「フォン」だと定義した(ポジショニングした)。
すでに顕在市場化している携帯電話市場をスマートフォン市場に“置き換える”提案だったので、ユーザーは受け入れやすかった。これがもしもスマートパソコンと呼んでいたら、用途や利便性の提案から教育する必要があった。

“すでに腕時計がもともとあったから”というのは、この事例に近いマーケティング戦略といえる。

4、ウェアラブルのファッション性

ウェアラブルという言葉の中には、
もちろん「身につける」という“ファンクショナル(機能的)”の意味がこめられているが、常時身につけて持ち歩くかぎりは「ファッション性」や「おしゃれ」のような“エモーショナル(情緒的)”の意味も見過ごせない事が、この10年ほどのウェアラブル市場を見ていると言える。ウェアラブルとは良い言葉をつけたものだ。

アップルは、アップルウォッチをつくりあげるまでに、ファッション業界で活躍するキーパーソンのヘッドハント(人事採用)を重ねた。
ウェアラブルはこれまでのデバイスとは違い、“常に身に着けるモノ”になるため、歴史あるファッション業界のノウハウを取り入れようという狙いがあるのだろう。

アップルウォッチは2015年に登場する。
その以前、2013年頃からのたった数年間で主だった人事だけでも下記の発表がなされている。(ただしアップルウォッチに実際に関わったかは特に公開されていない)

・ポール・ドヌーヴ (元イヴ・サン=ローランCEO)
・ベン・シェーファー (元Nike+ FuelBand開発責任デザイナー)
・ジェイ・ブラニク (元Nike+ FuelBandアドバイザー)
・アンジェラ・アーレンツ (元バーバリーCEO)
・マーク・ニューソン (世界的デザイナー)

過去のニュース記事からも引用しておく。

イヴ・サン=ローランCEOだったポール・ドヌーヴが、2013年7月にアップルのヴァイスプレジテンドに就任したのだ(ドヌーヴ氏は、1990年代にアップル社員だったが、その後LanvinやNina RicciのCEOも務めた人物だ)。ドヌーヴ氏はクックCEOとともに、「特別なプロジェクト」に取り組むとされている
アップルはほかに、「Nike+ FuelBand」の開発にかかわった重要人物を2名、採用している。デザイナーだったベン・シェーファーと、アドヴァイザーだったフィットネス・インストラクターのジェイ・ブラニクだ。
リテール部門のトップに、バーバリーのアンジェラ・アーレンツCEOが就任する。「中国」と「iWatch」という同社の次の戦略が見えてくる人事である。
著名なデザイナーであるマーク・ニューソン氏が、ジョナサン・アイブ氏率いるAppleのデザインチームに参加しているようです。2005年にはタイム誌が発表している「世界でもっと重要な100人」に選ばれた経験があるほか、2012年には英帝国勲章のコマンダーを受賞した経験のある、世界的なデザイナーです。


ジョブズ時代のiPhoneは、カラーバリエーションもサイズバリエーションも極端に少なかったのも特徴のひとつだが、アップルウォッチは打って変わってバリエーションは豊富で多様だ。

“ウェアラブルがファッションである”ことを物語っているといえる。

5、今回のまとめ:ウェアラブルに欠かせない4つのこと

さて、今回は“腕へのウェアラブル”について考察した。

アップルウォッチの成功からは“ウェアラブルの普及”における4つの重要ポイントがあるのではないかと整理をした。再掲しよう。

① 利用用途自体の“習慣化”
② 必要な機能に対する“技術進歩”(小型化等)
③ 既存市場との“置き換え”
④ “ファッション性”

これらの要素は、スマートウォッチに限らず、“ほかのウェアラブル機器の今後の普及”にとっても普遍的に確認すべき視点といえるのではないだろうか。

2019年時点では、カンペキに「市場ができた」といえるウェアラブルは「腕」だけである。
ほかに注目されている部位には「目(メガネ)」や「耳(イヤフォン)」などがあるが、それらはまだ健在化市場にまでは至っていない。

なぜまだ市場がつくれないのか。
次回以降に分析してみたいと思う。

コツコツ書き続けるので、サポートいただけたらがんばれます。