繋吾緋都

とらわれびと/暗い話多め/没案とか草稿とか課題とか記録とか

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最近の記事

『愛の模倣』

(講義で書いたシナリオです) 【登場人物】 愛理(22)……女子大学生紫音(22)……女子大学生 葵(23)……男子大学生 店員(22)……行きつけのカフェの店員   ○大学 学内のベンチ(夜) 学内の中庭にあるベンチに愛理(19)と紫音(19)が腰掛けている。愛理は紫音の方を向く。紫音は愛理と目を合わせ、首をかしげる。 愛理「ずっと前から好きでした! 付き合ってください!」 目を丸くする紫音。少し動揺している。それを落ち着かせるように一呼吸置く。紫音「でも、私たち、そ

    • 食事

      僕はパンを食べている。 何の変哲もない食パンである。僕は毎朝その味のしない小麦の布切れを口に入れる。少しパサついており、口の中の水分を奪っていくのがわかる。喉に異物が通る感覚がわかる。空気よりも重く、水よりも軽い。僕の喉仏がそれに応えるようにごくりと音を立てる。 数百年前、パンは庶民の生活食ではあったものの、僕らのような日陰者が口にできるような代物ではなかった。たった数100年でパンというものの在り方が変化したのだから、きっと100年後はパンはパンの形を留めていない。いや、パ

      • おさかな

        むかしむかし、あるところに大きな湖がありました。 そこには、うろこのきれいなさかながすんでいました。さかなは海に出て、クジラになりたいと思っていました。 さかなは知らないのです。一生ここから出られないことを。ここが湖であることを。 そうとも知らずに、さかなはゆめをあきらめませんでした。 ある日、さかなが湖で泳いでいると、大きなさかなに会いました。 「やあ、大きなさかな君」 「こんにちは、さかな君。まだ海を目指して泳いでいるのかい?」 「そうだよ、海はうんと遠いと

        • 死集

          詩を書いてみようと思います 「美女と野獣(現代版)」 死ねるのなら、汚い男に生まれ変わって この世で1番綺麗な顔の持ち主に 罵られて死にたい 「飛べるなら」 大空を舞って あなたの元へ会いに行きたい それが決して 叶うことのない夢だったとしても 快晴の元 君に会いに行きたい たとえそれがどんなに苦しい道のりだったとて 私の願いは変わらない ああ、 あの雲の泳ぐ大海原を越えて 今すぐ会いに行きたいのです 「嫉妬」 喉が燃える 罵倒が頭の中で

          自白

            自殺を考えたのは10歳の頃。クラスのいじめと仕事に追い込まれていく家族に耐えきれなくなったから。実際はそれほど大したことなかったのかもしれない。私の思い違いかもしれない。しかし、幼い私は「自分のせい」であることを疑わなかった。 「自分が消えたら、家族が、クラスの子達が喜ぶんだ」と思った。毎日鏡で自分の姿を見る度にそう思っては涙を溢していたのだ。本当は死にたくなんかないくせに。 それでも迷惑はかけたくなくて、飛び降りようとした。そして、当たり前だが止められた。 泣きながら止

          《閑話休題》創作の話

          私は鬱が回復したら創作辞めるんだろうなという決意をしてます。恐らく、ですが。私に誇れるものは憂鬱な死にたいって気持ちくらいだから、それを吐き出すくらいだから。それがなくなったら多分何も書けなくなるんだろうなって気がします。今も少しそんな感じがしてます。感覚的に何も出来なくなるんです。何も思い浮かばないし、書いてる感覚もないし、書いた内容の記憶もあんまりないんです。それって芥川の「歯車」みたいですよね。不思議だなぁ。 創作、出来なくなっても読むのは好きでいたいなと思います。読

          《閑話休題》創作の話

          最初の記憶(400字課題)

          私は今暗闇のなかにいる。 懐中電灯をつけて周りを見渡す。たくさんの絵本とお菓子とぬいぐるみが狭い空間にちらばっている。そうか、これは洞窟探検の最中だったんだ! と思い出した。思い出したら、わくわくしてきて大好きな絵本を開いて。絵本の世界に飛び込んだ。懐中電灯に照らされて読む絵本はなんだかとっても幻想的ね。まるでキャンプに来たみたいだわ。みんな一緒にこっちにこればいいのに。どうしてお母さんもお父さんもおばあちゃんも妹も来ないの? 突然がたがたがたって音がして、暗闇の中に引き

          最初の記憶(400字課題)

          ガラスのコップ(400字課題)

          夜のベランダに置かれたガラスのコップは夏祭りのラムネ瓶に似ていた。夜の暗がりから僅かな光を集めるガラス。提灯のチラつくあかりが淡く透き通っている。その魔法はただのガラスから一晩だけ火を灯したランプへ変身する。傾けるとコトと、まるで瓶の中のビー玉を揺らすように音を立てた。水泡は夜空に溶けた淡い液体になって揺れている。傾ける事に小さな泡が弾けては消え、また弾けては消え……。泡が提灯のチラチラしたあかりと共に照らされては遠のいてゆく。出店の熱いランプや提灯、誘蛾灯の光が夜道に流れて

          ガラスのコップ(400字課題)

          今日の記録(1部抜粋)

          祖父には会えない。死んでいるから当たり前と言っちゃ当たり前なんだけど。 小説の話をするといつも話題になるのは祖父の事だった。私の家族の中で本の話ができるのは祖父、ただ1人だけだ。昔は煙たがってたのに、いざいなくなると辛いものなんだなぁと思う。それに、私が本の面白さに気づくのが遅すぎた、というのもある。今なら日本酒を飲みながら文学の話とか出来たのかな。誕生日にくれた本たちに面白い以外の感想が言えたんだろうな。 そう思うくらいには引きずっている。

          今日の記録(1部抜粋)

          雨音を引きずる

          私は死んだ。 私は彼を受け入れた時点で死んだのだ。 時は凡そ二時間前に遡る。腕時計は夜の九時を指していた。春の嵐とも言わんばかりの雨の中、私はおぼつかない足取りで歩いていた。二五にまでなると流石に飲み慣れてくると思っていたのだが。傘も持たず、濡れたアスファルトの上に視線を落としながら歩いていると、「お前、日向じゃん」と声をかけられたので、ふと顔を上げると見知った顔の男がにこにこしながら立っていた。その男は元同じサークルの友人、山田であった。髪こそ黒に染められ、濡れていたが、

          雨音を引きずる

          「探偵もどきとその末路」

          「大丈夫、もうすぐ貴方の魂はこの縛られた肉体、世界から解放され、自由になれるわ」私は可愛い子羊のガタガタと震える肩にそっと手を置き、できる限りこの闇に溶けるような甘い声でそう囁いた。「ほ、本当に自由になれるんですか。ここから落ちなければならないのですか。きょ、教祖様。」と焦りを露わにしているその少年の腕には、無数の切り傷があり、厚い布の下には消えない痣を隠していた。「ええ、運命の導くままに。この世界は空虚なのよ。この何も無い苦しみから放たれるべきだわ。」優しくも不気味に彼の背

          「探偵もどきとその末路」

          「遺書」片思い4部作(5)

          「例えば、遺書を書き終えたら死のうとして、今ここに完成したものがあるとしたら君はどうするのかな?」そんな単純な問いを君に投げかけてみる。 きっと優しい君のことだから、初めは否定してくれるのに、嫌だ嫌だと言うのだろう。分かっていたさ。納得してくれないことぐらい。それでも、これはけじめなんだ。きっと私は死ななければならない人間だったのだよ。だから、幸せに生きてくれ。君のこと大事に思ってくれてる人は沢山いるのだから。君の信じる人を大事にして、伴侶として生きて欲しい。私のことは忘れて

          「遺書」片思い4部作(5)

          「灰かぶりの殺人鬼」片思い4部作(4)

          世界でひとりきり。そんなシチュエーションを人類なら誰しもが望んだと思う。然り。僕もそのうちの1人なのさ。1人の街という物は案外不気味なもので、人の生気はぼんやりと光る街頭が示しているのに、人の気配はしん、と静まり返っていておどろおどろしさに拍車をかける。しかし、1人は楽しいものだ。こう、好きな歌をどれだけ歌ったって、クルクルと夜の街を踊り歩いたって、楽器を思い切り吹いてみたって。それは夜の街の闇の中に溶けて響く。人なんかいるから争うのだ。きっと傷つきもするのだ。1人でいれば怖

          「灰かぶりの殺人鬼」片思い4部作(4)

          「夜が明けなければいいのに」片思い4部作(3)

          目には涙を浮かべている。朧月が余計に霞むので、凝視するように空を睨んだ。目の中の雫はつぅと頬を伝い、また大事なものが零れ落ちるように泣いていた。できる限り声を押し殺して、静かに、しかし、喘ぐように泣いていた。自分の元からは幸せという幸せな思い出は寂れて零れ落ちていくのに、肩にかかる髪はさあさあと吹く風になびいていくので不思議な感覚だ。秋とは言えど昨日から手足を冷たくするので、冬の呼び声をひしひしと感じていた。昔からよく泣き虫で、何も無くとも深く沈んだような瞳と化物のような声を

          「夜が明けなければいいのに」片思い4部作(3)

          「夜の電車は死にたくなる」片思い4部作(2)

          今一瞬、ビルに月が映ったように感じられた。重い頭をゆっくりと上げ、再度確かめる。幻のようにゆらゆらといたはずの月は消えていた。私はまた、音の中に閉じこもる。なにも受け入れないように。誰にも傷つけられないように。信じるということは同時に私に傷を負わされるようなものとも思えるのだ。信じた瞬間裏切られる。信じてもなお、相手のことを信じきれない疑心暗鬼の心はものごごろ着いた時から、大人になるまで捨てきれたものではなかった。それでも、人肌を求めるのは実に愚かしいことだと思う。それだけが

          「夜の電車は死にたくなる」片思い4部作(2)

          「海月姫」・片思い4部作(1)

          人生はべちょべちょだ。 例えば、夕立に降られてしまい、全身が重苦しく感じるように。あるいは、記憶の奥底にこびりついた油のように。どんなに拭っても、拭っても、拭っても、こびりついた嫌気のさす粘着質な笑みは拭いきれないのだ。ねっとりとした私の心は腐水のなかに深く深く沈んでいく。常に人生について落胆しかしてこなかった私には、生ける価値などないと思ってしまうほどで、腐水の中でもがくことが人生だなんて言ってるのだから、よほど落ちぶれ、不貞腐れている。 それでも、憧れのひとつやふたつは抱

          「海月姫」・片思い4部作(1)