おさかな
むかしむかし、あるところに大きな湖がありました。
そこには、うろこのきれいなさかながすんでいました。さかなは海に出て、クジラになりたいと思っていました。
さかなは知らないのです。一生ここから出られないことを。ここが湖であることを。
そうとも知らずに、さかなはゆめをあきらめませんでした。
ある日、さかなが湖で泳いでいると、大きなさかなに会いました。
「やあ、大きなさかな君」
「こんにちは、さかな君。まだ海を目指して泳いでいるのかい?」
「そうだよ、海はうんと遠いところにあるからね」
それを聞いて大きなさかなは大笑いしました。そして、じまんげにこう言ったのです。
「さかな君、君にひとついいことを教えてあげよう。ここから海には行けないよ。ここは湖だから。一生ここから出ることはできないんだ。」
それを聞いてさかなはとてもおどろきました。
さかなは水面にうつる自分を見つめていました。自分のすがたを見て、大きなさかなが言っていたことを思い出しました。
大きなさかなは言いました。ここは湖だから、海につながっていないと。クジラにはなれないんだと。
ここには自分のゆめを信じてくれるなかまはいません。
さかなは、自分のからだを小石でひっかきました。ひっかいて、ひっかいてひっっかいて、ひっかいて、ひっかいて…… からだからは、たくさんのちがふきでてきました。さかなはからだをひきさくような思いでした。それでもからだをいしにこすりつけました。
そうして、とうとう辺りが血でいっぱいになったとき、さかなは力尽きて眠ってしまいました。
湖のそこには今でもきれいなうろこがきらきらとしずんでいるのでした。
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