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既視感

遠くなったあの頃
友人が教団に入信した
友人は日常からいなくなり
そのまま世間での消息を絶った

時を経て
カルト教団に入信した親を持ち
家庭を失くした青年が糧をはたいて造った銃で
時の首相の立場で件(くだん)の教団を讃えた政治家を
殺した

たとえば
件の教団が日本に来なければ

たとえば
親が件の教団に入信することがなかったなら

たとえば
政治家が件の教団を讃えることがなかったなら

たとえば・・
表に出さない政治資金が
歳費程度の少額ならば
時に暴かれ尻尾を斬られて放たれて
巨額になれば
組織包(ぐる)みで歓待されているのなら

「一人を殺せば検挙され
多勢を殺せば英雄となる」
そんな
言い古された「不条理」がよぎる

ワイドショーでは
「犯罪の動機」と題して
親の入信の背景と
青年の心の遍歴と
教団が「カルト」と呼ばれる現実を語り

そうして必ず
「殺人は到底許されるものではありません」と
青年の末路の「罪」を糾弾している

けれども

件の教団が日本に入った背景も
件の教団の信者と資金の流動も
件の教団を政治家が讃えた思惑も
青年と教団を分析するほどに
掘り下げて語ることはない

国と教団を利用しながら
政治と教団に利用され
命を絶たれた政治家の
末路への道程に言及することもない

放送事業の許認可権を
政府に委ねるテレビ局では
政治と社会問題との関連を
青年の人となりを語るほど
掘り下げて語ることはないのだろう
命を絶たれた政治家に
国会の風を左右する力があった時
なおさら語ることはないのだろう

玉石混淆の川の中で
「玉」であろうと身だしなみを整えて
「石」にもなれない

テレビから事の要点を辿るなら

核心は
語られない中に在るのだろう

くりかえす既視感の現在


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