まぼろしの 僕の世界で月が揺れ 心が揺れた記憶に揺れて
声に似て 消えて往く風忘れ居て 季節(とき)の遺言 届くことなし
雨の午後 やさしくなれて風往きて ここから背中だけを見ていた
落つ水の 刹那留まりて刹那ゆく 岸より眺む 日のみ暮れゆく
「モルダウ」を聴きながら どうぞやさしく居られるように 眼(め)を瞑(と)じながら
羅列せず整然流る沢の音(ね)の 途切れぬ源(もと)の頂の朝
携帯を放置し灯り消し瞑る そうして絶えぬ音に 傾く
野面積む石の 解かれて音もなく 雲の千切れ千切れるがごと
あなたには私に問えぬ刻(とき)があり 「何も無かった」 そう言われたい
カーテンが揺れてるように見ていたい 階(きざはし)で落ち着く 午後の呼吸(いき)
それぞれの それぞれなりの地図の在り 空に在っても 海に在っても
ただ数歩 たった数歩の数秒の 夜明けの海の波になるまで
なんとなく立ったまま 眼を閉じていて 熱に漂う音と香の午後
笑顔とかはにかみだとか綺語だとか 僕は求める 偶像(きみ)は応える
音の無い世界を知らぬものの説く 音無き世界 神無き世界
背中から私が抜けて往くような 眼下に心許なき 残身