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◆アートヴィレッジとうおん コラムⅥ◆~東温市に魅せられて(前編)〜

「伊予の隠れキリシタン」を皆さんはご存知でしょうか?
隠れキリシタンといえば長崎の印象をもってしまいますが、実はここ、愛媛にも隠れキリシタンがいたのです。
今回はそんな愛媛の隠れキリシタンと東温市に伝わる狸伝説を交えた新たな物語を少しばかりご紹介!

筆者:忠の仁(ただのじん)氏 -演出家/作詞家-
桐朋学園大学短期大学部演劇専攻科卒業。早稲田小劇場に入団し、2年間を過ごした後、ミュージカル劇団いずみたくフォーリーズに入団。その後独立し、1991年オフィスJINを設立。舞台芸術学院ミュージカル科本科の担任を経て、東温市地域おこし協力隊に就任。現在は東温アートヴィレッジセンターにて、とうおん舞台芸術アカデミーのアカデミー長を務める。

今年になって「東温市の歴史や風土をからめた物語を創れないか」と考え始め、せっかくなので僕が永らく暖めていた「隠れキリシタン」の話とコラボしようと思い至った。その端緒となったのは松山の古本屋で『伊予のかくれキリシタン』という本を見つけたからだが。

僕は40代の頃、遠藤周作の『沈黙』や『わたしが・棄てた・女』や『女の一生』などを読んで、隠れキリシタンに興味を覚え、一人で長崎まで旅をして隠れキリシタンの墓を探したり、丘の上にひっそりとたたずむ教会を訪ねたりした過去がある。

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※忠の仁が所有する『伊予のかくれキリシタン』著者:小沼大八

ただし、東温市にはカクレたちの遺跡のようなものが一つも見つかっていないらしい。しかし見つかっていないからと言って絶対に東温市にかくれキリシタンがいなかったという証明にはなるまい。
もしカクレたちがこの東温市に逃げ延びてきていたら? という仮定の話で進めてみたらどうだろう。ファンタジー溢れるストーリー展開もいいのではないかと、半ばヤケクソ気味に、東温市の資料を漁ってみた。そうしたら出るわ出るわ、面白い話がいっぱい目の前に現れたのだ。

ところでここで謝っておかなければならないのは……「伊予」は土佐・阿波・讃岐と並ぶ四国愛媛県の呼称であることを知ってはいたが、本当には分かっていなかったらしく、伊予=伊予市という狭いエリアでしか考えられなかった。
恥ずかしい話であるが、「イヨカン」も伊予市の回りで採れる果物であり、『伊予の隠れキリシタン』は伊予市に存在したカクレたちが、激しい弾圧にあい、八幡浜市や大洲市、松山市や西条市などに逃げ込み、そこで仏教の隠れ蓑の下、自分たちのキリスト教を信奉したと思い込んでいた。
だから東温市に一人も逃げて来ない訳はないと……面目ない!伊予のカクレたちは、自分の生まれ故郷でその素性を偽って生きていただけなのだった。

しかし、僕の書こうとしている本では、『沈黙』のキチジローのような弱い信者の裏切りで、その村、西条藩のとある村がカクレの里であることがばれてしまい、信者らが迫害にあうと、男はその村にはいたたまれず、逃げるように重信に迷い込む。

そして美女に化けた狸の案内で、三奈良神社のクヌギの下までたどり着くというストーリーが出来上がった。これが第一部である。その中には、藩の役人と隠れキリシタンとの宗教論争や、自分の命を捨ててまで若い娘に降りかかる火の粉を浴びる女性信者の話を織り込んで行くつもりだ。

なぜ狸かと言うと、横河原にある「若宮さん」と言うお社。第二部ではそこに住む「身代わり狸」を取り上げようとしたからだ。それはこの作品の共通テーマである「愛」。他人のために自分を犠牲にする「愛」を表わしているからだ。

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※東温市の下林地区にある三奈良神社
                  《東温市に魅せられて(中編)に続く》

   2021・1・17 忠の仁    

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