- 運営しているクリエイター
#物語
【八人のアダム】 1-15 決断
対象が完全に沈黙したことを確認したラムダは、ピップのモルゴンのそばに歩み寄った。
「ピップ、無事ですか?」
ラムダは変わらぬあどけない表情で尋ねた。
「ラムダ……きみは……」
モルゴンのハッチを開き、ピップは顔を出した。
「ぴーーーーーっっぷ!!」
そんなピップの声を遮るように、ギャランの声が第三格納庫に響き渡った。
ギャランはメタルギャランのハッチを開けて、ピップとラムダの方に向かって来ようとし
【八人のアダム】 1-14 <回想>
ギャラン=ドゥはそのときの様子を、のちにこう語った。
「あの時、でかいスターズの主砲から発射されたのはぶっといレーザー砲だったわね。それは、あのちびガキとピップのモルゴンを容赦なく焼き切るだろうと思ったわ」
ギャランは手に持ったワイングラスをかろやかに横回転させた。
赤ワインの芳醇な香りがあたりに漂う。
「でもあのちびガキ……いいえ、ラムダと呼ぶわ。ラムダにレーザーが当たると思われた瞬間、レーザ
【八人のアダム】 1-12 どうしよう!?
ラムダがスターズであると聞き、ピップは驚愕した。
驚愕したが、同時に、
(じいちゃんなら可能かもしれない)
とも思った。
アダム博士の会社、アダムカンパニーは、主に医療用のスターズを製作している世界的な大企業であった。
その商品群の中には、人間や動物に近い動作をするものもあったし、医療メーカーである以上は、人間の構造についても十分すぎるほどの研究がされていただろう。
そのアダムカンパニーの技術を
【八人のアダム】 1-11 はじめまして
「はじめまして。ぼくの名前はラムダです」
その子どもは満面の笑顔でピップに挨拶をした。
その挨拶があまりに明るく屈託ないため、はじめ、ピップは自分が部屋を間違えて入ってしまったのかと思った。だが、この寝室は間違いなくピップの寝室だった。
そもそも、このアパートの部屋にはカードキーのロックがかかっていて、他人の部屋に入れるわけがないのだ。
「えーと、その、ラムダくんといったかな? きみは、なんで
【八人のアダム】 1-9 疑問
しばらく業務を行なっていたものの、サイモンにはどこか落ち着かない気分があった。
先ほど見た金髪の子どもに対して、違和感を感じていたのだ。
(あの子どもはなぜ我々の名前がわかったのだ?)
子どもとはいえ、シティの象徴であるギャランのことは知っていてもおかしくない。また、その右腕であるサイモンを知っていることもありうるだろう。
だが、あの子どもは守衛の名前すら知っていた。
サイモンでさえ、守衛一人
【八人のアダム】 1-8 侵入、者?
「私一人でもできます! やらせてください!」
ピップがいなくなった第三格納庫にミラーの声が響いた。
「ピップのことは……認めます。間違いなく有能です。おそらく、私よりも。しかし、ピップにはギャラン様への忠誠心がありません。ギャラン様と、ギャランシティへの忠誠心は、私の方が遥かにまさっています。お願いします。あのスターズの整備は私にお任せください!」
「あなたの心は疑わないわ、ミラー。あなたはアタシ
【八人のアダム】 1-7 未知の巨大スターズ
ギャランシティ、第三格納庫。
ギャランシティの中でも最も大きな格納庫である。主に大型の重機スターズなどが格納されている。
メタルギャランやピップのモルゴンのような、戦闘用の有人スターズが格納されている第一格納庫はシティの中心近くにあるのに対して、この第三格納庫はシティ中心地から少し離れた場所にあった。
スターエンジニアであるピップも、ギャランシティで働き始めてからここへきたことは数えるほどしかない
【八人のアダム】 1-6 嫉妬
こうしてピップはシティ軍所属のスターエンジニアという形で、ギャランシティの市民となった。また、シティの職員という形になるため、無償で市所有のアパートの一室を借り受けることができた。
仕事においては、はじめは警備用の自律式スターズの整備などを受け持っていたが、次第にその仕事の的確さが認められるようになり、軍の根幹に関わる有人戦闘用スターズのメンテナンスや改造なども任されるようになっていった。
また、
【八人のアダム】 1-5 スクラップ置き場
「いいタイミングだった。ミラーがきみをよく思っていないのは知っていたが、あそこまでやるとはね」
サイモンは信号でバイク型のスターズを停止したタイミングで、ピップに言った。
「挑発に乗った自分が悪かったです。先に手を出したのは、俺です」
「おや、そうだったのかい。まあ、おおかた、おじいさんのことでも言われて挑発されたのだろう?」
ピップはサイモンの洞察に驚きつつ、話題を変えた。
「そ、それよりサイモ
【八人のアダム】 1-4 ミラー=レーン
ピップがギャランシティで働き、生活をするようになったのは、わずか三ヶ月ほど前のことである。
<別れの日>以後、ピップは祖父アダムを探して各地をさまよっていたが、なんの情報も得られないまま二年が経過していた。失意と消耗の中、行き倒れる寸前にたどりついたのがこのギャランシティだった。
そのギャランシティの主任スターエンジニアがミラーだった。
つまり、ミラーはピップの上司である。
「遠征、ご苦労だった
【八人のアダム】 1-3 昼食
ピップはアパートの自室で目を覚ました。
時刻を確認すると、すでに十時過ぎだった。
とても腹が減っている。だが、自分で料理を作る気にはならない。
(外でなにか食べるか)
顔を洗い、着替えると、ピップは部屋を出た。
ピップのアパートはシティの中心部にある。
アパートを出て二本目の道は、もうシティのメインストリートであり、昼どきでもあるため、多くの人で賑わっていた。
ギャランシティの前身は、<別れの日