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【八人のアダム】 1-9 疑問

しばらく業務を行なっていたものの、サイモンにはどこか落ち着かない気分があった。
先ほど見た金髪の子どもに対して、違和感を感じていたのだ。

(あの子どもはなぜ我々の名前がわかったのだ?)

子どもとはいえ、シティの象徴であるギャランのことは知っていてもおかしくない。また、その右腕であるサイモンを知っていることもありうるだろう。
だが、あの子どもは守衛の名前すら知っていた。
サイモンでさえ、守衛一人一人の名前までは把握していない。職員のデータでも見ておかない限りは。
「データ、か……」
そうつぶやくと、サイモンは自室を出て、市長室のドアをノックした。
「どうぞ!」
応答があったため、サイモンは市長室のロックを開けた。

ギャランは部屋でサーキットトレーニングを行っているようだった。
今は、トレーニングの最後に懸垂運動を行っている最中だ。タンクトップを着用し、金色のスウェットパンツをはいている。
呼吸は荒く、大粒の汗を流し、たくましい筋肉はパンプアップにより、さらに肥大している。

サイモンはトレーニングに励むギャランをとくに気にもとめず、パソコンを指した。
「ちょっと市民のデータを見ても?」
「ふうーっ。ご自由に。アタシはシャワーを浴びてくるわ」
ギャランはバスタオルを手に取り、市長室の奥に備えられたバスルームにさっそうと入っていった。
ギャランのシャワーの音が聞こえる中、サイモンはデスクに座り、シティの住民データを確認した。
(あの子ども、ラムダと名乗ったな)
サイモンは「ラムダ」という名前を何パターンかの組み合わせで検索した。
いない。
では入市したゲストではどうか。
いない。
サイモンは腕を組んだ。

(おかしい。このシティにはラムダという名前の人物は存在しない)

だとすればあの子どもは、単に偽名を名乗っただけだろうか? それともまさか、シティ外の人間なのか?
サイモンは守衛室に電話をかけた。
「サイモンです。先ほどの金髪の子どもはまだいますか? 話を聞きたいのですが」
「あ、サイモンさん。それが、あの、本人が市職員のピップ=リンクスさんの家族だということで、解放しております。ピップさんの住所も言っていたので、問題ないと判断しておりますが……」
「ピップの……?」
サイモンはピップがギャランシティに一人で移住してきたことを知っている。
そして、両親とは死別しており、祖父アダム以外に血縁者がいないことも聞いている。

(妙、だな)

不審に感じたサイモンがピップに電話をかけようと、携帯電話を取り出したときだった。
どこかで大きな爆発音がして、市庁舎に警報が鳴り響いた。
「何事っ!?」
ギャランが濡れた裸体でバスルームから飛び出してきた。
「わかりません。確認します」とサイモンは冷静に答えた。
そのとき、サイモン宛てに電話がかかってきた。
ミラーからであった。

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