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回し読み

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ぺけぽん
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2020年10月の記事一覧

ネット上で避難できる場所がある心強さ

昨夜、いつものようにTwitterのタイムラインを追っているとこんなツイートが目に飛び込んできました。 【ゆる募】 自分に火の粉がかかったこともあるし、周辺を見ていても、やっぱり創作の安全地帯があったらいいなぁと思うからちょっと動いてみます。(微動) この投稿をされていたのは【マリナ油森】さんです。 「一体どういう募集だろう?」 そんな軽い気持ちで読み始めたのが次のツイート。でも、読み進めていくうちにだんだんと軽かった気持ちはどこかへ消えてしまいました。 「これは軽

創作者は皆、チェス盤の前に座している:『猫を抱いて象と泳ぐ』感想文

小説、音楽、漫画、映画、アート全般。最初に出会ったときにはただ、あぁいいなぁと思った作品が、ひょんなタイミングで示唆に富んだ物語として目の前にふたたび現れることがある。 2011年に発行された文庫版の小説『猫を抱いて象と泳ぐ』。書店に並んだばかりのその本を、小川洋子さんファンの私は迷わず手に取りレジへと持っていった。 今年の4月に嶋津亮太さんがはじめられた「知性の交換」。本を贈り合う試みで、私が嶋津さんに贈ったのも『猫を抱いて象と泳ぐ』である。シンプルにこの本が私の一番好

拝啓 20年前の私へ

「20年前のちーちゃんから30歳の千裕さんに手紙が届きましたよ」 母からの連絡には、フェルトペンで書かれたのであろう拙い子供の書く漢字で私の実家の住所と宛名が記された茶封筒の写真が添付されていた。何をそんなアンジェラ・アキみたいな話……と首を傾げかけたところで、ばちんとその記憶は蘇ってきた。小学4年生、ちょうど20年前、国語の授業で「20年後の自分に宛てて手紙を書く」という時間があったこと。あの時先生は確かに「この手紙は20年間大切に保管されて、必ず20年後に皆さんのもとに

なぜなら、わたしがうれしいから。

車がすきだ。なぜか昔から、ずっと車という存在がすきだった。 だから特別な好意を持っているわけでもない大学の男の子からドライブに誘われたとき、「古いプレリュードに乗れる」、それだけでOKしたことがある(そして首都高で3回転半の事故を起こされ、死にかけた)。 だから母からは、「就職で鹿児島に帰ってきたら好きな車を買ってあげる」と餌にされ、ちょっとだけこころが揺れたこともある(そのときわたしが候補にしたのは、いま乗っているのと同じ車種だ)。 だからいま、世田谷区の中でもかなり

ヒノ影アランは最近悲しいことが起きすぎて書き殴ったやつをとりあえず読んでほしいのである。

なんかネットが荒れてますよね。私的なことですが最近悲しいことも連続しててつらいっすわ。こういうのって重なるんだわなあ。 ところで俺、このウェブ漫画読んでちょっと震えてしまって。 読んだ? 独特の雰囲気で面白いしクオリティ高いよね。ある種怖いけどさ。 いやね、漫画の内容っていうより、周りのクリエイターたちの怒りの方に目眩が来たんですよ。 出るわ出るわ、引用リツイートでの批判の数々! すっげぇわかるんだけど、でもね、これってそんなにありえない話かな? とも思ってて。

老若男女よ、マジパン畑で愛を叫べ!

バレンタインデーにチョコレートをプレゼントするという習慣は、日本の健全な若者たちがチョコレート会社のマーケティング戦略の罠にまんまとかかってしまった結果だというのは既によく知られている。 それでもこの日、女性から男性にチョコレートを添えて愛を告白し、1ヵ月後のホワイトデーをドキドキしながら待つという一連のイベントは、告白のタイミングがなかなか掴めない女性たちにとってはドンと背中を押してもらえる絶好のチャンスでもある。 おそらく、初恋の彼に告白をしたのはバレンタインデーだっ

己の腐海を覗いた私たちは、ガーデンプレイスを未だ知らない

みなさんは、『耳掃除』をどのくらいの頻度でやっているだろうか。 昨今の風潮では、耳掃除は中までやるなと言われてる。 私もそれに倣って、外側は掃除するものの、中までの掃除はせいぜい2週間に1回程度だ。 さて、なぜそんな私が今、耳掃除の話をしているかと言うと、最近、耳掃除専門店に行ってきたからだ。 きっかけ どうして、耳掃除専門店(以下、イヤーエステ)に行ったかというと、今年の夫への誕生日プレゼントがコレだったからだ。 夫に、「外食いく?」と聞けば、小食の夫は「うーん」と

三鷹の小さな小料理屋にて

東京都、三鷹駅。 20代前半の数年間、わたしはこの街で暮らした。 ずっと赤羽で暮らしていたわたしに、「街によって治安はぜんぜん違うのですよ」と教えてくれたのが三鷹だった。緑豊かで街はきれい。タバコの吸い殻が落ちていないし、ずらりと並んだ自転車のほとんどに、駐輪違反の紙がぶら下がっていることもない。ジブリ美術館が近くにあり、「風の通り道」と名前のついたセンスのいい道がある。 赤羽の「食材はとりあえずひとつの鍋でまとめて煮ておけ!」というようなごっちゃり感も好きだ。けれど、

才能に悩んだら、ぜんぶ物語のせいにしてしまえばいい (#教養のエチュード賞)

「君って心が安定してるよね」 会社の考課面接にしては、ずいぶん曖昧でゆるい言葉だなと苦笑いしていると 「あ、一応、褒めてるんだよ?」 と申し訳程度のフォローをいただいた。 いろんな企業で、やっぱり社員のメンタルヘルスが課題となっているようです。仕事量はそのまま、責任もそのままに部下を働かせられる時間は激減・・・管理職は大変そうだなぁ。できることなら、なりたくない。 「心が安定」しているのが良いことなのかは分からないが「秘訣は?」と聞かれると、コツはやっぱりひとつしかない

離れていても通じ合う〜副題〜Nianticへのファンレター

夫と別居していた時期がある。 その時に一緒に見た花びらが忘れられない。 夫、一人で心の旅へ 別居の理由は、夫のノイローゼだ。 辺境ならではの、濃厚な人間関係とか同調圧力とかが合わなくて、そして何より、父と一緒にやっていた農業が苦しくて合わなくて、どんどん笑顔が少なくなっていった。 「俺、辛い。この土地と少し距離を置きたい。」 と言ったので、色々考えて迷ったけど、 「無期限の一人旅に出てきなよ!」 と別居が決定した。 私が住む家は、私の実家の横に建つ持ち家。 実家には認知症

ダーカカカアカーカ

それはいつも 突然にやってくる --*-- 「新山、おまえのことが好きらしいよ」 修学旅行が終わってからずっと、空前の恋愛ブームが中等部の校舎で巻きおこっていた。発端は、旅行の最終日にA組の田辺が綾瀬さんに告白してOKをもらったビッグニュース。綾瀬さんはファンクラブが各学年に存在するほど人気が高いバスケ部のエース。いっぽう田辺は、目立たなくて影が薄い優しいだけが取り柄みたいなヤツだ。 そのニュースは一瞬でオレたち2年生の間に広まり、学校中に知れ渡るのに2日とかからな

みぞおち

「……。」 私は一人、テレビの前で突っ立っていた。 画面の中には、真剣な眼差しの奥に轟々と炎を燃やした男性が真っ直ぐに立って、真っ直ぐに話していた。向けられたマイクにではなく、質問を投げかけてくる記者達にではなく、カメラのレンズの向こうに向けて。画面の向こうのこちらに向けて。 ガタタンッ。 電車が急に揺れて目が覚めた。いつの間にか眠っていたようだ。目を力なく開けたまま。虚ろな夢をみていたようだ。 西日が目にしみて、くっと下を向く。 なんで今頃あの場面を、あの人の眼を思い出

羽化する

 玄関のドアノブは昨日より冷たかった。ドアを開けた瞬間にひやりとした風が頬に絡んだので、ああ、また季節が変わったなと思う。マンションの錆びついたドアを出ると冷気が濃くなった。息を吸うと鼻の奥がツンとして、僕はジャンパーのファスナーを首元まで あげる。僕は右手に持ったデジタル一眼レフカメラを弄びながら、歩きなれた道をぶらぶらと歩いた。左手はポケットの中にある。  この街に来てもう5年が経つ。小さなデザイン会社に就職が決まって、大学を卒業すると 同時に実家を離れた。誰も知らない

まちの喫茶店、岡山珈琲館の雰囲気をみなさんにも

「こうやってな、石川祐希くんを見るんよ」 「この子、もうイタリアじゃけえの」 「そう。でもスマホならすぐ見れるんよ」 「そげな便利なんか」 「カラオケもするんよ。これで」 「曲がながれるんか?」 「ほれ、こうやってな。百恵ちゃんもすぐに出る」 「わたしゃー、ようせん。テレビつける」 「テレビは時間が決まっとるから…」 「ようわからん。テレビでええ」 「スマホで好きなもの見たらええのよ。な?」 「時間とか番組とか気にしなくてもええのんよ」 テーブルを囲むご婦人3人組。 スマ