5歳!500メートルの大冒険。
ついに幼稚園が休園になってしまった。
期間は、1週間ちょっと。
「外出は控えてください」と園からのメールが届いている手前、堂々と公園に遊びにいくのも気が引ける。
休園開始からの2日間は、真面目に家の中で過ごした。外の空気が吸いたくなったら、ベランダでシャボン玉をしたりして。でもついにシャボン玉液がなくなってしまった3日目、私は息子を散歩に誘った。
「りんりん!ファミマにお菓子買いに行かへん?」
「いくいくー!」
「今日はファミマまで歩いていこうや。近いしさ。」
「えー!?自転車で行きたい。」
「最近歩いてないやん?りんりんの足の筋肉、衰えてると思うねん。歩いていこうや。」
「・・・・うん。」
しぶしぶながらも、ファミマまで歩いていくことを了承してくれた。
息子は歩くのが嫌いだ。
すぐに「抱っこ!」「おんぶ!」「つかれた!」と言う。1歳くらいからどこに行くのも電動自転車だったので、歩き慣れていないのかもしれない。それならば、少しずつ歩くことに慣れていってほしいなと思っていた。
家からファミマまで、約500メートル。
往復で1キロ。大人の足であれば、片道10分もかからない。このくらいの距離ならなんとか大丈夫だろう。
お昼ごはんを食べたあと、いざ出発した。
マンションを出て、しばらくは調子よく歩いていたけれど、大通りの道に出てからは、息子の足どりが急に重くなった。
自転車が前からやってくるたびに「母ちゃん!危ない!」と言いながら、大げさに端っこに寄る。その自転車が見えなくなるまで見届ける。
車が店から出ようとしていたり、店に入ろうとしているとき、「お先にどうぞ」と車が道をゆずってくれているのに、「母ちゃん!危ない!」と言いながら、絶対に車の前を横切ろうとしない。
横断歩道で信号が青になると、私の手をひっぱりながら、全速力で走る。青のときは車は来ないから大丈夫だよ、と言っても無駄だ。
息子は車を異様に怖がる。前世というものがあるのなら、きっと車にひかれて死んでしまって悔しい思いをしたことがあるのだろうと思うくらいだ。あまりに車に対して用心深いので、「危ない!」と私から注意したことはほとんどないような気がする。むしろ「母ちゃん!危ないよ!」と私が注意されるくらいだ。
車がビュンビュン通る道路に面した歩道。
自転車が自分の真横を走り抜けていく歩道。
超超こわがりな息子にとって、まだまだ小さな体で歩道を歩くということは、リアルマリオをしているような感覚に近いのかもしれないな、と改めて思った。
30分ほどかかって、なんとかファミマにたどり着いた。
つないでいた小さな手が、汗ばんでいる。
「はー、やっと着いたね。母ちゃん、ぼくアイスが食べたい気分。」
息子はそう言いながら、アイス売り場に一直線。ほとんど迷わず、クーリッシュの練乳味を手に取った。冬にアイス食べるのさむくない?と聞いたら、暑いから大丈夫!と返事が返ってきた。
私は、カフェラテとファミチキを買った。
割と大きなイートインスペースがガランとしていたので、ファミマで食べていくことにした。息子はクーリッシュをチューチュー吸い、私はファミチキをハフハフ食べる。ファミチキを一口あげると「からすぎる!」と言われ、私はクーリッシュ練乳味を一口もらって「あますぎる!」と言った。
「歩くの疲れちゃった。帰るのやだな。」
息子が遠い目をして言った。そりゃあんなに神経を尖らせて歩道を歩けば、足の筋肉が疲れるということ以上に疲れちゃうよね、と心の中で思った。
「休憩しながら、のんびり行けばいいやん。」
私がそう言うと、コクンと頷いた。
私の言葉を忠実に受け取り、息子は帰り道の500メートルの距離の中で、4回休憩した。
1回目は、歩道橋の付け根で。
「母ちゃんと父ちゃんはさ、車のナンバープレートの数字がゾロ目だったら、ラッキー!って喜ぶ習性があるねんで。」
「ナンバープレートってなに?ゾロ目ってなに?」
「車の前についてる四角いやつに、数字が書いてあるやろ?あれがナンバープレートで、そこに書いてある数字の形が全部いっしょやったらゾロ目っていうことやで。」
「そうなの!?ぼくもさがすー!」
そんな会話をしながら、大通りの車たちを眺めていると、1111と5555と8888の車を息子と見つけて、キャッキャと喜んだ。
2回目は、歩道橋の上で。
「母ちゃんさ、山吹色の車が好きなんだ。りんりんは?」
「ぼくは、赤色の車がすき。」
そんな会話をしながら、今度は上から大通りの車たちを見下ろしていた。
たまたまかもしれないけれど、白色と黒色の車がほとんどだったことにびっくりした。
しばらく見ていると、その白黒の中にヒョコッと赤色やら山吹色やら青色やらの車が現れる。
"色"のついた車を見つけるたびに、私と息子はまたキャッキャと喜んだ。
3回目は、ジャパンの前にある花壇の縁に腰かけて。
「りんりん、ジャパンのおじさんって知ってる?」
「ジャパンのおじさん?知らないよ。」
「上見て。あの人がジャパンおじさん。」
私がジャパンの看板を指さすと、息子は私の指の方向を見上げた。
ギャハハハハハハー!
あ、なぜかウケた。特にウケをねらったわけではなかったけれど、息子のツボをゲットして満足する。あまりにも息子が笑い続けるので、私もつられて笑ってしまう。
子どもの笑い声って、なんでこんなに楽しい気持ちにさせてくれるんだろう。
4回目は、同じ幼稚園のAくんが住むマンションの前で。
「Aくんは、なにしてるんだろうねぇ?」
息子がそう言ってしばらくすると、まさかのAくんとAくんのママがマンションから出てきてびっくりした。
「今からお豆腐屋さんまでサイクリングに行くねん。"自転車でお豆腐屋さん"くらいやったらセーフかなって思って。」
Aくんママはニコニコたのしそうにそう教えてくれた。
「そこのお豆腐おいしいねんけどさ、全部同じ味やねんで。」
そんなAくんの言葉に吹き出した。
"お豆腐屋さん"っていい響き。私はお豆腐屋さんで豆腐を買ったことがない。この休園中に私も自転車でお豆腐屋さんに行ってみようか。それにしても、みんないろいろ工夫して楽しみを見つけながら過ごしているなぁと感心した。
少し話をして、AくんとAくんママはお豆腐屋さんへと旅立っていった。
最後の休憩を終えて、やっと家の玄関に戻ったときには、時計の針が3時半をさしていた。1時くらいに出発したから、500メートル先のファミマへのお散歩に、2時間半も費やしたことになる。
「母ちゃん、無事にお家に帰れたね。しんどかったけどたのしかったね。足の筋肉もきたえられたしね。」
息子が清々しい顔でそう言った。
その顔はまるで、"冒険"から無事に生還した勇者のよう。
ファミマまで、自転車で行って帰ってきたら、きっと30分もかからない。
目的地にできるだけ早く到着して、効率よく行って帰ってくるなら、自転車で行ったほうがもちろんいいだろう。
でも時間がたっぷりある今だからこそあえて、のんびりゆっくり歩いていくのもいい。
歩いていったからこそ、冒険が生まれた。
道のりの途中で、会話が生まれた。笑いが生まれた。友達に会えて、ちょっぴり会話ができた。
それは早く効率よく目的地に到着すること以上に、大切なことのような気がしてならない。
忙しいときには忘れてしまう豊かな時間が、今日ここにあった。
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