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#16 ロシアの暴挙・遺体の映像はどう扱うべきか テレビで働く側の葛藤

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻。皆さんテレビや新聞、様々な報道で目にしていると思いますが、ロシアのいわゆる民間人、一般市民の虐殺、それを裏付けるような映像がたくさん流れました。
道端に何体も放置された映像。自転車に乗ったまま撃たれて倒れている映像。衝撃的な映像が世界中を駆け巡っています。

最近、自分自身も見ていて思うのは、こうした遺体の写真・映像がこんなにもたくさん出てくるようになったのは、あんまり記憶にないんですよね。

普段、私達はそういった映像や写真をどう取り扱っているのか、基本的な考えがあります。

それは、死者の尊厳です。

亡くなった方々にも尊厳はある。例えばこれを読んでくださっている皆さん。自分が意図しない不慮の死を遂げたとします。この戦争では裸の状態で放置された女性の遺体もありました。男性は後ろ手に縛られて、鍵十字の印まで体に無理やりつけられて殺されている。そんな殺され方をした自分の写真や映像を出してもらいたいかどうか。つまり、亡くなってしまったとはいえ、その人たちにも、尊厳がある。それを尊重しようという考えです。

なので基本的には、遺体の写真は使わないというのが大原則です。

ただ一方で、ドキュメンタリーとかで、不治の病と闘っている方をずっと追いかけていたとします。その人は取材に協力している。すべて撮っててもいい、と許諾を得ている。でも最終的には亡くなってしまった。そういった場合は話は別です。ある意味、現実をきちんと伝えることができる、そういった場合は、モザイクなしで報道することがあります。自分自身も何度かそういったドキュメンタリーを見たことがあります。

ただ本人の意図しないものは基本流しません。ですので、少し前の話ですが、東日本大震災のときも、ほとんどそうした映像を見た人はいないと思います。津波に巻き込まれてしまう、その瞬間ももちろん使っていません。
死者の尊厳以外にもう一つ理由があります。映像がセンセーショナルすぎるんです。あまりにも衝撃的すぎる場合、そこは配慮して使わない。
そういった考え方で報道しています。

日本と欧米の考え方の違い

ただ、日本と欧米は考え方が少し異なっています。

NYに赴任していたときに衝撃的だったのは、メキシコのドラッグ戦争、マフィア同士の殺し合い、これが激しいんですね。
殺したら報復、さらに報復と、ひたすら報復合戦が繰り広げられているんですが、ある日ニューヨーク・タイムズの一面に、橋の欄干から4人の遺体がぶら下げられている写真が載りました。

モザイクなしです。もうそのまんま。まるで人形のように、ぶらんとぶら下がってる4人の遺体の写真を一面に載せました。

なかなか衝撃的ですよ。顔ははっきりと写ってないにしても、大人の男性が4人ぶら下がっている写真。こうして10年経っても記憶に残ってますから、ものすごくインパクトがありました。

そして今回のロシアによるウクライナ侵攻、これもCNNを見ていると、概ねモザイクはかけてるんですが、そのモザイクのかけ方が日本とは変わってくるんですね。例えば顔が写ってなければもうそのまま流す。
服を着て倒れている様子を、そのまま流す。もしくは、後手に縛られているところだけはモザイクを外す。こういうことが行われているんだ、ということを示すために、そこだけは外す。

海外の報道を見ていると、今回の軍事侵攻に関しては、モザイクなしで報道している場合が多いです。

ただ顔はやはり写ってないケースがほとんどです。でも日本の場合は、極力モザイクをかけて、極力というのは、なるべく見えないようにモザイクをかけて報道しているパターンが多いですね。

この辺りに欧米と日本で考え方の違いがあります。

欧米の場合はこんなひどいことが起きている、これが現実なんだ、これがリアルなんだ、それを伝えるためにモザイクをかけていない場合が多い。
日本の場合はまずそもそも死者の尊厳があると同時に、やはりあまりにも映像がセンセーショナルすぎる場合、報道はする、こういうことが実際起きてるんだ、それを伝えるために、報道はするけれども、モザイクはなるべく濃くして報道する。

ジャーナリストが抱えている葛藤

ただそれでも、私達いろいろ葛藤を抱えています。

先日、避難するウクライナのひとたちが途中の駅でミサイル攻撃を受けて子供含む52人が亡くなりました。

CNNはもうほぼそのまま流していました。

血だらけになった遺体があちこちに転がっている、荷物が散乱するなか逃げ惑う人たちがいる。その様子を流していましたけれども、私達の場合は、極力濃いモザイクをかけて、何度も使用しないようにしました。

実際起きているんだから伝えるべき、そしてこんなにひどいことが行われている。それは伝えたい、しかしあまりにもそれをやりすぎると、衝撃的すぎる。こうした葛藤の中でいつも報道しています。

ただそこに決まりはありません。

つまりどの程度モザイクをかけるのか、薄くするのか濃くするのか、報道するのかしないのか。それは、都度都度、ケースバイケースで考えて報道しています。

ただ、今回の場合は過去に比べて、こうした報道が流されているな、とても多いなと思っています。

まず一つは時代の変化ということもあると思います。
徐々に徐々に、こうしたものが、やはりオープンになっていく。ただ、昔はほとんど流れていなかった、と報道の先輩が言ってました。イラク戦争のときは、ほぼ流していないと。なので、時代が変わってきたのかなという印象もあります。

僕個人の考えとしては、やはりモザイクをかけてでもちゃんと伝えるべきではないかと思っています。今ではネットで、なんでも見られる時代。
テレビの報道をみて、もしもっと情報を知りたいという人たちはネットで調べていく、そういう時代なのかなと思っています。

(voicy 2022年4月13日配信)

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