キャリアのブルーオーシャン戦略
キャリアチェンジ目的で海外MBAを志す人は、在学中にキャリアについて死ぬほど考えることになると思います。
私も授業中のふとした瞬間にも、キャリアのことを考えることがとても多かったです。
就職できないのではないかとかそういう不安との戦いという側面もありますが、それ以上に、自分はここまで来て、その後どうするべきなのか、どうしたいのか、という問いに向き合う側面が大きかったです。
この仕事を選んだ理由についてはまた別の機会に預けるとして、キャリアについての根本的な自分なりの考え方を書いてみたいと思います。
レッドオーシャンとブルーオーシャン
競争の激しい既存市場のことを「レッドオーシャン(赤い海、血で血を洗う競争の激しい領域)」と呼称し、競争のない未開拓市場である「ブルーオーシャン(青い海、競合相手のいない領域)」と呼称することが一般的です。
キャリアについての正解は自分だけが規定するものなので、私の考え方が万人にフィットするとは微塵も思っていませんが、私のキャリアについての考え方は、完全にブルーオーシャン型です。
レッドオーシャンでもかろうじて生き残ることはできたかもしれませんが、自分の能力や嗜好を踏まえると、そこで一番になって光り輝くことはできなかったと思います。
私の旧友で、大学受験以降、レッドオーシャンで勝ち続けている強者もいますが、彼には全ての面で全く敵う気がしません。
MBAではない別の修士号を海外で取得していますが、彼は、私の中で今まで出会ったこの世代のどの日本人海外MBAホルダーよりも優秀です。
海外MBAの世界でのレッドオーシャンとはどういったものでしょうか。
例えば、私の想起するレッドオーシャンは、海外MBA入学審査官目線からすると「あるある」にあたる以下のようなものです。
- 大手総合商社から社費なり私費で海外MBAに行って、卒業後、商社の枠では達成しきれない投資+経営を実現できそうなプライベートエクイティに入ってついでに旧態依然とした年功序列を初めとする日系企業特有のしがらみからも解放される
- 海外MBA前はエンジニアで海外MBA卒業後はそのロジカルシンキング能力や数字への強さを活かして戦略コンサルタントになる、
たぶん世間的な定義より、私のレッドオーシャンの定義は広めで、誰かと常に競う感を伴っていて、消耗の激しい領域、とみなしたくなるキャリア全般です。
では、なぜ私は完全にブルーオーシャン型を志向するのか。
それは、1. 自分が他人と違うことを楽しめるから、2. 自分しか出せない価値を出していることに充足感を得られるから、3. 他人と比べて消耗し続ける社会人人生から解放されるからです。
ブルーオーシャン型の意思決定(海外MBAの選択)
米国がMBA本家と言われる中、米国MBAを一ミリも選択肢として考えず、あえてバルセロナ(スペイン)のMBAを第一志望として選択した理由は、以下記事の通り色々あります。
そのうちの一つが、スペイン語をビジネスレベルで使える日本人海外MBA卒業生が希少だと考えたことです。
IESE(イエセ)のMBAは、19ヶ月のプログラム(現在15ヶ月の選択肢もあり)なので、新しい言語であるスペイン語を学ぶには十分な時間でした。
スペイン語と英語の近似性を考えると、英語のように気の遠くなる時間をかけて習得していくということにはなり得ず、基本的に英語からスペイン語への変換でどんどん学びを深めていく感覚です。
IESEは他校より学業の負荷が大きいので、両立は簡単ではありません。
私も、当然、MBA中の、他の学生が熱を入れているいくつかの要素を犠牲にして、代わりに、優先度の高いところにスペイン語を置きました。
Business Spanish Program(BSP)という週6時間の任意参加プログラムで19ヶ月ガッツリ勉強したおかげで、入学時にはほぼゼロレベルだったスペイン語も今ではビジネスレベルで使えるようになっています。引き続き勉強中です。
一般的な日系企業だとスペイン語の必要性は、商社の一部くらいにしかないかもしれませんが、大陸系言語が重宝され得る欧州系の同僚が多い組織で働きたいと思っていた自分にとっては、動機として十分でした。
現職では公用語は英語ですが、ときたまスペイン語で資料が回付されたり内部会議がスペイン語で催されたりといったこともあります。
例えば、スペイン語での某会議における質疑応答の一番手でスペイン語で質問を私がした時は周りにも驚かれ色んな人に後で話しかけられた結果、一気に私に対する認知度が上がったりしました。
日本人は英語だけでも手一杯と言われる中、別の言語ができると、このようにプレミアムがつくものです。
スペイン語のできるイタリア人が微塵も驚かれないのとは対照的なはずです。
実際、国際的な環境に行くと、英語力ゆえに自分が底辺にいるような感覚に陥りがちな日本人は少なくない気もします。
ただ、例えば、英語が事実上ネイティブのインド人やシンガポール上の同僚と比較して、スペイン語という明確に優位する武器(+日本語!)があるというのは、使用頻度の多寡に関わらず、心の支えになります。
もちろん、私は、英語もスペイン語も、ネイティブレベルとは到底言い難いものですので、悪しからず...
ブルーオーシャン型の意思決定(海外MBA後の仕事選択)
これは本当に悩みましたが、レッドオーシャンな世界に飛び込まないことにしたのは、そうするくらいなら社会人の最初からそうすべきだったし、今更それを求めにいくべきではないと考えました。
私は、新卒でNTTドコモに第一志望で入社し、金融庁国際室への出向などを含め、私費退職で海外MBAを目指すまでに6年半勤務しました。
周りで人気のあった外資戦略コンサルにも外資金融にも総合商社にも、一切応募しませんでした。
変革期にあった業界自体の魅力、国際的な事業拡張性(後に期待と現実が大幅に乖離)、インターンシップを通じてのフィット感、ワークライフバランス等を主な理由にNTTドコモを選びました。
海外MBA生的目線で王道視されるそのような会社(外資系や総合商社)に新卒当時応募して不採用になり、その挽回機会として海外MBA後の入社を目論むならば話は別です。
ただ、その時に応募すらしなかったという事実を踏まえると、自分の心が当時よりそういった会社に多少寄っていたとしても、今から行くのは損だと考えました。
文学部とはいえ、東京大学卒だったので、社会人としての戦闘能力は皆無に近かったながら、学歴がある程度の影響力を持つ新卒採用において、本気で計画的に準備や対策をすれば、その時点でそういった会社に新卒入社できた可能性は一定程度はあったはずです。
気を悪くされる方がいたら申し訳ありませんが、ただこれは事実...
特に戦略コンサルは、新卒から職人芸のように鍛え上げられてきた方々に、たとえ海外MBAを以てしても中途入社では太刀打ちできない場合がそこそこある、と聞いていたこともあり、尚更割に合わないなと思いました。
それに対し、海外MBA入学審査という一風変わった仕事ながら、日本人としてこの深度で仕事をしている人がいない仕事を担ってみる方が、元々人事・教育系へ強い興味があったことと掛け合わせても、良いのではないかと考えました。
ちなみに、私を取り巻く諸々のプライベートな環境と過去の諸々の経験から形成された価値観により、海外MBA卒業生水準で言う年収の高さへの執着が排除されていることは、念のため言及しておきます。
置かれている環境次第でレッドオーシャンで戦わざるを得ない方がいることも理解していて、私がブルーオーシャン戦略を取れ得るのは、環境のおかげでもあり、それに対して感謝すべきであることも意識しています。
また、ブルーオーシャン型のキャリア選択ができるようになるためには、ある程度それまでに承認欲求が満たされていることが必要かもしれません。
そういった意味で、私がIESE MBAに行って、そして卒業して本当に良かったと心から感じることの1つが、承認欲求からほぼ完全に解放されたことです。
但し、このタイミングやそもそもそんな瞬間が訪れるかという点は、それまでの軌跡に基づき、大きく個人差が出ることでしょう。
大学受験時は、正直、特によく考えず、当時の試験の成績などを踏まえてとりあえず東京大学を受けて運良く現役合格したのでそのまま入学しました。
就職に有利という理由から親が勧める文科一類や二類ではなく、世界史への強い興味から西洋史を深く追究できる文科三類を選んだあたりにも、ブルーオーシャン型人間である布石はあったのかもしれません。
ブルーオーシャン型キャリア設計の苦悩
日本人 x (日本語+英語+スペイン語) x 海外MBA卒 x 海外MBA入学審査官 x プライベートセクターとパブリックセクター双方での勤務経験、でブルーオーシャン型キャリアはある程度構築できていると認識しています。
苦悩と言うほどではないかもしれませんが、ブルーオーシャン型キャリアを選ぶと、前例やロールモデルがないので、将来的に自分のキャリアをどうしようかと考える時に、難しさに直面することがあります。
日本人で参考になる方は正直極小なので、日本人以外のMBA入学審査官や関連し得る方のキャリアをLinkedInや色んな記事で探していたりします。
最近は、インドで大変興味深い事例があることを見つけました。
参考事例の共有や皆様からのいかなるインプットも大歓迎です。
今の時点でIESEを離れる理由は全くなく、その状態は暫くは続くと思うのですが、その先のこともぼんやりとは考えてはいます。
そのために必要な材料となる要素をキャリアの中で積み重ねていこうという漠然とした意識はあります。
確かなことは、レッドオーシャン型キャリアに転換することは(おそらく)ないということです。
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