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都市の課題を乗り越え、「共創」と「実験」を実装したまちづくりにするために

みなさん、はじめまして。JR東日本 品川開発プロジェクトチームの天内義也と申します。

この度、JR東日本が「高輪ゲートウェイ駅」周辺で行う「品川開発プロジェクト」の一環である、「TokyoYard PROJECT」としてnoteをはじめることとなりました。まちづくりに関わるパートナーのみなさまとの活動や取り組み、開発の概要や背景をこのnoteで発信していこうと考えています。

天内義也(JR):JR東日本 事業創造本部 品川まちづくり部門 副課長。2010年6月より現在まで品川開発プロジェクトを担当。当プロジェクトにもっとも長く関わるJR社員のひとり

2020年3月14日、山手線30番目の駅として新駅「高輪ゲートウェイ駅」が開業しました。現在、駅周辺に、JR東日本としては過去最大規模の都市開発となる「品川開発プロジェクト」を2024年度予定の開業に向けてすすめています。

高輪ゲートウェイ駅にまだ馴染みのないかたや、新しい街ができることを知らないかた、そもそもなぜまた街をつくる必要があるのか疑問に思っているかたなど、さまざまいらっしゃるかと思います。

今回は、わたしたちJR東日本がなぜ街をつくるのか。東京の抱える構造的な都市開発の課題、パンデミックによってひとが集まることに対する大きな価値転換が起きているなか、わたしたちがこれらの課題にどう向き合い、「共創」と「実験」を実装したまちづくりを行おうとしているのかをお伝えしたいと思います。

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「高輪ゲートウェイ駅」は、羽田空港から13分、成田空港から90分の、海に面した港南地区に位置します。この立地的特徴から、日本、海外への玄関口、「グローバルゲートウェイ」としての機能を果たすことができるとわたしたちは考えています。
>>https://note.com/tokyoyard/

立地的な特徴とともに、新駅周辺の地域にはかつて江戸時代に東海道の「高輪大木戸」が設けられ、江戸の南の玄関口としての機能を果たしていました。またはじめて鉄道が開通し、その後は列車の車庫場となった歴史的背景をもつ「はじまりの場所」でもあるのです。

その「はじまりの場所」に街をつくるプロジェクトが「品川開発プロジェクト」であり、東京という都市の未来が本当の意味で豊かになるまちづくりをするために立ち上げたのが「TokyoYard PROJECT」です。

TokyoYard PROJECTとは

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「TokyoYard PROJECT」は、様々なプレイヤーと連携しながら「共創」と「実験」を試み、ビジネスや文化が生まれ続ける街の仕組みづくりを品川開発プロジェクトに実装することを目的としたプロジェクトです。
>>https://tokyoyard.com/

なぜ「共創」と「実験」をキーワードにしているのか。その理由のひとつは東京の不動産開発/都市開発の課題感にあります。

不動産開発というビジネスは、建物をつくり、場所を借りていただくテナント様と契約した後は、デベロッパー(貸し手)から手離れしてしまうことが多く、地域の未来を見据えた持続的な関係構築の担い手が不明確になっていく側面があります。

また、都市開発は権利者や開発に関わる事業者のかたがたとの合意形成を慎重に進める必要があります。これだけの大都市での開発事業には、関係者間での合意形成が不可欠ですが、膨大な数のステークホルダーを集めた開発を進めるための議論に多大なエネルギーを割かざるを得ません。結果として、再開発のプロセスは、本質的な課題である「将来にわたってこの街が周辺地域とどう係わっていくのか、周辺地域がどう持続的に成長していけるのか」を考えるための「共創」の土壌づくりや、柔軟なまちづくりの障壁にもなりえます。

さらに、約1000万人の都民を守るために、公衆衛生・公益性の観点から欠かせない規制が、新たな事業を生み出そうとする「実験」的な試みとどうしても対立してしまうというジレンマもあります。

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パンデミックを経験した世界で抱く、都市開発の課題感

こうした東京における都市開発の構造上の課題と同時に、パンデミックによってわたしたちの社会がさまざまな分野で価値転換が迫られていることも避けては通れない問題です。

鉄道、車両、街──。ひとの移動や生活を支えるための事業を行うわたしたちが、社会にどのような価値を提示していくべきなのか。フィジカルなネットワークの強みをどう活かしていくべきなのか。JR東日本は改めてこの問いに直面しています。

鉄道事業者・不動産デベロッパーにとっては、移動をするかたが減ることは直接的な減収要因になります。JR東日本は駅をはじめとしたひとが集まる場所でトラフィックを確保し、収益を生むビジネスモデルを軸にしていますから、ひとりでも多くのかたに駅や街にお越しいただき、直接その地域の魅力に触れていただきたいという思いがあります。

しかし、ひとが集まることの意味が問われているなか、都心の駅にひとが集まるきっかけを店舗や施設の魅力だけでつくろうとするだけではもう不十分であり、「自分たちの生活がどのように変わるのか」というワクワクや未来像、価値観をもって、駅と街・ひとびとを繋ぐ新たな発想が必要になります。

「TokyoYard PROJECT」が掲げる「共創」「実験」というキーワードには、こうした都市の課題意識からきたものです。こうした課題があるからこそ、都市開発においては後発であるJR東日本が、これまでの東京の都市開発が培ってきたものから学び、わたしたちがもっているものを活かして、未来に向けて変えていく挑戦をしていくべきだという考えを込めているんです。

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「共創」と「実験」 都市開発が進むべき方向性

「ひとと時間をかけてインフラをつくる」という根底にある事業、中立性・公共性が求められる企業としての立ち位置をもつわたしたちは、以下の2つをまちづくりの軸に据えています。

・文化をかたちづくるハブとなり、オープンな「共創型のまちづくり」を行う
・「実験」を促す“やってみようが、かなう街”を実現する

この街を活動のフィールドとして選んでくれたパートナー企業と、わたしたちとの関係を賃貸借契約だけで定義するのではなく、入居する事業者にとってステップアップできるゲートウェイであること。建物をつくったあとも当社が積極的に街に関わり、企業の実現したいビジョンやおもいと品川の街の未来と照らし合わせてともにかたちにしていくことが、わたしたちが目指すべきまちづくりであると考えています。

試行錯誤を繰り返しながら、様々な分野のパートナーを交えたミーティング「TokyoYard Gathering」などのオープンな議論の場をつくり、必ずしも入居するわけではない・事業参加はしていないが、この街での取り組みに参画したいという意思を持つかたがた・企業にも門戸を開いています。また、開業予定の街では、公共空間を活用した実証実験などの事例を積み重ねることで、限定的に行政の規制緩和を認めてもらえる場所を持つ街にすることを見据えています。

「共創」のはじまりの場所、Partner Base

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わたしたちの都市開発の根底にある共創と実験について思いを綴りましたが、実際に実践していくにあたって、街の入り口である高輪ゲートウェイ駅の構内である施設の運用を開始しました。それが「Partner Base Takanawa Gateway Station(以下、Partner Base)」です。駅構内からもサインがチラリと見えるので、新駅を訪れたかたは、なんの施設か不思議に思ったことがあるかもしれません。

Partner BaseはGate01、Gate02、Gate03にわかれ、プロジェクトの構想や全体像をお伝えするとともに、2020年に開業した駅を実際に活用しながら、品川のまちづくりや新たなビジネス・サービスを生み出していくための、パートナーのかたがたとの議論・検討を主目的とした共創拠点です。

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Gate 01:施設全体のデザインを行った博展とクリエイター集団・ライゾマティクスによる模型と巨大スクリーンのインタラクティブな映像がパートナーをお迎えし、「品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)」の計画概要・コンセプト、JR東日本がまちづくりにかける思いをお伝えします

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2024年度開業予定の街は1街区から4街区にわかれ、オフィス、商業施設、文化創造施設、ホテル、住宅、インターナショナルスクール、ビジネス支援施設などが建設予定となっています

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Gate 02:パートナーに向けて品川開発プロジェクトのプレゼンテンテーションを行い、「共創」「実験」を実現するためにディスカッションを行います。今後は、パートナーのかたがたからのプレゼンテーションを伺い、まちづくりを進めるということも想定しています

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Gate 03:開発用地に面し、建設中の街区を見ながらまちづくりのプロセスを知ることができます。Partner Baseでの運搬ロボの実証実験など、わたしたちの取り組みや実証実験の例などをフレキシブルに入れ替えてご覧いただく役割もあります

すでに、さまざまなパートナー企業をPartner Baseにお招きし、プロジェクトのご説明やミーティングなどが行われ、駅構内では車いすを利用するのお客さまもタッチしやすい自動改札機 やキャッシュレスの無人 AI 決済店舗 「TOUCH TO GO」、自律移動型の警備・清掃ロボット、移動案内・広告ロボットなど、多くの実証実験が実施されています。TOYOTAのパーソナルモビリティロボットなどは、Partner Baseをはじめ、駅外でも実験を行っていきます。

さらに、駅構内ではできないことであっても、パートナー企業とJR東日本のアセットを用いた駅の外での実験も視野に入れています。江戸時代から東京がもつ海洋都市としての側面を活かし竹芝と連携した船の通勤、ドローンを使った物流システムなど、これからのモビリティのありかたをプロジェクトにも活用していきたいと考えています。

このように高輪ゲートウェイ駅では、街の未来を体感する入り口として、さまざまな共創と実験の種を蒔いていますが、技術を体感することが重要なのではありません。ただ日常的な移動の延長線上にある駅ではなく、駅を通過するひとびとの生活に気づきや変化を与える場所にしたいと思っています。

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取材協力:JR東日本・渡邊直樹、本田佳
インタビュー・構成:和田拓也
撮影:山口雄太郎
ディレクション:黒鳥社

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