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世界各地に存在する「地域の課題」の解決に貢献したい ドローン・グリーンスローモビリティ実証実験のご報告

JR東日本がすすめる高輪ゲートウェイ駅周辺一帯の品川開発プロジェクトの一環である「TokyoYard PROJECT」では、開発の背景やプロセス、まちづくりにおける思想を発信しています。

https://note.com/tokyoyard

今回は、昨年実施した「グリーンスローモビリティ」「ドローンによる有人地帯でのフードデリバリー」の実証実験をご紹介します。品川開発プロジェクトは「100年先の心豊かなくらしのための実験場」を掲げ、以前にもご紹介した空間自在プロジェクト/ポケットマルシェなど、さまざまな実証実験をおこなっています。わたしたちがなぜ「実験」を掲げるのか。JR東日本 品川開発プロジェクトチームの山縣がお伝えします。

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山縣佑亮
事業創造本部 新事業創造部門 品川くらしづくりユニット(事業計画)
まちびらきを念頭に置いた新サービスの創造、地域連携、モビリティを担当。

グリーンスローモビリティの活用

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昨年11月下旬から2週間かけて、グリーンスローモビリティの実証実験が白金・高輪エリアで実施されました。国土交通省の公募事業として港区と連携した本実証実験では、小型の電気自動車を活用し、高輪ルート/高輪・白金ルートをそれぞれ30分/60分かけて1周する定時定路線の運行が行われました。

⑦実証ルート

⑦-2実証ルート

グリーンスローモビリティ実証実験の目的は、交通課題の解決とマイクロツーリズムの醸成です。高輪エリア、竹芝をはじめとした湾岸エリアは、線路・幹線道路によって南北方向の移動手段は比較的多いものの、東西方向への移動手段は少ないという課題があります。また、高輪エリアは港区5地区の中で最も高齢化率が高いこと、バスなどの公共交通手段では入れない狭隘な道や坂道が多いことから、列車やバスに代わる交通手段を検討する必要性がありました。あたらしい街では、駅と街、街と地域が繋がる「エキマチ一体」をテーマとしていますから、住民のみなさま、訪れる方々、地域を相互に繋ぎつつ、環境負荷の低い都市型の次世代モビリティの検討をするために、グリーンスローモビリティの実証実験を行いました。

参加は予約制であったもののほぼ満席となり、参加者のみなさまには「普段通らない道を通れた」「発見があった」といった声をいただきました。また、環境に優しく(グリーン)、ゆっくりした(スロー)乗り物である本車両は時速20km以下で低速走行するため、渋滞の発生などを懸念していましたが、大きな問題は観測されませんでした。ただ移動するだけでなく、自分が住む地域を改めて知るきっかけをつくるために、グリーンスローモビリティが非常に有効な手段のひとつとなる可能性があると考えています。

一方で、指定の車両は両方ドアがないため冬季の走行が難しく、安全性の検証もさらに必要になります。サービス面・性能面以外にも、公道で次世代モビリティを走行させるうえでは法整備面でのハードルも高く、お客様の細かいニーズに対応し、さらに広範なエリアで実装するには課題が多く残されています。

ドローンによる有人地帯でのフードデリバリー

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同じく昨年11月に実施されたドローンによる有人地帯でのエンターテインメント型フードデリバリーの実証実験も実施されました。東京都の公募事業であるドローンを活用した物流の社会実装プロジェクトに採択され、JR東日本、KDDI、ウェザーニューズ、テラドローン、日本航空からなるコンソーシアムによって進められています。

https://note.com/smart_tokyo/n/n9eb178136edf

どのようなビジネスモデルであればより良い社会実装に繋がるかなどの机上検討をすすめた一昨年に続き、実現可能性を探るために、湾岸エリアである竹芝で実証実験が行われました。

ドローンによるフードデリバリーを検討している背景には、主にコロナ禍において遠出がしにくい、また先述のように東西移動の利便性に欠けるというユーザー側の課題と、店舗での売り上げ減少とデリバリー需要への対応という飲食店側の課題があります。本実証実験は、こうした社会課題に対して有効な手段を検討するために実施しました。

今回は、飲食店の料理コースを2パターン準備して事前に購入いただき、お客さまに届けるというものでした。こうした実証実験は無償で参加いただくことが多いのですが、参加者のみなさまのリアルなフィードバックをいただくことを目的に、料金をお支払いしていただきました。有償でやや高価格帯の料金設定であったにも関わらず、応募開始1週間で完売となり、実施後の体験満足度も非常に高いものでした。

サービス利用①-JRモデル

しかしながら、継続的に利用していただき、生活に近いレベルで広く普及させるにあたっての課題もみえてきました。2022年ごろに有人地帯での目視外飛行が解禁される予定ではありますが、今回はドローンから半径30m以内にお客さまを入れてはならず、有人地帯では目視内で操縦しなければならない制約がありました。また飛行するドローン直下の土地の所有者には同意をとる必要があり、手続きも煩雑です。地域住民の方々のベランダまで届けることをゴールとしたとき、こうした規制、安全管理等でのハードルがあります。べランダではGPSの精度が落ちたり、ドローンが入り込めない場所も多いなど、技術的な課題もクリアしなければなりません。

さらに、地域課題を解決することが目的ですから、地域のスモールビジネスや飲食店の料理をいかに届けるために、飲食事業者向けのドローンポートの設置場所をどうつくっていくか、食事をドローンにスムーズにわたすための仕組みなども検討していく必要があります。決まった場所だけではなく、周辺地域に広く届けるためにクリアすべきことは多くありますが、今後どのような課題が想定されるのかを洗い出す良い機会となりました。

地域・社会全体の課題解決に必要な、共創と実験の場

そもそも、なぜ品川開発プロジェクトでできるあたらしい街が「実験の場」であることを重視し、こうした実証実験をおこなっているのか。それは、新しい都市開発のあり方として社会課題解決型のまちづくりを実現していくためです。

これまでの都市開発の多くは、一旦更地にして新しい施設をつくり、入居するテナントさまからの賃料でデベロッパーが収益をあげていく、不動産賃貸業中心のビジネスモデルになりがちでした。そうしたまちづくりのあり方では必ずしも開発周辺地域に良い結果をもたらしませんし、テナントさまを誘致するだけでは、わたしたちが現在直面する様々な社会課題を解決することが難しいこともあります。都市開発・まちづくりは転換期にあり、次の社会に対して、わたしたちは取り組んでいく必要があると感じています。

しかし、社会に残された課題はJR東日本グループだけでは解決できません。地域住民やお客さまの課題をすくいあげながら迅速かつ柔軟に開発をしていくには、わたしたちと連携する社外のパートナー企業さまの強みを活かして共創・協業していく必要があります。そして多くのパートナーの武器や知恵を集結させるためには、街が実験を許容するひらかれた場であることが重要です。

今回の実証実験に係る成功の定義は、「それ自体が成功すること」ではありません。失敗したとしても、できないことがわかること、成功するための課題を洗い出すことが重要なのです。成功も失敗も受け入れてチャレンジを行うことは、「会社」という組織上、決して簡単なことではありません。しかし、そんな簡単ではないことをわたしたちが率先して実行していくことが、地域のチャレンジを後押しすることに繋がるとともに、社会に与えるインパクトも大きいものになるのではないかと考えています。

飛行シーン-浜離宮

私たちは、こうした共創と実験によって地域の課題を解決していくと同時に、その取り組みがより広範囲にわたって社会全体の課題を解決に貢献していきたいと考えています。実証実験の背景にあった課題感は決して高輪・白金エリアだけのものではなく、共通の問題を抱える地域が日本各地、さらには世界各地に存在します。ドローンの実証実験に竹芝を採用したのは、高輪・白金・泉岳寺をはじめとした高輪ゲートウェイエリアだけで開発を完結するのではなく、竹芝などの湾岸エリアなど他の開発エリアとも連携しながら、地域全体の価値向上に取り組んでいきたいという思いがあるからでもあります。

そのためにはさらなる実験を積極的におこなっていく必要がありますし、多面的に社会課題の本質を探るべく、より多くの共創パートナーを募ることができる、ひらかれた場所をつくり続けていきたいと考えています。

取材・構成:和田拓也
撮影:山口雄太郎
ディレクション:黒鳥社

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