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絶えず機知に富んでいること

ポール・グレアム(Paul Graham)が執筆したエッセー「Relentlessly Resourceful」の日本語訳になります。

2009年3月

数日前、私はようやくいいスタートアップ創業者であることを2つの言葉に集約した。それは「Relentlessly Resourceful」(絶えず機知に富んでいること)である。

それまでに私がなんとか思いついた最良のものは、正反対の資質を1つに集約することだった。それは「Hapless」である。ほとんどの辞書では、Hapless は不運を意味すると書いてある。しかし、辞書はあまりいい仕事をしていない。対戦相手に勝っているけど審判の判断ミスで負けるチームは不運と言われるかもしれないが、Hapless とは言われない。Hapless は受け身なことを暗示している。Hapless であることとは、環境にズタズタに打ちのめされることである。世界をあなたのやりたいようにするのではなく、世界にあなたを世界のやりたいようにさせているのである。[1]

残念ながら Hapless の反意語はなく、このことは創業者に何を目指すべきなのか伝えることを難しくする。「Hapless であるな」というのはあまりスローガンではない。

私たちが求めている資質を比喩で表現することは難しくない。最良なのはおそらくランニングバックである。いいランニングバックは決断力があるだけでなく、柔軟でもある。彼らはダウンフィールドに行きたいと思っているが、すぐさまプランを変化させていく。

残念なことにこれはただの比喩であり、ほとんどのアメリカ以外の人たちに役立つものではない。「ランニングバックのようであれ」は「Hapless であるな」と同じなのだ。

しかし、最終的に私はこの資質を直接的に表現する方法を見つけ出すことができた。私は投資家向けの講演を書いていて、創業者に求めるものを説明しなければならなかった。Halpless の正反対の人とはどんな人だろうか? 彼らは絶えず機知に富んでいるだろう。ただ単に機知に富んでいるだけではない。ごく一部のほとんど興味深くない分野を除いて、これは物事をあなたの思い通りにするのに十分ではない。どんな興味深い分野でも、困難は目新しくなるだろう。つまり、あなたはそれらの困難がどれほど難しいのか最初は分からないので、ただ困難をかき分けて進むだけのことはできないのだ。あなたは自分が泡または花崗岩のブロックをかき分けて進むことになるのかどうか分からない。だから、あなたは機知に富んでいなければならない。新しいことに挑戦し続けなければならないのだ。

絶えず機知に富んでいなさい。

これは正しいことのように思えるが、ただの一般的な成功する方法の説明であるのか? 私はそうとは思わない。これはたとえば文章や絵画で成功するためのレシピではない。そのような仕事では、レシピは能動的に好奇心旺盛であることだ。機知に富むとは障害物が外側にあることを暗示し、それらの障害物は通常スタートアップの中にある。しかし、文章や絵画では障害物はほとんど内側にある。障害物は自分自身の鈍感さである。[2]

おそらく「絶えず機知に富んでいること」が成功のレシピである他の分野はある。ただし、他の分野がそのレシピを共有しているかもしれないが、私はこれが私たちが見つけられるいいスタートアップ創業者にするもののベストな短い説明であると考えている。私はこの説明がより正確になれるとは思えない。

今や私たちは自分たちが求めているものを分かったので、これは他の質問をもたらしてくれる。たとえば、この資質は教えられることができるのか? この資質を人びとに教えようとした4年間を経て、私は「はい」と答えるだろう。誰にでもではないが、多くの人たちには可能だ。[3]性格上受け身なだけの人もいれば、引き出される必要があるだけの絶えず機知に富む潜在能力を持つ人もいる。

これは特に今までずっと何らかの権威に支配されてきた若い人たちに当てはまる。絶えず機知に富んでいることは、大企業やほとんどの学校では間違いなく成功のレシピではなかった。私は大企業におけるレシピがどんなものなのかを考えたくないが、レシピは確実に長くて面倒なもので、機知に富むこと、従順、および同盟関係を築くことのいくつかの組み合わせを伴う。

この資質を特定することは、人びとがよく疑問にするある質問への回答に私たちを近づけさせてもくれる。それは「スタートアップは何社ある可能性があるのか」である。一部の人たちが考えているように、この数には経済的な上限がない。証明されることができる定理の数に限界があるのと同じように、消費者が吸収できる新たに創造された富の量に限界があると信じる理由はない。だから、もしかするとスタートアップの数を制限している要因は、潜在的な創業者のプールである。いい創業者になれるだろう人もいれば、そうでない人もいる。そして、私たちは何がいい創業者にするかを言うことができるようになったので、プールの大きさに上限を設ける方法を知っている。

この検証は個人にも役に立つ。あなたが自分はスタートアップを始めるのに適するような人かどうかを知りたい場合、自分は絶えず機知に富んでいるかどうかを自問してください。そして、誰かを共同創業者として採用するかどうかを知りたい場合、その人に絶えず機知に富んでいるかどうかを聞いてください。

あなたはこれを戦術的にさえ使える。もし私がスタートアップを経営していたら、これが鏡に貼りつけるフレーズになるだろう。「人びとが欲しいと思うものを作ろう」は目的地だが、「絶えず機知に富んでいよう」はその目的地に到達する方法である。

注釈

[1]辞書が間違っている理由は言葉の意味が移り変わったからだと思う。今日に辞書をゼロから執筆する人は誰も Hapless が不運を意味していたとは言わないだろう。しかし、数百年前はそうだったかもしれない。人びとは昔もっと環境に翻弄(ほんろう)されていて、その結果として良い結果と悪い結果に私たちが使う言葉の多くは運に関する言葉を起源としている。

イタリアに住んでいた頃、私は一度ある人に何かをすることにあまり成功していなかったことを伝えようとしたが、成功というイタリアの言葉を思いつかなかった。私は自分が意味する言葉を説明しようとしばらく時間を過ごした。最終的に彼女は「ああ! フォルトゥナ(運命の女神)!」と言った。

[2]スタートアップには、レシピは能動的に好奇心旺盛であること、という側面がある。自分がやっていることがほとんど純粋な発見であるときがあるかもしれないのだ。残念ながら、こういったときは全体のごく一部である。その一方で、こういったときは研究においてもある。

[3]私はほとんどの人たちに対してほぼ言いたいところだが、(a)ほとんどの人たちがどんな人なのか分からない、(b)自分が人びとの変わる能力に関して病的なほど楽観的である、ということを承知している。

このエッセーの下書きを読んでくれたトレバー・ブラックウェル、ジェシカ・リビングストンに感謝する。


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