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多様なまなざし方が並存できる場を。相馬千秋「フェスティバルの変容」

「応答するアートプロジェクト|アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点」では、独自の視点から時代を見つめ、活動を展開している5名の実践者を招き、2011年からいまへと続くこの時代をどのように捉えているのか、これから必要となるものや心得るべきことについて、芹沢高志さんのナビゲートで伺っていきます。

第5回のゲストは、NPO法人芸術公社代表理事/アートプロデューサーの相馬千秋さんです。領域横断的な同時代芸術のキュレーションやプロデュースを専門とし、世界演劇祭 / テアター・デア・ヴェルト2023のプログラム・ディレクターに選出された相馬千秋さんが見た、この10年の社会の変化とフェスティバルの変容とは、どのようなものなのでしょうか。

2011年からのこの10年間は、まさに激動の時代でした。それまで想定されえなかった大きな出来事が多数起こり、新型コロナウイルス感染症の流行も続いています。相馬さんは、「ある意味では人類史に残るような大きな出来事の渦中に自分たちはいるし、そのことを意識しながらキュレーションを手がけてきた」と語ります。

今でこそビエンナーレ/トリエンナーレ形式の芸術祭やフェスティバルが各地で盛んに行われるようになりましたが、日本にまだ「フェスティバル」という文化が根付いていない頃から、フェスティバルを手がけてきた相馬さん。NPO法人アートネットワーク・ジャパンのスタッフとして参加した「東京国際芸術祭」のプログラムでは、フェスティバルという場をプラットフォームにアーティストとの作品づくりを行い、その後も「フェスティバル/トーキョー」の初代プログラム・ディレクターとして2009年から2013年までの5年間を手がけました。

フェスティバル/トーキョーでは、社会の問題や、その中で人々が見ないようにしているもの、見えなくなっているものに光をあてていこうと、プログラムを企画していたといいます。フェスティバルには「祝祭性」が求められますが、渋谷のスクランブル交差点に1日に何十万人もの人が往来するような、この大都市における「祝祭性」とは一体どういうものなのだろうかと考えたとき、都市の中で見えなくなっているものや、普段は出会わないようなものに出会うといった、”広い意味での「非日常」を生み出すこと”こそが、自分にとっての祝祭性だと考えたからです。また、演劇というのは社会にあるさまざまな共同体の問題を考える「場」であるため、非日常をいかに生み出すことができるのか、その中でどう問いかけができるのかを常に考えていたのだそうです。

しかし、回を重ねるごとに、主催者である行政の求めるものと自分が大事にしているものとの齟齬を感じることが増えたため、行政主導のものから距離をとり、自分たちで独立して企画を行おうと、芸術公社を立ち上げました。
「自分たちで、自分たちのやることを決めて、自分たちの方法で活動をする」「誰にも頼まれなくてもやる」というのは、アーティストたちが当然のようにやっている、言ってみれば当たり前の事でもありますが、インディペンデントで活動をすることで、そのことの重みや痛み、醍醐味をあらためて経験し、これから目指すべきもののために活動するための腕力がついたのだそうです。

相馬さんは、社会の異なる、いままで排除されてきたものが集まってくるような場をこそ、作りたいと語ります。2019年のあいちトリエンナーレでは、日本の文化芸術という制度の現状や、顕在化した社会の分断をまざまざと感じるような経験をしました。またそのあとに起こった新型コロナウイルス感染症の拡大という、非日常が日常になるような状況を考えるとき、「やはり現在は、社会全体があたりまえのように受け入れてしまっていることをもう一回疑うチャンスなのかもしれない」と相馬さんは語ります。西洋近代的な、強い健康な身体が健全な社会をつくっていくのだというこれまでの考え方ではなく、弱いもの、病んでいるもの、そういう側からも社会や世界を見ていく必要があるのではないか。

世の中には、多様な視点があり、多様なまなざし方がある。さまざまな世界を見ている人たちが並存できる場こそがフェスティバルであり、対話の場としてフェスティバルは存在すべき。「それはフェスティバル2.0なのか、劇場2.0なのか、どういうものになるのかは分かりませんが、これから残りの時間をかけて次のパラダイム、次の場のあり方を模索していかなければならないなと思っている」と、現在手掛けている「世界演劇祭 / テアター・デア・ヴェルト2023」の準備中の経験も含めてお話をしてくださいました。

日本におけるフェスティバルの成長、その中で体験したさまざまな状況や変化とともに、これからのフェスティバルを考える相馬さんの視点。後編では現在準備を進めている「世界演劇祭 / テアター・デア・ヴェルト2023」で考えていること、準備の中で見えてきたヨーロッパや世界の状況についても語られています。

映像は前編(27分)・後編(35分)合わせて約60分です!
ぜひご覧ください。

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視点1 港千尋:前に走ってうしろに蹴る
視点2 佐藤李青:3.11からの眺め
視点3 松田法子:生環境構築史という視点
視点4 若林朋子:企業・行政・NPOとの応答
視点5 相馬千秋:フェスティバルの変容

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