#1304 実にご返答も出来ぬくらい不思議の広告で……
それでは今日も幸田露伴の『露団々[ツユダンダン]』を読んでいきたいと思います。
太陽が西に傾く頃、ブロードウェイの塵を避けるためにセントラルパークへ向かう「じよん」と「れおなァど」が会話をしています。れおなァどが言います。「人をそしる声はそのそしらるる人の耳よりそのそしる人の耳へまず早く聞こゆる」。じよんが答えます。「名言を覚えていたね。君には珍らしい、感心だ」。れ「どうだ、僕も君子だろう」。じ「はは、その一言でやはり凡人たることをあらわすのだ」。れ「なぜ」。じ「自ら賛する者は自ら留まって進まざるものなりといふ諺がある」。れ「やれやれ、名言で復讐をされた。しかし我々の談話も大分高尚になってきた。僕はしんじあ君の演説を聞いてから多きに高尚になってきた」。そんな会話をしながら、公園の静かな所に行くと、「じやくそん」がひとりうな垂れて座っています。足下には新聞紙が落ちています。新聞を取り上げ、「じやくそん」を呼ぶと、「君らはこの事件を何と考えるか、少し助言を願いたい」と言います。じ「その事件とは?」。じや「すなわち、その事件で……」。れ「おかしな返答だ。発狂したのではないかしら」。じや「しかり。その発狂したか否かの点です」。じ「一体その事件とは?」。じや「君の手の中の新聞紙の広告欄内を読みたまえ」。れ「なんだ婚姻を求むるというのか。教育、性質、容貌、財産、結構々々。年齢は十九、いよいよ結構!有意、有意、大有意だ!」。じ「黙りたまえ。やかましい。そのあとにまだ望むところが書いてある」。れ「むむ、不愉快の感覚を抱かずして常に愉快の生活を成し得る者を要す……むむ……」。じ「それ見たまえ。君はどうせダメだ」。じや「ぶんせいむ君といえば、知らぬ者もない財産家で、その令嬢はすなわち、るびな嬢よりほかない。その令嬢の配偶を得ようとするぶんせいむ君は発狂しているせいでしょうか。ぼくは昨日ぶんせいむ君と令嬢に面会しましたが、なんら様子もなく、突然この広告を見るというにも実に不思議なのですが、君は何と思います?」。
というところで、「第二回」が終了します。
さっそく「第三回」へと移りたいのですが……
それはまた明日、近代でお会いしましょう!
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