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#628 あらためて『胡蝶』を読み始めます!

さて…すこし遠回りをしましたが…

まず…

山田美妙の「です・ます」調の言文一致体小説を読んでみたくて、『胡蝶』を読もうと思ったのですが、『胡蝶』の文体は『武蔵野』の文体を踏襲していることを知って、まずは『武蔵野』を読み始めたのですが、その『武蔵野』の文体の根拠は『言文一致論概略』に書かれているというので、その後『言文一致論概略』を読み始めたのですが、そのままだと、平安の時代物と評論だけになってしまうので、現代物の『花ぐるま』を読んで、再び今日『胡蝶』に戻ってきた、というわけです。

さて…

ということで、ようやく『胡蝶』の本文へと参りましょう!

ちなみに『胡蝶』の前書きに関しては、#505を読んでみてくださいね。

『胡蝶』は全部で四編で構成されおり、今日は「その一」です。

勇む源氏、いさむ浜風、無情、何のうらみ、嗚呼[アア]今まで白旗[シラハタ]と数を競っていた赤旗もいつか過半は吹折[フキオ]られたり、斫折[キリオ]られたり、はやその色をば血に譲ってしまって、ただ御座船[ゴザブネ]の近処の辺[アタリ]に僅[ワズカ]に命脈を繋いでいるありさま、気の故[セイ]か、既に靡[ナビ]いているようです。

あらためて、『胡蝶』は、壇ノ浦没落後のおはなしです。

「白旗」は源氏側、「赤旗」は平家側のことです。

海は一面軍船[イクサブネ]を床として、遠見の果てが浪に揺られて高低さえしなければ水があるとは思われません。雨のように箭[ヤ]が降注[フリソソ]いだのは戦争[イクサ]がやゝ熾[サカン]になった頃(まだ運命がいくらか頼もしかった内)だけで、今はその雨も敵の凱歌と共にあがり掛[カカ]って、ただ手近な太刀討[タチウチ]と組討[クミウチ]と薙倒[ナギタオ]しがあちこちに始まるばかり﹆折れて水に陥った箭の死骸、それも討死した士卒の軀[ムクロ]と共に幾百となくむらがって浪に弄[モテアソ]ばれている体[テイ]たらく、さながら堰[セキ]か水門に塵芥[チリアクタ]が集まったようです。今すこし前でした、能登守[ノトノカミ](教経[ノリツネ])が血眼[チマナコ]になって源氏の旗下[ハタモト]へ飛込んだのは。蹴散らし、払い倒して見る見る敵の中へ割って入ったうしろ姿のいさましさ、かなぐり捨てた、鎧[ヨロイ]の袖の切れ目の糸は微[カス]かな波を空中に打って、乱髪[ミダレガミ]に勢[イキオイ]を添えていて、そしてこれが乱入するや否[イナ]や、敵はにわかに噪[サワ]ぎ立って、主人九郎(義経[ヨシツネ])が危[アヤウ]いと思ったか、やゝ進んだ兵の内でも、旗下[ハタモト]へ引返[ヒキカエ]したものさえありましたが、いつかそれも静まって更に立直[タチナオ]る反働の力のすさまじさ、瞬く間に敵は早[ハヤ]御座船ちかく近寄ります。

「能登守(教経)」は、平家随一の猛将・平教経(1160-1184?)のことで、「九郎(義経)」は、源義経(1159-1189)のことで、ふたりはライバルでした。

「能登守だに死にたるよ」。たれ言うとなく伝えるこの声、こゝろ細さは増すばかりです。

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!



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