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食べたいものを答えるという自己主張。これは決してわがままなんかじゃなく、相手への配慮だということに気づく。『デタラメだもの』

目上の方から、「飯でも食いに行くか。何が食いたい?」などと問われる機会があったとする。接待を受ける立場になったとして、「何か食べたいものはありますか?」と尋ねられたとする。

そんな折、必ずといっていいほど、「なんでもいいっすよ!」と答えてきた人生。最近になって、その解がなんだか違うのでは? と勘づきはじめた。その気づきを、ひとまずは成長と呼びたいと思う。

言いぶんとしては、こうだ。言うても奢ってもらう立場。ご馳走してもらう立場。自分勝手な我儘は言えまい。他者に代金を支払ってもらうわけだから、せめてその方の食べたいものを選択してもらいたいという配慮且つ遠慮が出てしまう。
奢ってもらうわ、食いたいモンを喰うわじゃ、あまりにもセルフィッシュな気がして仕方がないじゃない。だからこそ、「なんでもいいっすよ!」と答えてきたわけだ。

ただ、よくよく考えてみると、友人たちと同じようなシチュエーションになった折も、「なに食べよっか?」との問いに対し、「なんでもええよ」と答えてきた気がする。

言いぶんとしては、こうだ。当方、嫌いな食べ物が一切ない。食べる行為そのものを好んでいるし、「今はラーメンが食べたい気分だわ」といった具合に、刹那的に特定のカテゴリの食べ物を欲することも、そんなにない。

野球に例えるなら、「俺はアウトコース高めのボールなら、確実にホームランが打てるぜ!」というタイプのバッターではなく、「どこにボールが飛んでこようがヒットは打てるよ」ってなタイプのバッターなわけ。つまりは、なんでも来い、のスタンスで常にボールを待ち構えているのです。

もし万が一、その目上の方や接待の場を設けてくれる方が好き嫌いの持ち主だったとする。そして、偶然にもこちらが選択した食べ物が、嫌いな食べ物に該当してしまった場合、妙な空気になるじゃないの。

「飯でも食いに行くか。何が食いたい?」
「そうっすねぇ。ラーメン喰いたいっすね!」
「あっ、そうか――何が食いたいか聞いといて申し訳ないねんけど、俺……ラーメン、嫌いやねん」

と相成った場合、こう答えるしかないじゃない。「まじっすか……じゃあ、なんでもいいっすよ!」。ほうら、結局はここに帰結するじゃない。それを見越したうえで、吾輩は全選択可能な人間です、と包み隠さず申し上げているわけだ。

また、こんな会話の流れも想像できる。

「飯でも食いに行くか。何が食いたい?」
「そうっすねぇ。焼肉が喰いたいっす!」
「あっ、そうか――何が食いたいか聞いといて申し訳ないねんけど、俺……今日、焼肉の口じゃないんだわ」

と相成った場合も、こう答えるしかないじゃない。「まじっすか……じゃあ、なんでもいいっすよ!」。ほうら、ほうら。

相手方には好き嫌いがあるかもしれない。時限的に特定のカテゴリの食べ物を食したい気分になるタイプの人かもしれない。一方、こちらは好き嫌いが皆無。刹那的な食の気分に流されるタイプでもない。であれば、こちらが何かを指定するよりも、相手方に指定してもらったほうが効率的だと思うのって、わたしだけ?

そんな風に決め込んでいたが、どうやら違うっぽい。いざ、自分が後輩に「何か食べたいもんあるかい?」と尋ねるような立場になればこそ、気づくこともある。せっかく代金を支払う側の立場になったんだし、気持ち良くお金を支払いたい。そのためには、ご馳走して差し上げる相手の食べたいものを、目いっぱい腹いっぱい食してもらいたい。

結論。「飯でも食いに行くか。何が食いたい?」と問うてくる相手に対しては、「僕、ラーメンが喰いたいっす!」と、誠心誠意、全力で答えてあげるほうが、相手は喜ぶということ。そのほうが相手の満足度、すなわち、「俺はご馳走してあげているんだ」という自身の甲斐性を見せたい欲求が満たされる。

そしてもう1点、「飯でも食いに行くか。何が食いたい?」という問いに対し、「僕、焼肉が喰いたいっす!」という主張をきっかけに、最終的に何を食べに行くかの議論が幕開けとなり、話が進むというもの。
選択肢が何もない状態だと話も先に進まないが、まずはひとつ目の意見を出し、議論を活発化させる役割。ほら、しりとりだって、最初の単語がなければ、二の句三の句と継いでいけないもんね。

「しりとり、やろう! 最初の単語は何にしようか?」
「なんでもいいっ"ス"!」
「"ス"イカ」
「"カ"モメ」
「"メ"ダカ」

――とは、ならないもんね。てへ。

話を前に進めるための第一声というのは意外に大事なもので、これは問いを投げかけた相手に対するマナーの側面もある。

ごく稀に、「どんな音楽が好きなの?」と問われる機会がある。その実、どんな音楽でも好んで聴くタイプである。ラウドロックを聴いた直後にカントリーミュージックを聴くこともあれば、ブルーズを聴いたあとにJ-POPを聴くことだってある。特定の音楽が好きなわけじゃなく、音楽そのものを愛しているわけだ。

そうなると、「どんな音楽が好きなの?」という問いに対しては、「なんでも聴きますねん!」と相成ってしまう。

そんな折、隣の誰かが「ワシ、ヒップホップ聴きますねん!」と答えようもんなら、そこから話はスムーズに展開する。どのアーティストが好きなの? という質問しかり、なんでヒップホップ聴きはじめたん? というルーツを尋ねる会話しかり。

「なんでも聴きますねん!」という回答はプカプカと宙に浮いてしまう。身元引受人のいないその発言は行き場を失い、誰にも気づかれぬまま消失してしまうのがオチだ。

仮に、複数のものを好んでいたとしても、特定の何かを提示して差し上げる。己のステータスを誇示する必要なんてないのさ。話が盛り上がるよう、スムーズに会話が進行するよう、ネタを提供してあげると捉えればいい。

きっと、社会に出てもそう。面接で質問される際なども、「君って何ができるの?」と問われて、「なんでもできます!」と答えてしまうことほど芸の無いものはない。
うどんのメニュー1本で勝負しているうどん専門店と、うどんも蕎麦もお寿司も、さらにはナポリタンやハンバーグも提供している店とでは、どちらが真の実力者かは一目瞭然だ。

自分なりの主張が大切ということに気づいたことで、自分も何か確立された主張を持とう。そう思い、手始めに、「お酒は何が好きなの?」という問いに対し、以前までは「なんでも飲みますよ」と回答していたところを、「ビールが大好きっす!」に変えてみることにした。

確かにそのほうが話は進むし、問うた相手も満足そうだ。しかし、ビールが好きといっても特に拘りはないし、ビールサーバーの清掃を怠り、翌日に妙な二日酔いを引き起こす類のビールでなければ、どんな居酒屋で提供されるビールもグビグビやれるし、缶ビールだって大好きだ。

ところが、問うた相手は気を良くし、「へぇ、ビールが好きなんだね。クラフトビールとか飲みそうだね。どんな種類のビールが好きなの?」という質問の矢を放ってきた。

実際のところ、クラフトビールの知識などない。潤沢にお金があれば、ビールに拘りも持つかもしれないが、それほど裕福でもないし、2~3杯飲んでしまえば、味などわからなくなってしまうのが事実。楽しく飲めればそれでいいし、極端な話、「これ、ビールだよ」と言って提供されれば、ノンアルコールビールでも酔っぱらえるほどだ。

「どんな種類のビールが好きなの?」という質問に何とか返答せねばと焦り、狼狽した結果、「なんでも好きっす!」と答えてしまいそうになったが、自分の主張が大切だと気づいたばかり。成長した姿を見せねば。

そう思い、鼻息荒く、「喉ごし最高のビールです!」と答えたところ、問うた相手は肩透かしを食らった様子で、その後、会話の数が激減してしまったことは想像に易い。

デタラメだもの。


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