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道案内に隠されたさまざまな物語。滅私奉公の精神で目的地まで案内して差し上げる勇姿をとくとご覧あれ。『デタラメだもの』

ふと自分の人生を思い返してみると、やたらと人から道を尋ねられることに気づいた。当の本人としては、人と違った生き方をしたいと、はみ出し者の生き様を貫いていることから、常に変顔をして道中を移動するなど、奇をてらった行動を演出しているつもりが、どこか朗らかなムードを醸し出してしまっているのだろう。老若男女、特にシニアの方々に道を尋ねられる機会が実に多い。

こうも道案内に精通してしまうと、前方十数メートル先にいらっしゃるシニアの方が、道を尋ねるべくこちらに寄ってくるだろうことを事前に察知し、この辺りならばきっとあの建物を探しているのだろうな、というところまで予測できるようになってきた。するとどうだ。案の定こちらに寄ってきては、予想通り道を尋ねる。事前の準備が整っているため、即座に回答できる。先方の目にはプロの道案内人に映ったに違いない。品質の高いサービスが受けられたことで、満足げな表情で目的地を目指して行かれる。

仮にこっちが3~4人など集団でいる場合でも、ピンポイントでこちらを目指してやってくる。実に光栄なことだ。果たして後光でも差しているのだろうか。目的地には迷えども、プロの道案内人への道には迷わないようだ。

そして、シニアに次いで道を尋ねてくる機会が多いのが、外国人観光客の方々だ。今のように、スマートフォンといった便利なものが普及するまでは、見知らぬ土地で迷わずに観光をするのは実に難しく、至るところで視線をキョロキョロとさせる外国人の方を見かけたものだ。そしてどうやら、外国人観光客の方々も、プロの道案内人のことは見分けられるらしく、迷わずこちらに寄ってくる。実に光栄なことだ。

今より英語に不慣れだった頃は、英語を駆使して道を説明することが難しく、どう案内すればいいのかもわからず、とは言え、困っている人を放置するわけにもいかず。毎度のように「フォローミー」と言いながら、観光客の方々の先頭に立ち、目的地へと先導することが多かった。

友人との待ち合わせ場所に向かう最中や、会社へと出勤する道中に道を尋ねられた際にも、陽気に「フォローミー」と言いながら道案内をするもんだから、予定の時間に遅れてしまい、こっ酷く叱られることが多かった。そんなときは、陽気に「ヘルプミー」などとお道化ながら、シラけた空気を作っていたもんだ。

少し英語に慣れ始めた頃は、自分への挑戦の意味も込めて、英語での道案内に努めた。ところがだ、道案内というものの難解さに気づいてしまった。というのも、実は道案内ってやつは、日本語であったとしても難しい。例えば地下にいる際に道を尋ねられた場合、地上にあがるための的確な出口を教えてあげなければならず、さらには何本目の通りを左折するかなど、具体的な行き道を熟知していなければ、全うな説明ができない。普段、何気なく歩き、何気なく目的地を目指している人間からすると、事細かに記憶していなかったりもする。実にややこしいわけだ。

しかも、適当な説明をしてしまうと、目的地に辿り着くことはできないだろうし、道案内を信じて目的地を目指したものの、いざ到着できないとなれば、信用を裏切ってしまうことにもなる。それだけは避けねばならない。

そしてさらに難しい場面が、観光地での道案内だ。当の本人も観光に訪れている身分だったりする。もちろん、現地の地理になど明るいはずもない。見ず知らずの土地を訪れるからこそ、観光の醍醐味。知らない道を行くからこそ楽しい。何気ない食堂の定食もうまい。そんな状況下で道を尋ねられる観光地の道案内は非常に難しい。

さまざまなことを慮った結果、外国人観光客の道案内をする際は、ある作戦を決行することにした。それは、道案内をして「バーイ!」と手を振り別れた後、その方々に気づかれぬよう距離を取りながら、正しく目的地へと向かえるかどうか見守ること。子供が初めておつかいに出る様子をカメラに収め、ハラハラドキドキする類のテレビ番組があるが、まさにあんな様子だ。

ハタからみると完全に観光客に対するストーカー行為だ。一定の距離を置きながらも、視界から彼ら彼女らの姿を見失わないよう捉え続け、目的とする電車に乗車できたり、目的地の曲がり角まで辿り着くのを見届けられたりした刹那、胸を撫で下ろし、ストーカーしてきた道、いや、見守ってきたを道を再び帰るわけだ。捉え方次第では危険人物だが、捉え方次第では極上の親切な道案内人だ。

そして、ストーカーする道中、いや、見守りの道中、彼ら彼女らが再び視線を彷徨わせる瞬間がある。例えば、大阪の地下鉄には御堂筋線と呼ばれる路線がある。路線のカラーは赤色だ。そして、千日前線という路線もあり、路線のカラーはピンク。ところが、あろうことか御堂筋線を示す看板が古ぼけてしまい、立派な赤色が劣化し薄まり、「誰がどう見てもピンクじゃん!」という色味になり果ててしまっている場合がある。

そういった際、「赤色の看板を辿って行きなはれ」というアドバイスに対し、急に看板がピンク色に変わるもんだから、彼ら彼女らも摩訶不思議。そりゃ視線を彷徨わせますわなぁ。そういった際は、プロの道案内人が即座に登場する。いや、再登場する。彼ら彼女らも、ついさっき道を尋ねた人間だけに顔も覚えている。再び現れた道案内人に、安堵感を示すわけだ。

しかし、「バーイ!」と言って手を振り別れた人間が、再び登場するのは不自然過ぎる。一歩間違えれば、「この日本人、俺たちの後をつけて来たんじゃね?」と、顔面にパンチの一発でもお見舞いされる可能性だってある。それを回避するために、登場の理由を「偶然、こっち方面で用事ができちまってさぁ」などと涼しげに言ってのけ、不自然さの撤廃を試みる。先方の表情から不信感が消失したタイミングを見計らい、こう言うのさ。「君たちが二度と迷わないように、御堂筋線の看板にトマトでもぶつけて、真っ赤に染めておいてやるぜ」と。苦笑いというものは万国共通で、シラケきった空気の中、二度目の「バーイ!」を言って手を振り、再び別れる。

再登場の際、不審がられないよう、「ナイス・トゥー・ミーチュー・アゲイン!」と、気の効いたギャグを言いながら登場する、という離れ技まで自然にこなせるようになり、すっかりプロの道案内人として板についてきた。

そんなこんなで日々、一日に三度程度は道案内をするもんだから、友人との約束には遅刻し、会社の出勤には遅れ、終電の時間にも間に合わず、時間にルーズな人間というレッテルを貼られかけてしまっていた矢先、スマートフォンが普及し、海外からの観光客から道を尋ねられる機会は激減した。約束の時間に遅れることもなくなり、結果として信用を失うこともなくなった。

と思っていたところ、先日、シニアの外国人観光客がこちらに寄ってきて、困っているから助けてくれと言うじゃないか。道に迷っているならスマートフォンをチェックすれば解決するだろうし、近頃じゃスマートフォンに話しかけることで、本体の中に住まう小さな人間が主の困り事の解決に努めてくれるらしい。だとしたら何に困っているのだろう。

そのシニアの方々はこちらにスマートフォンを差し出し言った。「スマートフォンに備わっている地図アプリの使い方がよく分からないんだよ」と。

状況としては、道に迷っている、スマートフォンも持っている。しかし、地図アプリの使い方が分からない。画面を覗いてみると、現在地のすぐ裏のビルが目的地として指定されている。歩けばすぐだ。地図アプリの使い方を教えて差し上げるよりも先導したほうが早い。

さぁどうしようと考えた挙げ句、地図アプリの使い方を教えて差し上げながら、「フォローミー」と言い、目的地まで先導してあげることにした。二重の親切にシニアの方々は大満足してくれた。しかし、実はオフィスにお客様を待たせており、同行に要した時間分だけ余計に待たせてしまった。非常に短気なお客様だったようで、ビッグプロジェクトがひとつぶっ飛んでしまった。逆鱗するお客様に向かい、「ヘルプミー」と呟いてみたところ、顔面にパンチを一発お見舞いされた。

デタラメだもの。

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《3分後にはもう、別世界。》 『3分で読めるショートストーリー作家+広告クリエイター+マーケッター』の切り口で記事を執筆しています。広告企業勤め+フリーランスの兼業家。https://www.facebook.com/osakamoderndisco/