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恋するフェルミ推定 ~渋谷では、1日に何人が恋に落ちているのか~

 インディーズ時代からSNSで広告を打ちまくり、満を持してメジャーデビューした正統派アイドルグループが、思いのほか1曲目で売れず、あわててコミカル路線にシフトチェンジし、捨て身の覚悟でリリースしたセカンドシングルみたいな今回の記事タイトル(恋するフェルミ推定)だが、内容はその限りではない。

 というのも先日、渋谷でコーヒーを飲んでいたらステキなものを見た。同じ店にいたとある男性が、連れの女性に恋をする瞬間を目撃してしまったのだ。もちろん私は第三者なので、本当のところはわからない。しかしあれはどう考えても、ひとが恋に「落ちる」ときの表情だった。まるで『ハチミツとクローバー』の第1巻、竹本がはぐみを初めて見たときのような顔である。

☝右の写真が真山センパイ

 偶然その場にいた私は、竹本×はぐみを目撃した『ハチミツとクローバー』の真山センパイさながらに、すごく照れてしまった(私はスキンヘッドだが)。いま自分のすぐ横では、ひとが恋に落ちている。その事実がどうもむずがゆくて、コーヒーを一気に飲み干し、スタコラサッサと店をあとにした。その後あの2人がどうなったかは知るヨシもないが、うまくいってくれているといいなと思う。これは目撃者Aとしての、率直な感想である。

帰り道、スクランブル交差点で

 コーヒー屋を出た私は、「照れ」の余韻を残しながら街を歩いた。

 うーむ、なんだか貴重な場面に出くわしてしまった。何回目のデートか知らないが、まだ微妙に距離がある感じだったなあ…と、先ほどの2人に考えを巡らせる。やがてスクランブル交差点の信号で足を止めた。周囲には大勢のひとがいて、楽しげに会話をしている。

 と、そのとき。あることを思った。これだけ沢山のひとがいて、いったいこの街では1日に、何人くらいが恋に落ちているのだろうと。

 先ほどの出来事のせいで、頭がメルヘンになっていたのだと思う。私は早速、再びそのへんのコーヒー屋に入って考えてみることにした。もちろんこんなお題に対して、正確な答えなど出せるワケがない。だが、フェルミ推定だったらどうだ…? 私は、名前だけ知っているこの「推定」とやらを、ここでいっちょ実践してみることにした。

フェルミ推定とやら

 コンサルやマーケティングの仕事をしているひとは当たり前のように使いこなせるとウワサのフェルミ推定について、いちおう説明しておく。ウィキペディアによれば、

フェルミ推定とは、実際に調査することが難しいような捉えどころのない量を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算することである。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%9F%E6%8E%A8%E5%AE%9A

 とのことらしい。

 ちょっとカタイ気がする。探してみたらいい感じの例題を見つけたので、共通理解のために記載しておく。

お題「日本に電柱は何本あるか」

道端の電柱を想像すると、50平方メートルに1本は電柱がありそうだ。

すなわち100平方メートルあたり2本の電柱があると仮定する。

1000平方メートル、つまり1キロ平方メートルあたりは100倍で200本ある。

日本は山岳地帯が多いので、国土の半分は電柱がない地帯と考えてみる。

日本の国土面積は約40万平方kmなので、半分は20万平方km

20万(平方キロメートル) × 200(本) = 4,000万(本)

従って、日本には約4,000万本の電柱があると推定できる。

出典:https://www.onecareer.jp/articles/1056

 とのことらしい。

 つまり、カンタンにいえば、フェルミ推定とは

正解がない問題に対して、屁理屈こねて考えてみた正解っぽいもの

ということがわかった。これはあくまでコンサルもマーケティングもやったことない素人の考えなので、細かい部分はご愛嬌願いたい。

いざ、実践してみる

 で、フェルミ推定のシステムをなんとなく理解した私は、さっそく試してみることにした。今回のお題は、

「渋谷の街では、一日に何人が恋に落ちているか」

である。

 ふーむ、果たしてどうやって考えればいいのだろうか。アゴに手を当ててみる。まずは、「ひとが人生で恋に落ちる回数」を出すのがよさそうだ。となると…それって何回? ネットで調べてみる。すると、こんな記事が出て来た。

 いやあ、どうだろうなあ…。私はタバコに火をつけた。3回ってことは、さすがにないんじゃないだろうか。私自身や友人、知り合いたちのことを考えてみても、3回はちょっと少ない気がする。それに、この記事にはなんだかお洒落な空気感がただよっている。お洒落なひとたちは往々にして「本当の恋」みたいな話をするので、いったんこの記事はパスすることにした。ええい、次だ次。

 しかしいろいろ調べると、どうやら3回説が濃厚になってきた。同じことを言っているサイトが、いくつもあるのである。

 …なるほど。やっぱりこれらの記事内では、「恋」の前に「本当の」が付いているが、もうこれを採用するか。しかし、ちょっと納得いかないので、4回ということにする。あくまで仮の数字なので、これで問題ないはずだ。

 ここまでで、ひとが一生のうちに恋する回数がまず出せた。

【恋するフェルミ推定に必要なデータ】
●ひとが一生のうちに恋する回数:4

 で、次はなんだろう。渋谷の街に、1日で何人いるかわかったほうがようさそうだ。ネットでポチポチと検索してみる。しかしどうも、私の欲しいデータがなさそうな雰囲気である。

 困った私は、とりあえず駅の乗降者数を調べてみることにした。渋谷駅で電車に乗ったり降りたりするひとは、「渋谷にいるひと」としてカウントして問題ないだろう。で、渋谷駅の1日の乗降者数は、 約200万人とのことだった。ちなみにこれは、世界で2位らしい。1位が新宿駅。上位20位まですべて、日本の駅が占めるのだとか。日本には、電車が好きなひとがそんなにいるのだろうか。

 話を戻そう。とりあえず、渋谷駅を利用するひとは一日で約200万人。そしてここに、バスや自転車、タクシーや歩きで訪れるひとを足してみる。これはどんなもんだろう。電車の10分の1だとして、20万人でいいか。よし、渋谷にいるひとの数は、1日にだいたい220万人ということがわかった。これを、先ほどの表に追記する。

【恋するフェルミ推定に必要なデータ】
●ひとが一生のうちに恋する回数:4
●1日に渋谷にいるひとの数:220万

 これで、なんとなく正解を出せそうだろうか。いや、単位を統一しなければならない。ということは、「ひとが一生のうちに恋する回数」を1日に換算する必要がある。

 日本人の平均寿命は84.36歳。これに1年の日数365を掛けると、3万791日。さらにこれを、「ひとが一生のうちに恋する回数」の4で割ってみる。答えは7697日。つまり我々は、21年に1回の割合で「本当の恋」に落ちるらしい。もちろんこれは0~84歳までを均等に割ったもので、かつ、「本当の恋」の正体がわからないのであまりアテにならないが、まあいいだろう。先ほどのデータを修正してみる。

【恋するフェルミ推定に必要なデータ】
●ひとが恋に落ちる頻度:7697日に一度
●1日に渋谷にいるひとの数:220万

 ここまで考えてみて、私の頭の中に「つまり、どういうことだってばよ!?」とナルトが登場してしまった。なんとなくそれっぽい数字だけを考えたら、迷路にまよいこんだカンジである。

 が、何事も根気よく考えれば解決するものだ。私はタバコを2本吸って、ひらめいた。渋谷には1日、220万人がいる。ひとが恋に落ちるのは、7697日に1回。ということは、220万を7697で割れば、その日、渋谷で恋に落ちるひとの数が出せるはずだ。早速、やってみることにした。

2200000÷7697=285

 ふーむ、答えが出た気がする。285。つまり、渋谷で1日に恋に落ちるひとの数は、285人だ。なるほど。なんだか思っていたより、数が多い気がする。計算が違うのか…? しかし私には、もはや検証する術もない。とりあえずこれを正解として、あらためて数字を眺めてみる。

285

 どうもこれだと、さきほど私が出くわした場面の価値が、薄れるような気がする。もっと貴重な体験だったと、ホクホクしながら帰宅したい。そこで私は、この285という数字を活用して、確率を出してみることにした。すなわち、

渋谷の街で、ひとが恋に落ちる瞬間に出くわす確率

である。

 これだったらきっと、0.002%みたいな数字が出るから、とてもホクホクできるはずだ。「ああ、自分は今日、貴重な場面を目撃したんだな」と、大した意味のない自分の日常に彩りを加えられる気がする。

 早速、考えてみた。

 しかしどうにも、「渋谷の街」だと範囲が広すぎて、都合が悪い。ひとが恋に落ちる瞬間を目撃するためには、ある程度近い距離で、ある程度の時間をともに過ごす必要がある。

 そこでお題に条件を加えることにした。「飲食店」である。飲食店で一緒になったひとならば、ある程度距離が近いし、時間も共有できるという認識でいきたい。

 お題を以下のように修正する。

渋谷の街にある飲食店で、ひとが恋に落ちる瞬間に出くわす確率

 うーむ、お題がだんだんズルい感じになってきたが、そこはご愛嬌である。なにもこれは、コンサル会社の上司に提出する書類ではない。街で偶然出くわしたステキなシーンに対して、そこに自分がいたことの意味を見出したいヒマな独身スキンヘッドが自分のために用意するデータ作りなのだ。そんなもの、出来レースに決まっている。そんな感じの言い訳を考えながら、ネットで飲食店の数を調べていく。いい感じのデータを見つけた。

●渋谷区にある飲食店の数:4294

出典:https://www.homemate.co.jp/research/pr-tokyo/13113/

 で、範囲が「渋谷区」だと代々木上原や原宿、神泉や代官山くらいまで入ってしまい広すぎるので、ここでは一般的に想像される「渋谷」に範囲を絞る。どれくらいだろうか。

 たぶんこれくらいだろう。

 いわゆる「渋谷で待ち合わせ」で想像できる範囲内である。

 で、渋谷区にある4294の飲食店のうち、この範囲にはどれくらいの店があるのだろうか。ふーむ、これもまたムズいな。まあ、ここは渋谷区の中心だと考えて、約半分の店が集結していることにしよう。となると、2147だ。この数字を、さきほどのお題に対して活用してみたい。

【渋谷の街にある飲食店で、ひとが恋に落ちる瞬間に出くわす確率】
●1日で渋谷の街で恋に落ちるひとの数:285
●渋谷の街にある飲食店の数:2147

 よし、ここまでくればもう答えが出そうだ。


2147÷285=7.533333333.....%

 はい出た。7.53....%である。

 つまり、「渋谷の街にある飲食店を訪れると、7.53%の確率でひとが恋に落ちる瞬間にでくわす」だ。

 あれ? ちょっとこれ、多すぎないだろうか…。100回渋谷の飲食店へ行けば、7回は恋する瞬間に出会えるってこと? あんまり貴重じゃないじゃん…。ちなみに7%で調べると、「女性で100歳まで生きられる確率」と「80年間の間に泥棒に入られる確率」とのことだった。うーむ、こうなってくるともはや、貴重なのかどうかわからなくなってきた。

 しかしいずれにせよ、私がさきほどの2人を見て、あたたかい気持ちになったのは間違いない。

 再び7%を目撃することを楽しみに、私はコーヒー屋の店内を見回した…。

(完)

 ちなみにフェルミ推定の定義を見直したところ、

フェルミ推定とは実際に調査することが難しいような捉えどころのない量を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、「短時間」で概算することである。

とあった。「短時間」で。これじゃコーヒーを飲みながらで長々と考えていた自分が、まるきりのアホに思えてきた。

 悔しいので次は、「ティンダーで渋谷で待ち合わせしたけれど、バックレられた悲惨なひと」の数でも計算してみることにする。

 それと、たぶんこの計算はいろいろと間違っているので、正しく直せる人がいたらコメントにて教えてもらえれば幸いである。


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