"一生モノの思考法” シャッター商店街で年1万個以上売れる商品が誕生した話
こんにちは、地方企業をマーケティングで強くすることを生業としている時井です。
タイトルにあるように、今回はシャッター商店街で年1万個以上売れる商品のアイデアを生み出した生涯使える思考方法をお伝えします。
この話は、適切な思考方法さえ知っていれば、どんな局面も突破できる可能性があるということを伝えるものです。
その普遍性をお伝えするために、話の題材は今から約10年前の事例とします。
思考を深めるための前提情報
私が商品プロデュースしたお店は、お茶屋さん(以下A社)。
全国どこの商店街にも必ず1軒はあるであろう、昔ながらの日本茶の茶葉を販売しているお店です。
ペットボトル飲料の台頭で日本茶を急須で淹れて飲む人が減少の一途を辿り、若年層の顧客獲得に苦しむのはもちろん、既存顧客も老齢化が進み、消費が先細る不安な未来。
さらにお店を構える商店街は活気が無く、周囲は再開発の影響で品揃えと利便性に勝るスーパーや大型商業施設が多数進出してきている苦しい状況。
そんな中、一つのアイデアがシャッター商店街にありながら年間1万個以上売れる新商品を生み出すことに繋がった事例を基に思考法を伝えていきます。
まずはA社に関連する情報を皆さんと共有させていただきます。
以上、A社の情報。
ここからいよいよ思考法です。
「○○をすると結果が出る」みたいな限定的な条件下でのノウハウや小手先のテクニックではなく、ノウハウを生み出す側の思考を知ることで、高い再現性のある「一生モノの思考」を身につけることに繋がれば嬉しく思います。
シャッター商店街で年間1万個以上売れる商品を生み出した3つの思考方法
例1. 夫婦メインの家族経営ということは、息子や娘の存在を活かせないか
→世代差で能力や知見をクロスできないか
→お茶屋の子育てを切り口に活かせるストーリーはないか
例2. 全国の茶葉を取り扱うということは、全国に仕入れ先がある
→仕入れ先の物流網を活かした企画は練れないか
→仕入れ先の地域別での売れ筋把握から企画検討は出来ないか
→仕入れ先は、茶葉以外も取り扱っていないか
例3. 抹茶アイスを販売しているということは、茶葉の加工技術がある
→茶葉を別の形に成形し、新規顧客や販路を開拓できないか
→茶葉に限らず、リーフ全般の加工法を調べる(スパイス等)
例1. ペットボトル飲料の台頭における不安感を逆手にとれないか
→ペットボトル飲料が市場に浸透した理由や背景を研究して、茶葉を販売するお茶屋さんとしてペットボトル飲料市場と闘うことは出来ないかを考える
例2. 再開発で若いファミリー層が増加し、日本茶に興味関心を示さないことに危機感を感じているが、逆に新規開拓のチャンスではないか
→急須で淹れるお茶を家族で楽しめる体験企画はどうか
→そもそもビギナー向けに急須が無くても楽しめる日本茶などは作れないか
例.
→「全国の名茶巡り」と題して利き酒ならぬ利き茶セットを作る
→茶葉をお客の好みに合わせてブレンドしてオーダーメイドの日本茶を作る
→茶葉を粉砕してパウダー加工し、料理の調味料として提案する
→話題のお菓子屋さんの人気商品に合う日本茶を提案するペアリング企画
→栽培や加工の体験を通じて興味喚起と口コミを狙う食育企画
→日本茶の香り成分を抽出してアロマにする … 等々。
一つの課題に対して100個のアイデアを出そうとすると、脳を真剣にフル稼働させないといけませんよね。
私見ですが、思考を深めたり発案したりすることが苦手な方は、そもそも意識的に思考する習慣自体が少ないように感じます。
まずは一つの課題に対して1日10個×10日ペースで100個のアイデアを出すことを実践してください!おそらく10個ぐらいは思い付きですぐにアイデアが浮かぶことと思います。大事なのは、残り90個を出すために頭を捻って模索することです。類似事例や他社の取り組みを調べ知識をインプットして、自身の課題解決に活かせそうなアイデアを模索する行動が起こると思います。
思考を深めて面白いアイデアを出すためにはあらゆる知識を持ち、あらゆるシーンで応用が利くように本質的な要素を抽出した状態で脳内に知識を保管することが必要になります。
アイデアを100個出す耐久マラソンを完走できれば、得た知識を他のことに置き換えるためには?を考えられる柔軟な思考が出来るようになっていることと思います。
実際にシャッター商店街で年間1万以上売れた商品とは?
上記の思考方法を経て、生まれた商品が以下のものです。
思考のポイント解説
粉末緑茶とは、回転寿司屋さん等で見かけるお湯で溶かして飲むティーパウダー(粉茶)のことです。
その粉茶を封筒サイズの薄いパッケージに入れて販売しました。
以下、ポイントを解説します。
Point➀ 茶葉の仕入れ網と加工技術を活かす
この商品は、お湯ではなく冷たい水道水でも簡単に溶けて美味しくなるよう茶葉の選定とパウダー加工をしました。
水だしで美味しく飲める茶葉を全国の仕入れ網を活用して選定し、高い加工技術で水と馴染みやすい粒子サイズに粉砕してパウダーにしました。
そうすることで粉っぽさのない日本茶の旨みを楽しめる商品に仕上がりました。
Point➁ 売れる価格で商品を設計する
A社への事前ヒアリングと周辺調査から得ていた高単価商品は売れないという事実。A社の商圏では日本茶は当時100g 300円程度が相場でした。
この環境で売るためには、お得感の演出が肝と考えて価格の見え方を設計。商品と一緒に掲示するキャッチコピーを「500mlペットボトル茶が1本17円!
これ一つで50本分作れます。」と打ち出し、コスパの良さを強く訴求しました。ペットボトル茶と比較できる見え方に設計したことが功を奏し、周辺の競合店の日本茶販売価格より5.6倍以上も高い価格の商品にも関わらず、発売初年度から年間1万個以上売れる商品になりました。
80年の歴史がある日本茶専門店が提案することで製品のクオリティは保ちつつ、お客様に「安い!」と感じていただけるものを生んだことで厳しい価格の壁を越えることに成功しました。
Point➂ 自分が作りたいものではなく、市場が欲しがるものをつくる
思考やアイデアを深めるときに陥りやすいのが、自己満足。
思考を深める際には、外的要因から市場ニーズを掴むことが大切です。
A社の場合、周辺環境に若いファミリー層がいる=オーナー夫婦の子育ての経験が反映された商品は可能性があるかもと考えました。
保存料などに頼らない専門店の商品は、子供が安心してゴクゴク飲めるという安心感と、ペットボトルをしゃかしゃか振って作るアクションは子供が楽しめるという子育てをする親が喜ぶポイントを押さえました。
これが急須で淹れる日本茶では、茶器を子供が割る心配や洗い物が面倒くさいと敬遠されたことでしょう。
お客様が欲するものは何か、それを何故ほしがるのかなどを思考方法その1の『と、いうことは…(つまり)』で引き出すのが大切です。
Point④ 閑散期でも闘える商品を目指した
日本茶を専門に扱うお茶屋さんはA社に限らず、夏場の売上が落ちやすい(日本茶=温かい煎茶で冬に飲むイメージが浸透しているため)という課題がありました。
そのイメージを逆転の発想で覆し、日本茶は夏にゴクゴク飲む冷たいものとして提案することにしました。
暑い夏、本来であれば飲料の需要は高まる季節なので必然といえば必然ですが、業界の常識に縛られたまま思考の機会が無いと、冷茶として売るという当たり前のことに気付くのも難しくなってしまいます。
思考方法その2の『現状の「逆」を考える』は当たり前と思っている常識の価値観を破るのに効果的です。
Point⑤ 使われるシーンをイメージする
手紙サイズと小さい上に薄い携行性の高いパッケージにした理由。
これは、使うシーンをイメージする中で必然性のあるものになりました。
水と容器さえあればどこでも美味しいお茶を飲めることを武器にオフィスの常備品として採用いただいたり、ビジネスマンの出張のお供、果ては日本土産として海外に持っていく観光客などを想定して使用シーンから思考を深めました。これがデザイン重視の缶パッケージであったり、シーンをイメージせずに価格だけで勝負したポテチ袋サイズのお得パックでは全く売れなかったであろうと思います。
シーン想起のように、沢山のアイデアを生むのには思考方法その3の『アイデアを100個考える』が効果的です。
Point⑥ 次に繋がることを意識する
安心・美味しい・お手軽の3拍子揃った商品は、口コミで広がりやすく、沢山のリピートを生みました。
大切なのは、年間1万本以上売れる=1万人の顧客ではないということ。
多くの中小企業にとって急拡大はキャッシュフローや人員環境が伴わず、倒産に追い込まれることすらあります。
A社は、ネット通販などでの販路拡大を目指す急成長ではなく、まずは実店舗の周辺にいるであろう潜在顧客を呼び込むことに注力し、実店舗の経営を安定させたい想いがありました。
そこで、本来売上が落ちる夏場を中心に1人で10本買うお客様を1,000人の新規顧客を生み出すことを目指して商品を企画しました。
1個850円の商品を年間1万本販売。この商品だけでは年間僅か850万円の売上です。
しかし、これを買いに来るお客様は今まで存在しなかった1,000人の新規顧客。茶葉は売れずとも粉末緑茶を買いに来たついでに抹茶アイスを買ってくれたり、お中元やお歳暮のギフト需要も伸びていきました。年商はシャッター商店街にありながら2倍にまで伸びました。ネット通販などはこれを10倍以上にする力があるでしょうが、現実的に急成長についていくのは不可能。
初期コストを抑えつつ、ありものの環境で、A社の要望に応える企画として最高の結果になったと自負しています。
最初に書きましたが、この取り組みは10年も前の話。
今はその時の新規顧客1,000人から新しいニーズを組み、毎年新商品を開発、堅調な経営をされています。一発限りの企画ではない、未来を描く企画が大切なのです。
以上、思考方法のポイント解説でした。
0→1のアイデアは狙わない
こうして粉末緑茶はシャッター商店街にありながら、年間1万個以上売れるという結果を生み出しました。
でも実は、売れないだけで昔から粉末緑茶自体はお茶業界に存在していたのです。
なぜ、売れなかったかを自分なりに考えると主原因は3つ。
・お湯に溶かすことが前提であった。
・パウダーへの加工が洗練されていなかったこと。
・茶葉として加工できなかった商品にならなかった2級品を使ったものが多く、品質が伴わないものがほとんどだったこと。
存在しているのに評価されない。
そんな埋もれていたものに、A社が持っていた強みをブレンドして、新しい切り口を見出せたことで、今回の企画は生まれました。
茶葉にこだわり、パウダー自体も粉ぽっさを残さず加工する。そして何より冷茶として飲む切り口は当時斬新でした。それを市場に受け入れてもらいやすいようにペットボトル茶と比較して安価においしく飲める提案がハマりました。
現代は、情報過多な社会。
正直、0から1のアイデアを生み出すのは難しいと思います。
しかし、既にある1と1を足して2にしたものを、さらに掛け合わせて4にする。それは決して難しいことではなく、今回ご紹介した思考方法で再現可能です。
令和に生きる私たちが勝ち筋を見出せる思考方法は、こういうものかなと考えています。
思考を深める練習用のお題
今回は、売れる商品を生み出す思考方法をご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
本文では敢えて新商品企画に絞り、継続的な販売促進のアイデアには触れませんでしたが、同じ思考方法でどのように売れば良いかを検討すると、効果的な販促手段も自ずと浮かんできます。
ちなみにA社の宣伝に掛けられる広告予算は3万円。
それでもシャッター商店街にありながら年間1万本以上の販売という確かな効果が出たのは、思考を深めて最適と思える行動をしたからです。
思考方法を養う練習材料として考えていただけると嬉しく思います。
ここまで読んだ人は、まず実践しましょう!
今回ご紹介した思考方法を実践するうえで、最初の前提条件を出すのに悩む方がいるかもしれません。
今回の事例紹介冒頭で共有した「A社の情報」にあたるものです。
思考を深めるためには、前提条件となる事前情報がとても大切になります。
これは自分で考えると思考を狭い範囲で深めてしまいがちなので、第三者にヒアリングなどで広く可能性を引き出してもらうことをオススメします。
まずは思考する上で必要な前提条件を整えましょう。
その上で、3つの思考方法を駆使すればワクワクするアイデアが生まれるはずです!
【宣伝】本になりました!
終わりに。
頭で考える。一見すると静的なこと。
でも、実は考えるって圧倒的な動的アクション。
学んで、考えて、実践してみましょう。
行動が思考力を育みます。
まずは行動を!
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