名野凪咲

名野凪咲(なのなさ) ゆったりと創作世界だけ、書いていく。

名野凪咲

名野凪咲(なのなさ) ゆったりと創作世界だけ、書いていく。

マガジン

  • 365日のてのひら話

    200文字を基本に500文字までの物語。

  • 時交叉の物語

    夢のお話し中心の短編集 ダークなお話し多め。 一話千文字前後。オリジナル小説

  • 悲しみの向こう側

    詩集。

  • オリジナル詩 過去作

  • メモリードール

    自分の事は何一つ忘れてしまった。 本当は何かを知っていたはずなのに。 気が付くと、記憶のすべてを失っていた少女。 青年に助けられた少女は自分の中に響く声に導かれる。 オリジナル小説。

最近の記事

2024/08/09 絵空事(えそらごと)

「画伯、寝てるよ」 同居人の声に目が覚めた。気が付くとペンが手から落ちている。よだれをたらしてない事がまだ救いだ。 「画伯じゃないよ。ただの趣味」 そう返しながら、時計を見るとティータイムだ。この後夕方に一件、仕事が残っていたなと思い出す。 同居人がコーヒーをサイドテーブルに置いてくれる。趣味なのに部屋の一角がそれらしいスペースになってしまっている。 「淡いね。まだ描きかけ?」 同居人が薄い色の紙を見ながら言う。夏の光の中に出せば消えてしまいそうなほど薄い色だ。 「こ

    • 2024/08/02 「ビーズの日」

      キラキラとした小さなボールが廊下に転がっていた。摘まみ上げると穴が開いているビーズだった。 昔、転がしたままだったものかな……と思ったけど、今更出てくるのはおかしい。 「ビーズって何かに使った?」 同居人に聞いても、使ってないという。首を傾げながら、ビーズを入れているケースに入れようとして気が付いた。 玄関の飾りにこのビーズが付いていた気がする。確認すると一つ、取れていた。 「よく気が付くね。わかんないよ。そんなの」 同居人はそういうけど、自分で作ったものは意外と覚えて

      • 2024/08/08 鮎の宿(あゆのやど)

        山間部の渓流に来たのは、同居人がアユを食べたいと言い出したからだ。 この暑さの中でも山はまだ涼しさを感じる。さらに水につける足は体を冷やして心地がいい。 「行き来できるのは、あちらとこちらのロープの間までです。それ以上向こうには行かないでください」 イベント参加のため、そんな注意が飛び交う。もちろん、事故があってはいけないのだが、気分が半減してしまう。ロープの間は川幅も広く水が緩やかで深みがない。一応、監視員らしい人が四隅にいる。 アユのつかみ取りも出来るが、大半が網を

        • 2024/08/01 「配置薬の日」

          「こんにちは。薬の箱、あるけ(どこにある)?」 大きな箱を持ったおじいさんが家にやってくる。いつもの人だ。 「おかあさーん」 私は母を呼ぶ。母が部屋から薬箱を手にする。薬箱は子供の手の届かない高所にあるので、私では届かない。 「いつも、すみませんねぇ」 「いえいえ。最近は下痢が広がってるようだから、気を付けて」 箱の中から薬を取り出しておじいさんは薬のチェックをしながら会話をしている。私は傍でそれをじっと見てる。 「身体は大丈夫? 遠慮せずに薬を使っていいから」 そ

        2024/08/09 絵空事(えそらごと)

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        • 365日のてのひら話
          418本
        • 時交叉の物語
          1本
        • 悲しみの向こう側
          31本
        • 34本
        • メモリードール
          28本
        • SEVEN ~7~
          51本

        記事

          2024/08/07 帰省子(きせいし)

          「お盆ってそっちもあるの? お家に帰る?」 友人がそう聞いてくるので、『お盆はない』『秋には一度戻ってみる』と返した。 「そうだよねぇ。死者が帰って来るのはハロウィンだっけ?」 「それも少し違う。元々はその土地ごとにそういう風習があったけど、秋ごろというぐらいで日付までは決まってなかった。最近はハロウィンに合わせてるところが多いけど」 バレンタインみたいなものだねと友人が笑う。 「君は帰るの?」 「ここが実家」 友人は僅かに顔を曇らせる。 「父方の方は?」 「向こうはね

          2024/08/07 帰省子(きせいし)

          2024/07/31 「蓄音機の日」

          クラッシックな音楽がリビングに流れている。有名な曲だけれど曲名は知らない。 不思議に思いながらリビングを覗くと見慣れない機械が置いてある。蓄音機だ。傍に同居人がうっとりとソファーでくつろいでいる。 「珍しいね。レコード、どこにあったの?」 「送ってもらった。蓄音機と一緒に」 昨日、大きな箱が届いたのはこれだったのかと思いながら、私もコーヒーを手にソファーに座る。 レコードが終わると、同居人が思い出話をしてくれた。この蓄音機は祖父が気に入っていたもので、小さい頃は毎日のよ

          2024/07/31 「蓄音機の日」

          2024/08/06 熱風(ねっぷう)

          暑い。 真夏の都会。山向こうからの旅行は別世界に来たみたいだ。地下鉄に地下道と移動するだけなら日差しを避けることができるのも異世界だ。 「迷わなかった?」 待ち合わせ相手がそう聞いてくる。がっつり迷った。迷路のような駅を構内図と合わせて現在地を把握して、目的の場所にたどり着くまでに大量の人波をかき分けてすでにぐったりだ。 「迷ったし、酔った」 ひとヒト人……どこにいたのかと思うくらいの人があふれている。 「コンビニでも入って涼む?」 私はそれに頷く。コンビニも思ったよ

          2024/08/06 熱風(ねっぷう)

          2024/07/30 「人身取引反対世界デー」

          「今日、行くところがないの? だったら、ウチくる?」 私に手を差し出してくれたのは、綺麗な髪の男性だった。私が答える前にお腹がぐぅと答えた。 「ああ。わかった。ご飯ね。先にご飯いく?」 私は少し考えて首を横に振る。 「眠りたい? それとも、お風呂?」 慣れてるなと思う。私はそれにも首を振る。 「来ないの?」 男の声に怒りが混ざる。ああ。わかりやすくて助かる。私はもう一度、首を振る。 「そっか。残念」 怒りのままに男は私の足を蹴って去って行った。マシな方だったなと思う。

          2024/07/30 「人身取引反対世界デー」

          2024/08/05 暈(かさ)

          ひょこんひょこ。 遊ぶように茅の輪をくぐったり抜けたりしている子供がいる。 あれは……一方通行ではなかっただろうか。そう思いながら子どもを見ていると、もう一つ気が付いたことがあった。着物だ。 浴衣だと思っていたけれど、帯が簡易で柄が古い。色合いもくすんでいる。 「何を見てるの?」 後からやってきた同居人が後ろからそう聞いてきた。 「あれ……」 そう言って指さすとそこには輪があるだけで子供がいない。 「すごい。おっきい輪だね。あれ、何?」 「……詳しくは知らないけど、厄除

          2024/08/05 暈(かさ)

          2024/07/29 「七福神の日」

          神様たちはいつも争っていた。 『七福神』の座をかけて。 「私がその椅子に座るべきだと思うのよ」 「いや。わしが」「俺が」「おらが」「いいえ。わらわですわ」 「引っ込んでなさいよ。田舎者」 およそ神とは思えない罵詈雑言が飛び交い、時には神通力が飛び交う。七福神に興味のない神様たちは呆れかえって、その喧嘩を止めることもしない。 その裏側で地道に布教に励む神様が一体。 気が付くと残りの席は6つになっていた。それに気が付いた神様たちは喧嘩ではなく亀の甲の占いで席を決めることにし

          2024/07/29 「七福神の日」

          2024/08/04 消滅飛行機雲(しょうめつひこうきぐも)

          うっすらと伸びる雲の中に一筋、雲の消えている線が伸びている。 飛行機雲の逆だ……そう思いながら、うだる暑さの中で空を見る。と、言っても寝ころんだままなので見えるだけだ。 時々動く葉っぱが風の流れを示してる。 「暑い。雲、半分……」 うわごとのような声が隣でした。 たしかに広がっている雲が半分に分断されているようにも見えるが、線は薄くなり、薄い雲と混ざっている。 「飛行機、暑くないのかなぁ」 「僕らの方が暑い。明日は死体」 「死んだら食べてあげる」 あの雲は意外と冷え

          2024/08/04 消滅飛行機雲(しょうめつひこうきぐも)

          2024/07/28 「菜っ葉の日」

          シャリシャリ 変な音がリビングから響いてきた。見てみると友人がお皿にレタスを載せて、それをむしゃむしゃと食べている。 「芋虫?」 思わずそう言ってしまった。両手で葉っぱを持って無表情で食べてる姿はそうとしか見えなかった。 「冷蔵庫に何もなかったから」 そういえば、最近、忙しくて食材の補充をしてなかった。料理に興味のない彼女は、なるべく手をかけないでモノを食べようとする。このレタスもそうだ。 「ドレッシングかけた?」 「かけてない。葉っぱだけ」 「何かかけなよ。味ないで

          2024/07/28 「菜っ葉の日」

          2024/08/03 風死す(かぜしす)

          ふわりと通り抜ける風を感じながらうとうとしていると、ピタリと風が止まってしまった。 風が止まるとジワリと暑さが襲ってくる。先ほどまで暑さと涼しさが漂っていた空気は途端に熱気に変わっていく。 「ぬあっつつつつ」 飛び起きてリビングに降りていくと、同居人はすでに一番涼しい位置を陣取っていた。 「眠れない」 「寝てたでしょ」 同居人に突っ込まれるが、うとうとしていただけで寝ていたのかもわからない。 「寝る」 涼しい場所は諦めて、少し涼しい位置に陣取る。ここなら風が来るはずだ。

          2024/08/03 風死す(かぜしす)

          2024/07/27 「スイカの日」

          グシャ 思ってもない音が響く。私は目隠しをとった。目の前にあったのはスイカではなく、トマトだった。周囲がくすくす笑っている。 「もったいなーい。食べたら?」 スイカはリーダーの向こう側に隠されている。 言いかえそうとした言葉を飲み込んで私は持っていた棒を無言で振り上げた。そのままその場にいた子たちを叩いていく。大人が走って来るのを見て、私は棒を捨てて走り去った。 つまらない。下らない。準繰りのいじめ。 「スイカ、いる?」 そう声をかけられて顔を上げると、いとこのおね

          2024/07/27 「スイカの日」

          2024/08/02 氷菓子(こおりがし)

          凍らせた果実に口に含む。小さなサクランボのような見た目だが、桃だという。知らない果物だ。 「これね。冷たい方が好き」 同居人がそう言って凍らせていたものだ。ティータイムだから食べようという事になった。凍った果実は味がしない。水分が多くて味が薄いものなのかなと思っていたら、じわじわと変わった味が広がっていく。 「これ、何?」 「桃……みたいなもの」 こちらの国にはなくて、翻訳が役に立たなかったのだろう。同居人も説明できず、『甘い果物』と言うばかりでよくわからない。 広がっ

          2024/08/02 氷菓子(こおりがし)

          2024/07/26 「幽霊の日」

          「ねぇ。知ってる? うち、幽霊屋敷になってるらしいよ」 「んあ??」 同居人が変なことを言い出すので、変な声が出てしまった。幽霊屋敷? 田舎の一軒家。殺人も事故も……いや。昔は交通事故が家の前で続いたことはあったけど、今は事故もない。 思い当たることがなくて首をかしげる。 「それだよ」 同居人が私を指さす。浴衣に団扇。夏の装いをした私が幽霊だと言うのか……と思ったが、ふと、近所の子供がこの間、笑いながら走って行ったのを思い出した。あれは笑っていたわけではなくて、叫んでいた

          2024/07/26 「幽霊の日」