名野凪咲

名野凪咲(なのなさ) ゆったりと創作世界だけ、書いていく。

名野凪咲

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マガジン

  • 365日のてのひら話

    200文字を基本に500文字までの物語。

  • 時交叉の物語

    夢のお話し中心の短編集 ダークなお話し多め。 一話千文字前後。オリジナル小説

  • 悲しみの向こう側

    詩集。

  • オリジナル詩 過去作

  • メモリードール

    自分の事は何一つ忘れてしまった。 本当は何かを知っていたはずなのに。 気が付くと、記憶のすべてを失っていた少女。 青年に助けられた少女は自分の中に響く声に導かれる。 オリジナル小説。

最近の記事

2024/04/19 「地図の日」

広げた地図を手にして、途方に暮れる。正確には『地図だったもの』だ。今は、白いだけの紙になっている。 「方向感覚はこの霧では通用せず、地図もこの霧に触れると消え去るなんて迷信かと思ってましたけど」 隣で相棒が感嘆の声をあげた。白い紙に黒い二つの点があるのは、そこが自分のいる場所を示しているという事らしい。 「ここが起点。目の前に道。後ろにも道。左右に森が広がる」 試しに酒場で聞いたおとぎ話を試してみる。『地図だった紙』の黒い点の左右に森の緑と前と後ろに道のようなものがで

    • 2024/05/01 忘れ霜(わすれじも)

      昨日までの生き生きとしていた葉っぱは、今は疲れたように項垂れている。 暖かいどころか、暑い日が続いて忘れていた。今は春だという事を。 「青虫との闘いだったような? でもこれ、食べられてないよね」 隣に座り込む同居人は首を傾げる。 「霜だよ。氷。寒くなるとは言ってたけど、さすがにこの時期はもうないと思ってたのにな」 今年初めて試しに植えた葉物はダメになってしまった。ただ、これの良いところは短期間でやり直せるところ。気分を切り替えて新しく種を植え直す。 次は青虫対策もし

      • 2024/04/18 「発明の日」

        「出来た。出来たよ」 妹が部屋の扉を開けて、そう言ってくる。彼女はいつも何かを作っては僕に見せてくる。大抵はとてもくだらないものだが、時々、使えるモノがある。 今、部屋の扉を開けたのも、半自動装置だ。半自動というのはスイッチ一つで勝手に部屋の扉を開ける仕様になってるからだ。 「うん。で、何を作ったって?」 期待せずにそう聞くと「平和の霧」と返ってきた。 いつにもましてわからないが、妹の必死の説明を聞いても全く理解できなかった。 「この霧には人を幸せにする成分が含まれ

        • 2024/04/30 あやめ

          ひたりと、死の足音がする。 かすむ視界の中で、紫があでやかに伸びる。夏まで持たないと言ったのは誰だったろうか。 咳を小さくしてから、兄が私の額に濡れた布を置いてくれた。ひやりとしたのは一瞬で、次の瞬間それは先ほどと変わらないものになる。 すでに行ってしまった弟と妹が隣にちょこんと座っている。なぜか、小さなころの姿だ。 「何か、ほしいものはあるか?」 兄がすまなさそうにそう言った。私はふっと笑って、「詠んで」と告げる。 『寝る妹に 衣打ちかけぬ 花あやめ』(俳人:富

        2024/04/19 「地図の日」

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        • 365日のてのひら話
          221本
        • 時交叉の物語
          1本
        • 悲しみの向こう側
          31本
        • 34本
        • メモリードール
          28本
        • SEVEN ~7~
          51本

        記事

          2024/04/17 「恐竜の日」

          目の前にある……いや。いるのは恐竜のように見えた。骨ではなくて、肉と皮に羽毛付きの爬虫類。昔は爬虫類のようにごつごつした皮膚だったが、最近の研究では羽毛があったのではと言われている。それに沿って映画やアニメでも羽毛付き恐竜が増えた。 でも、目の前のこれは立体映像のようだ。向こう側が透けていて動きがない。 問題はなぜこんな山奥にこんな立体映像がでてくるのかという事だ。現代科学の力で立体映像がポンポン出せるなんて聞いたことがない。何かの装置があれば別だが、ここにはそんなものはな

          2024/04/17 「恐竜の日」

          2024/04/29 夜っぴて(よっぴて)

          「よっぴて騒ぎ歩いてきたんだ」 耳慣れぬ言葉が同居人の口から出てきたような気がする。 「よっぱらって?」 聞き直すと同居人が首を傾げる。 「お酒は飲んでない。ノンアル一択」 「騒ぎ歩くの前、なんて言った?」 「よっぴて。夜の間中っていう意味だって聞いたけど、使わないの?」 「使わない」 「ええ?? 講師が夜っぴて読書したとか普通に使ってるから、使うものかと」 言語を習ってる同居人は時々、独特の言葉を習ってくる。

          2024/04/29 夜っぴて(よっぴて)

          2024/04/16 「女子マラソンの日」

          「体に気を付けてマイペースで走りましょう」 マラソン大会なんて絶対に完走できないし、無理だ……と思っていたはずなのに、なぜか私はここにいる。百人にも満たない人たちと一緒にスタート地点に立っている。 『女子マラソン』と銘打っているが、有名選手が出るような大会ではない。見渡しても私と同じような趣味で走ってるような人たちに見えた。私だってこの長距離は実は初めてだけど、『リタイアOK、無理せずマイペース。完走できたら焼き肉を奢る』という友人に推されてここにいる。友人は私よりも走る

          2024/04/16 「女子マラソンの日」

          2024/04/28 山吹(やまぶき)

          「無言の花」 友人が黄色い丸い花を指してそう言った。あれはたしか『ヤマブキ』という植物だった気がして、無言の花という意味が分からなかった。 「あの黄色はクチナシを染料にしてたらしいの。そこから、『言わずに伝える花』だって。この国らしいよね」 そう笑う友人の顔は歪んでいた。友人は全て言ってしまう。言わないなんていう選択肢はない。 「この国らしくても、君らしくはない」 私がそう言うと、友人は泣きそうな顔で笑った。

          2024/04/28 山吹(やまぶき)

          2024/04/27 田を起こす(たをおこす)

          とことことこ。 よくわからない機械……からくりが『田んぼ』にするはずの土地に持ち込まれた。田んぼは人に貸している。自分たちでやるには金も手間もかかりすぎるからだ。 借りたのは『多田』という風変わりな男だった。 「好きにやっていいですか? 稲ではないかもしれませんし、失敗するかもしれませんが」 目をキラキラしてそんな風に言うので、草を刈る事というルールを決めて貸し出した。 「田起こしです。これ、すごいでしょ。上手く動いてよかったです」 その口ぶりからして、手作りらしいこ

          2024/04/27 田を起こす(たをおこす)

          2024/04/20 「ジャムの日」

          「ピーナッツクリームとイチゴジャムとママレードのどれがいい?」 そう聞くと同居人はポカンとした顔で「ママレードって何? ジャムって?」と聞いてきた。 「ジャム……えっと。果物を甘くしたパンに塗るあれ。ママレードはオレンジジャム」 ジャムが通じないとは思っていなかったので、必死に脳内から説明単語を引き出す。 それでも通じないので、実物をみせる。 「ああ。ペースト」 ぺーすとは確か、潰したものだったような。いや。私の理解もあっているか分からない。なにせ相手もその言語を母語と

          2024/04/20 「ジャムの日」

          2024/04/26 磯菜摘(いそなつみ)

          異様な匂いがした。魚の干物か海藻のような潮の匂いだ。 ここは海から遠い。その辺りでわかめを干しているなんてことはないと思って、当たりを見渡す。 なぜか庭にビニールシートが敷かれ、その上に階層のようなものが広げてある。 「どう? 海の匂いだよ。貰ったんだぁ。こういうのって今の時期に取るらしいね」 うきうきと同居人がそう言った。ここは山でこの庭は小動物の痕跡もある場所だ。 「わかめどろぼうが出た」 翌日、同居人はそう叫んでいた。

          2024/04/26 磯菜摘(いそなつみ)

          2024/04/15 「遺言の日」

          見知らぬ男が「伯父さんがあなたに遺産を残した」という事を伝えに来た。借金は要らないと答えたが、借金ではなく土地家屋だという。厄介なものを持ち込んできたなと思って一度は断ったが『売れば金になる』と言われて実物を見に行くことになった。 「本当にここ?」 「ええ。そうです」 そこは博物館の敷地の一角だった。 売ればお金になるが膨大な違約金が発生する。相続放棄をしたところでその壁には私そっくりのご先祖様の顔があり、ネット上ではすでに私が遺言に書かれた相手として個人情報が広まって

          2024/04/15 「遺言の日」

          2024/04/25 汐まねき(しおまねき)

          くいくいっと大きなハサミを動かす姿は確かに『汐を招いている』ようだ。 じっとそれを見ていたが、ふいにそのハサミに触れたくなって動いてみる。あっという間に蟹は穴の中に隠れてしまった。私はそのままペタンと砂の上にお尻を落としてしまった。 冷たい。 「おつかれさまー。よくやるね」 友人が単調な口調でそう言って来た。私に手を貸してくれる。 「面白かったよ」 私の言葉に友人は呆れた顔を返した。

          2024/04/25 汐まねき(しおまねき)

          2024/04/14 「オレンジデー」

          ころんとオレンジが足元に転がってくる。アニメなんかではこの後、大量のオレンジが……なんてこともあるけど、現実は一つがコロコロ転がって来ただけだった。 「今後もよろしくです」 同居人にオレンジを返そうとするとそう言われた。話が見えない。まるで嫁入りの言葉みたいじゃないか。 「あれ? バレンタインデーで告白して、ホワイトデーでお返しして、オレンジデーで仲を深めるって聞いたんだけど?」 きょとんとしている私に同居人が説明する。確かにバレンタインデーもホワイトデーもある。でも、

          2024/04/14 「オレンジデー」

          2024/04/24 紋白蝶(もんしろちょう)

          「白いキャベツ蝶」 そのまま読んだ私は首を傾げる。蝶に関する単語らしいという事はわかるけど、どんな意味なのだろうか。 「アレの事?」 同居人が単語を見た後で外を指さした。そこには紋白蝶がいる。 「キャベツ蝶?」 「キャベツを食べる蝶……かな。たぶん」 同居人も昆虫に詳しいわけではなさそうで首を傾げている。 「白い蝶は一緒だね」 私は紋白蝶は『白地に模様がある蝶』という意味だと教えた。たぶん、そんな感じだろう。

          2024/04/24 紋白蝶(もんしろちょう)

          2024/04/23 松の緑摘む(まつのみどりつむ)

          松を見上げると北側の枝がばっさり無くなっているような気がした。 「これ、こんな形だったっけ?」 同居人も同じように松を見上げてそう言うので、私の感覚は間違っていないようだ。それでも折れた枝の跡もないので記憶を必死にたどって思い出した。 「北側は藤が絡んで伸びてなかったのかもしれない」 その証拠に木の下には太めの枝がぼとぼとと落ちている。藤は根元から切ってしまって枯れたのだ。松の下を見ると、これから伸びようとしてる藤のツルがまた巻き付いている。 「キリがないね」 切

          2024/04/23 松の緑摘む(まつのみどりつむ)